第175話 臨時収入ですよ
王国歴164年10月4日 午前10時 クリッペン村 村長室にて――
バルバトラスが王都に旅立つ前に、やらなければならないことが1つあった。サラやレネと話したボーナスの件だ。急遽、村長小屋にレオンシュタインの村造りに協力しているメンバーが集められる。
村長レオンシュタイン、統括レネ、外交フリッツ、教育バルバトラス、魔法ティアナ、部隊長イルマ、ゼビウス、斥候ヤスミン、服飾・出版シャルロッティ、参謀シノ、勧誘・弓ケスナー、建築ディーヴァ、水回り全般オイゲン、水路アレック、時計ハラルド、奇術アルベルト、絵描きクンツ、農業ルカス、食堂ローレ、木工職人オリバー、造船ジーナ&レベッカ、磁器ヨシアスの総勢23名だ。
奇跡的に全員が村に滞在していた。
「それでは、これからもよろしくお願いします」
頭を下げながら一人一人に手渡されたのは小金貨10枚(1000万円)の入った麻袋だった。
「みなさんの力はそんなものじゃないと思います。でも、今までの感謝を……」
するとケスナーがレオンシュタインの肩に手を回して力を込める。
「固い、固いよ~。レオンシュタインちゃん」
いつものようにからかってしまい、みんなは笑いながら賛同する。実際、そんなお金では雇えない人たちばかりだった。オイゲンはイタリアに度々招かれ、水道造りの名手として公国から年俸大金貨20枚(約2億円)で招聘されそうになったことがある。
それなのにそれを断り、この小さな村で働くことを選択したのだ。
「いいんだ。レオン! 俺はこの村が好きなんだ。仲間たちも」
クンツとオリバーは少しきまりが悪い。
「俺ら、そんな役に立ってないのに、もらっていいのかな?」
ムキになってレオンシュタインはそれを否定する。
「クンツさん、オリバーさん。右も左も分からないこの村に来てくれて、自分が好きなことに挑戦してるじゃないですか。渡したお金は少ないくらいです」
決して少なくない。2~3年は優に暮らせるお金なのだ。
けれどもレオンシュタインは知らなかった。
クンツの絵は個展を開くたびに行列ができるくらい人気が出ていたことを。海の風景画は特に人気で、すでに高額で取引されるようになっていた。クンツの絵を学ぼうと、弟子入りする芸術家も増加しているくらいだ。また人物画はさらに好評で代表作「赤い髪の毛の少女」は小金貨8枚(約800万円)で購入されていた。
モデルはイルマだともっぱらの評判で、ルカスがその絵を購入していた。人々の生活に芸術を楽しむ余裕が出てきている証拠だった。
オリバーは工房オリバーを設立し、小さな人形作りとからくり人形作りに取り組んでいた。小さな木彫りの人形は家の居間や玄関を飾り、すでにたくさんのファンが購入していた。
からくり人形はハラルドの時計と合わせて鳩時計を完成させていた。また、動く人形などのおもちゃ作りにも取り組み、子どものみならず、大人にも大盛況のお店となっていた。この工房には30人近い職人たちがすでに働いているのだった。こちらも人々の生活に大きな潤いを与えていた。
すると、そこにヨシアス卿が参戦する。
「気にすることはないぞ。私など、この前ここに来たばかりだというのに、もらっているからな」
後ろにいたシノの目が『気にしろよ』と言わんばかりに、氷点下以下に冷たくなる。しかもヤスミンにちょっかいを出して、はっきりと拒否される始末だった。
「マスター、私、あの人苦手!」
ヤスミンはレオンシュタインの側から離れない。
「ははっ! この村の美少女たちは恥ずかしがり屋ばかりだな!」
遠目から眺めていたシャルロッティは、メモを手にしながらうんうんと頷いている。
(ヨシアス卿、ある意味あっぱれやな。メンタル鋼は伊達じゃないわあ)
と、感心しながらメモに余念がなかった。
そんなシャルロッティは、すでに『LOTTI』ブランドを立ち上げて、村で大人気の服飾屋となっていた。特にグブズムンドル風のシャツが大好評で、珍しい造形で機能的なこの服は村で爆発的に売れていた。
その上シャルロッティは少女文芸の人気作家にもなっていた。最近ではエッセイなども書き始め、その才能の幅を広げていた。
「おとんとおかんも呼び寄せて、一緒に暮らすんや」
それも、もうすぐ実現しそうなシャルロッティだった。
みんな午後から仕事に戻るため、遅い朝食をみんなで食べることになっていた。ビールと焼き肉とサラダが用意される。
「では、村の発展に向けて乾杯!」
全員がジョッキを高く掲げ、乾杯をするそばから、山盛りの肉がどんどん無くなっていく。
「でも、村もでかくなったなあ」
「本当だ。来たときは、何も無かったのになあ」
周囲を見渡しながら、みんなしみじみと感想を述べる。バルバトラスはジョッキのビールを飲み干すと、
「じゃあ、行ってくるわ!」
と、その場を後にした。
「この村は、まだまだこれからだ! マグロ組とカジキ組を連れてヴァルデック領の船着き場をつくりに行ってくるわ!」
ディーヴァもすぐに旅に出てしまう。
「主。最近、主とご飯、食べてなかったなあ。やっぱり一緒に住も」
レオンシュタインの近くに皿を置いたイルマは、隣に座って片目を瞑る。
「は? レオンは私と一緒に食べてるから間に合ってるよ。イルマは遠慮しないで隊の皆さんと食べたら?」
向かい側に座ったティアナの言葉に、シノが参戦する。
「イルマさん、ティアナさん。レオンさまは私のつくる朝餉をいたく気に入っております。お二人は遠慮しないで、朝はゆっくりとお眠りになってかまいませんよ」
黒い部分を隠そうともせずシノが二人に宣言する。
「でたよ。この腹黒女! ティアナ! こいつ何とかしないと」
「だね。シノは絶対悪い女だと思う」
「こいつとは失礼ですね。こんな淑やかな優しい女性に向かって」
「そういうとこだぞ! シノ!」
いつも通りの風景がそこには広がっていた。まだまだ、この村は発展する。そう思いながら、青空の中の太陽を眩しそうに見つめるレオンシュタインだった。




