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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第4部 戦いの中で 第1章 敵が侵入って……。

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第176話 第1、第2部隊、出撃せよ!

 王国歴164年10月26日 午前9時 クリッペン村 村長室にて――


「伝令!」


 馬に乗った伝令兵が村に飛び込んでくる。ヴァルデック領の執事がずっと警戒を続けてくれたらしい。村長室に入った伝令兵は直立不動で伝令文を読み上げる。


「王国歴164年10月22日。国境付近に歩兵部隊を視認。旗からシュトラント伯、エッシェベルク伯、そしてレーエンスベルク辺境伯の兵と思われます。その数、3000」


 レオンシュタインの顔が青ざめる。今日は10月26日ということから考えても、侵攻軍はかなり村に近づいているだろう。緊急の軍事会議が開かれ、レオンシュタイン、レネ、フリッツ、ゼビウス、イルマ、シノが参集する。冒頭レネが状況を報告する。


「現在、連合軍約3000人が南下中と思われます。すでに外交的解決は望めません」


 テーブルの上に地図を用意したシノが場所を指さしながら説明を始める。


「ゼビウス殿の第1部隊をすぐに国境のナレ砦に派遣します。長弓と矢を急いで砦に運びましょう。また索敵と情報収集のためにヤスミンを同行させましょう」


「イルマさんの第2部隊は、後発隊として220名の1週間分の食料と、弓矢を7万本輸送してください」

 

 真剣な表情でゼビウスとイルマは地図を見つめている。


「働いているシキシマ国のサムライを300人、予備役として招集します。このうち100人は補給・輸送部隊へ、残り200人は第1・2部隊へ随時編入することにします」


 そう言うと、シノはたおやかな手で机上に木の駒を置き始める。


「では、具体的な戦略を話します。作戦の目的は、敵の侵攻を止め平和をもたらすことです。そのため、戦術的な勝利を積み上げ、交渉につなげます。相手は3000人。私たちは最大限、砦を活用しなくてはなりません」


 そこまで話すとシノは①②と書かれた木の駒を移動させる。


「第1部隊は敵が接近したら弓で攻撃です。どれだけ消費してもかまいません。ひたすら矢を放ってください。敵が引いた瞬間に第2部隊と交代します。第2部隊も弓で連続攻撃です」


 顔を見合わせたゼビウスとイルマは、それだけでいいのかと言いたげだ。その様子を見て、シノは付け加える。


「弓が一番損害が少ないと思います。砦上に盾を準備し、被害をさらに減らすのもいいです」


 そう話し、次の注意点に移る。


「気をつけるのは攻城兵器をもった敵ですが、今のところ報告はありません。魔法に関しては、砦に無効化の石を設置してあります。レーエンスベルクを筆頭に侵略軍は魔法より剣を重視しているため大丈夫と思いますが、念には念を入れます。何か確認しておきたいことはありますか?」


 ゼビウスが手を上げる。


「こちらに別働隊はないのか?」

「別働隊を出すことはできません。開門には危険が伴いますし、かといって山側からは険しい山道を越えられません。ヴァルデック領で義勇兵を編成できれば、後ろから攻撃できるんですが……」


 ゼビウスは曖昧に頷く。3000人の侵攻はやはり驚異だ。


「砦は門を破られないように、扉の後ろに2つの鉄格子を降ろしましょう。ゼビウス殿、砦に着いたら、すぐにお願いします」

「分かった」


 最後にシノはレオンシュタインを見つめて、意思を確認する。


「一番大切なことはレオンさまの意思です。戦いには必ず死者が出ます。それを覚悟の上で村を守ると宣言しなければ私たちは戦えません。その意思を今ここで伝えてほしいのです」


 じっと目を瞑って腕を組んだレオンシュタインは数秒後に目を開ける。


「死者が出ることには胸が痛みます。でも私は、この村を守りたいんです。人々の幸せのために戦う覚悟はできています」


 その言葉を注意深く聞いていたシノは、冷静な声でとんでもない提案をしてきた。


「では村を守るため、そこに控えているイルマ部隊長に死ねと命令できますか?」


 シノがイルマを指さした瞬間、その場が凍り付いた。レオンシュタインは即答できない。


 イルマが死ぬ?


 想像をしただけで先ほどの決意が鈍る。その苦悩を読み取ったイルマは、その場に立ち大きな声で返答する。


「ああ、もちろん戦いに行くよ。主やこの村を守れるなら本望だ」


 傭兵出身のイルマは、そのことをよく理解していた。戦いにはそういった局面があるということを。


「待て、それは……」


 否定するために立ち上がろうとしたレオンシュタインを、横のレネが膝を押さえ静かに頭を振る。そんなレオンシュタインを一瞬、優しい眼差しで見つめたシノだったが、すぐに厳しい表情に戻る。


「では、ゼビウス隊、イルマ隊は砦を活用し敵を必ず撃破してください。そこを突破されると我が村は抵抗する術がありません。命をかけて砦を守りなさい」

「はっ。これより第1部隊はナレ砦に出撃し、敵連合軍を撃破いたします。命をかけて村を防衛いたします」


 ゼビウスは頭を下げて膝をついたまま、返答する。


「第2部隊も後発し、第1部隊と協力し砦を死守します。村とみんなのために」


 イルマも頭を下げて膝をつき、了解した旨を伝える。


「それでは準備が整い次第、第1、第2部隊は進発せよ」

「はっ」


 二人はすぐに村長小屋を出ていき、それを見ていたレオンシュタインは急いで後を追いかけていく。


「イルマ!」


 立ち止まったイルマは、ゆっくりと振り返って敬礼する。


「村長、何か伝達でしょうか?」


 その物言いが気になったレオンシュタインだったが、どうしても言わずにはいられない。


「イルマ! 死ぬのはダメだ。危ないときは逃げて……」


 その瞬間、ビシリと音がしてレオンシュタインは頬を抑えていた。


「レオンさま。それでは村長失格です! 参謀が死守せよと言っているのに村長がそれを否定する。絶対にやってはいけないことです」


 厳しい表情のままイルマは話し続ける。


「それにゼビウス卿に何と言うつもりです? 第1部隊に死ねと言っておきながら、第2部隊は撤退も可と伝えられれば、ゼビウス卿は命をかけて戦うでしょうか?」


 底まで話すと、ふっとイルマは厳しい表情を緩める。


「レオンが私を大切に思ってくれるのは、とても嬉しい。でも、それでは村を守れない。だから私は行く。大丈夫! このイルマさんは、そう簡単には死なない」


 それでも躊躇しているレオンシュタインにイルマは近づく。


「じゃあ、帰ってきたら結婚しよっか」


 そう言うと両手でレオンシュタインを抱きしめ、頬にそっとキスをする。レオンシュタインが何かを言う前に、イルマはすぐにレオンシュタインから離れていた。


 愛おしさに溢れた眼差しと照れたような顔つきを一瞬で引き締め、直立する。


「第2部隊もこれから準備作業に入ります。レオンシュタインさまは村で吉報をお待ちください」


 事務的な報告を済ませるとイルマは敬礼してウインクし、走り去っていった。


 その場にたたずむレオンシュタインの様子を遠くから見つめていたシノは、寂しそうにうつむくのだった。

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