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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第1章 敵が侵入って……。

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第186話 決着

 王国歴164年11月8日 夜12時 連合軍本陣周辺にて――


「なんだ、ありゃ?」


 その頃、連合軍後方で待機していたヴァルデック領執事フォルカーの一団は異様な鳴き声に仰天していた。


「フォルカーさま、どうやら牛のようですぞ!」


 鳴き声から判断したコーパスが叫ぶ。ようやくチャンスが到来したとフォルカーはニヤリと笑う。


「お前ら、ようやく出番ッスよ! 作戦は大丈夫か?」

「おう!」

「連合軍を敗北させれば大手柄ッス!」

「うひょう! 燃えるぜ!!」


 馬の手綱を木に繋ぎ、徒歩での出撃を命じる。音を立てないように本陣に近づくと連合軍の兵士が慌てて逃げてくるのが見える。何人かをやり過ごした後、フォルカーの一団は弓を引き絞る。


「今ッス!! 撃て!!!」


 矢がうなりを上げて漆黒の闇を切り裂き、敗走する連合軍に襲いかかっていく。逃げる方角からの攻撃に連合軍は混乱がさらにひどくなった。


「近接戦闘に移行! 別働隊、大声で頼むッスよ!」


 抜剣した50名が剣を振るうごとに辺りに血の匂いが立ちこめていく。しばらく戦ったのを見計らって残りの50名は大声で叫び始めた。


「裏切りだ!! シュトラント兵が裏切ったぞ!」

「退路を断たれる!!」

「みんな逃げろ! 撤退だ!!」


 あちこちに分散しながら、撤退だ! 裏切りだ! と口々に叫んでいく。連合軍も普段であれば、このような流言には惑わされないに違いない。けれども暗闇の中で火牛に追いかけられた兵士たちは冷静な判断力を失っていた。流言に導かれるように連合軍の兵士達はヴァルデック方面に撤退を始める。


 狭い道を我先に逃げていく様子を見て、フォルカーは部下に集まるよう合図を出す。数えてみると1人の犠牲もない。


「上出来ッス! じゃあ……」


 逃げ……そう言いかけたフォルカーは、本陣前で火牛の勢いが鈍いことに気付いた。異様な集団が火牛に対峙しているのだ。重装歩兵がたいまつに照らされてギラギラと鎧を光らせている。その周辺は少しずつ混乱が収まっているように見える。


「重装歩兵!! 参謀イグナーツの仕業ッスね」


 このままでは自分たちの手柄が台無しになる。状況を分析したフォルカーは何をすべきか一瞬で判断する。


(重装歩兵のファランクス(密集陣形)の弱点は右側面と後背。やるしかないッス)


「自分と一緒にあのファランクスを壊してみたい人!」


 30名ほどが手を挙げる。


「ファランクスは後背に弱い兵を配置してるから、そこを集中攻撃ッス。あとレオンシュタイン軍が何とかしてくれる……はずッス。他の兵士は、馬の待機場所で待機!」


 70名の兵は、すぐにその場を去っていった。フォルカーに続いた30名は本陣に向けて走っていく。


 敵まであと100mだ。


(時間との勝負ッス!)


 敵は前面に意識を集中している。火牛がさらに1頭、倒れ込むのが見える。あと50mの所まで近づくとフォルカーは抜剣した。近くに置かれた松明の明かりが剣の抜き身に反射する。松油の匂いが強くなる中、30名の部下は弓を引き絞っている。


「攻撃開始!」


 フォルカーの合図とともに敵の重装歩兵に弓を放つ。至近距離からの攻撃は狙いを外さず、次々に敵に命中していく。何人かの兵が倒れたのを確認し、部下は弓を放り投げて剣を抜く。イグナーツ隊は思わぬ方面からの攻撃で陣形を乱していた。前面の強兵たちも何があったのか、後方を気にし出す。


「ダメだ! お前たち! 前面に集中しないと!」


 イグナーツが叫ぶのと同時にイルマは陣形の綻びに気が付いた。


「敵陣形に乱れあり!! 全員、敵の右側面へ移動する!」


 イルマの声に呼応するように部隊は突撃を開始する。馬蹄が響き、速度を速めながらイルマ隊は重装歩兵の右側へ到達した。


「突き崩せ!」


 イルマのロングソードが唸り、敵が衝撃で後ろにとばされ仲間にぶつかる。それが、ますます陣形の綻びを広げていく。騎兵は次々と重装歩兵をなぎ倒していった。


 フォルカーはその突撃を見ながら叫ぶ。


「危ないから、そろそろ撤退ッス! 全員、逃げろ!!!」


 重装歩兵から距離をとり一目散に逃げていく。フォルカーの部隊が後ろを振り向くと密集陣形が崩れつつあった。


 密集陣形が目の前で壊滅しつつあるのをイグナーツは呆然と眺めていた。しかも火牛はまた呻り声を上げながら勢いを増して前進していく。もはや、連合軍の崩壊は避けられない。


(あと一歩だったのだ、あと一歩)


 臍をかむが戦いの勝機はすでに去ってしまった。イグナーツは自分の元に集まった重装歩兵隊に、鎧を捨て撤退するように命令する。そして、自らはゲオルフのもとへ走っていった。


「ゲオルフさま、撤退を! 味方は壊滅状態です」


 目の前の光景が信じられないゲオルフは、その場に立ち尽くしていた。攻撃してくる人数は100名以下に見える。それなのに、なぜ2000を越える連合軍が敗走しているのか。


「ゲオルフさま!! ここは危険です。近衛兵! すぐにゲオルフさまを守って撤退せよ!」


 すぐにゲオルフの周囲を取り囲んだ近衛兵は撤退を始める。シュトラントの2名はとっくに撤退を始めており、遙か先を走っていた。火牛たちは、さらに追いかけるように走っていくと、1つ、また1つと松明の火が消え始めた。牛たちは狂乱の走りを止め、その場に立ち止まり始めていた。


 無数のたいまつがヴァルデック領を目がけて列をなして進む。レオンシュタインたちは、その光景をただ呆然と眺めるのだった。

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