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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第1章 敵が侵入って……。

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第183話 決戦前

 王国歴164年11月8日 昼12時 ナレ砦付近の街道にて――


 一方、フォルカーの一団は連合軍の糧秣隊や警備隊に出くわすのだが、順調に前進していた。

 

「ヴァルデック領から義勇兵を率いてまいりました。私たちも軍の端にお加えください。どうかヴァルデック領を取り戻す戦いに参加させてください」


 全員が涙ながらに訴えるため通ってよいと許可が出てしまうのだ。この一団が糧秣隊を攻撃している部隊を追い払っていることも信用を高めていた。糧秣隊を攻撃している部隊はフォルカーの別働隊なのだけれども。


「さて本陣近くまで来たのはいいですが、レーエンスベルク辺境伯軍にはイザークっていう頭の切れる奴がいるッス。こいつには私の策が見破られるかもしれないッス。少し、離れたところに陣を構えましょう」


 馬上でフォルカーがのんびりと陣の場所を設定する。その声を聞くと全員が落ちついてしまうというのも1つの才能だとコーパスは思う。


「このまま攻撃しても、やられることは必至ッス。敵の様子から目を離さないようにしてチャンスを待ちましょう」


 そう言うと、ぎりぎり本陣が見えるところで隠密行動に入るのだった。


 §


 その頃ナレ砦にも来訪者があった。村長のレオンシュタインを始め、主だったメンバーが砦まで出向いていたのだ。


「人任せはまずいからね」


 レオンシュタインが砦に行くというのに、ティアナが行かないという理由はない。無理矢理、参加しようとするティアナをレネも止められなかったらしい。早速、ティアナは負傷者の手当てや村への移送を手伝うことになった。


 当然、レオンシュタインも砦を来訪し、兵士たちの間をうろうろ歩いては感謝と謝罪を伝えているのだった。ため息をついたシノは、笑顔を消してレオンシュタインに話しかける。


「レオンさま、ここは危ないので来てほしくなかったです」

「自分だけ安全なところにはいられないな。ここが抜かれたら防ぎようがないし」


 結局、その日の昼は連合軍の攻撃はなかったけれど日が沈む頃になるとすぐに活動が活発化した。


「連合軍接近中! 敵の数は不明です」

「すぐに照明弾を放ちなさい」


 花火のような照明弾が3つほどシノの命で発射される。空中で爆発して大きな光をギラつかせながら、ゆっくりと落ちてくる。その光に照らされた敵は、まるで地獄の使者のように不吉な陰をまとっていた。


「攻撃可能地点まであと100m」


 目に望遠鏡をつけたままの見張りが距離を報告する。ゆっくりといくつもの光が地面に落ちてきて、その中の1つが消えた瞬間、敵軍は一斉に走り出した。


「敵、急速に接近中!!」


 すぐにゼビウスが発射命令を下し、びゅうびゅうと音を立てながら長弓の矢が空中に舞い上がる。照明弾が消えていくため正確な戦果が分からない。


「さらに手前を狙え」


 命令を出しているうちに砦の明かりに照らされて、敵の梯子が迫ってくるのが見えた。敵陣営では参謀のイザークが、ゲオルグたちに作戦を説明していた。


「今日、砦を落とす必要はないのです。落とすぞと思わせるような攻撃をして、相手を疲れさせましょう。被害も最小限にし明日の総攻撃に備えるのです」


 その作戦を忠実に守り、連合軍は朝方4時まで合計5回の攻撃を繰り返していた。連合軍は400人ほどの負傷者を出したけれど、戦闘が可能な兵は2500名を超えていた。一方、砦側は100名ほどの負傷者を出し、予備の兵を隊に入れなければ戦いを継続できないほどだった。


 敵は攻撃する隊を交代させているのに対し、村側はほとんどが戦い続けているため、疲労は限界近くまで達していた。


「わあ!!」


 朝方にかけて静かになったのもつかの間、朝の5時近くになるとまた連合軍が攻撃を開始した。朝方の手薄を狙い波状攻撃をかけてくる。ずっと戦い続けているため砦側の弓勢が少しずつ弱くなっているのが分かる。弓を引く力が明らかに弱まっていた。


 しばらくすると敵は攻撃を止めて撤退した瞬間、砦側の兵士はその場に倒れるものが続出した。第1部隊と第2部隊を交互に休ませることをゼビウスは提案する。


「戦うのはあと1日が限界だ。気休めでもいいので眠らせてやりたい」


 まずは第1部隊から宿舎で休むことになったため、第2部隊のイルマは砦の上に立って警戒を続けていた。イルマの疲労も蓄積しているはずなのに、朝日に照らされたその横顔は、いつものように美しく輝いていた。

 

「うちの隊長、こんな時でもめちゃくちゃ美人だわ。士気が上がるぜ」

「あんな顔して、鬼のように強えんだから反則だよな」


 そう言うと副長コンラートは残った幹部を招集した。


「お前ら、隊長に指一本触れさせんなよ。触れていいのは俺たちだけだ!」


 にやりと笑ったコンラートに、幹部たちは当たり前だとばかりに拳をぶつけてくる。しばらく叩かれた後、コンラートは最後の命令を出した。


「万が一撤退することになったら……。お前ら、隊長を逃すために死んでくれ。俺が真っ先に突撃する」

「おう!!」


 全員の顔に決死の覚悟が浮かぶのだった。


 §


 連合軍の陣幕では、すでに勝利を確信したかのような雰囲気が漂っていた。


「あの砦を落とすのは、どの部隊でしょうね」


 シュトラント伯マヌエルが気軽に話しかける。手にはワイングラスを持っており、すでに酔いが回っている。イグナーツはそれを苦々しく思ったがゲオルグまでが気を緩めている。

 

「ゲオルグさま、最後、敵が騎馬で突撃してくる可能性もあります。防御のために重装歩兵の準備をしておいた方がよいかと」


 イグナーツの進言にゲオルグはそれに手を挙げて必要ないとの意を表す。


「イグナーツ。それは慎重すぎる。精鋭部隊を重装歩兵にしては攻撃力が落ちる。無用だ」

「はっ」


 同時に昼の出撃も却下される。全軍そのまま休むようにとの命を受けイグナーツは陣幕から外に出る。


(我が軍は優勢であるだけで勝ったわけではない。驕りは油断に繋がる。我が一団だけでも備えておくか)


 決戦前に互いの陣営で様々な思いが交錯するのだった。

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