第173話 ゴールドラッシュ
王国歴164年9月29日 午前9時 クリッペン村 村長室にて――
「村長、当たったよ」
まるでくじが当たったかのような気軽さで、サラが村長の小屋に入ってくる。
「何が当たったんですか? ケーキですか?」
「どでかい金鉱脈にぶち当たったのさ。凄いよ」
椅子に腰掛けていたレオンシュタインがのんびり尋ねたのに対して、サラはテーブルに手をつき大きな声を出していた。片目を瞑ったサラは、おめでとうというように口笛を鳴らす。レオンシュタインは、すぐにレネとフリッツに連絡をとり、二人は慌てたように村長室に入って来た。
奥で洗濯をしていたティアナも何事かと様子を見に来る。サラはすぐにでも調査に出たいとレオンシュタインに頼み込んでいた。ただ、事が事だけに秘密にしなければならないし、強盗等にも注意しなくてはならない。レネとフリッツは早速人選に入る。レオンシュタイン、レネが確認に行くことになり、ティアナとヤスミンが護衛に当たることになった。
レオンシュタインの村長室は軽い興奮に包まれ、準備作業はあっという間に済んでしまう。サラは4人を馬車に乗せて出発した。
「じゃあ、1週間後に戻ってくるよ!」
「ええ? そんなに遠いんですか?」
不測の事態に備えて留守番になったフリッツは、その遠さに懸念の声を出す。現在、軍事進行の可能性もある村を長く留守にしておくのが危険だ。出発も極秘にすることになる。
「あんまり知られるとマズイからねえ」
運転席のサラが荷台の4人にぽつりと漏らす。昔それで悲しいことが何度も起こったのだそうだ。
「人間、簡単にお金が手に入ると分かればどんなことでもしちゃうから……さ」
自然と口数が少なくなる4人だった。3日の夜に目当ての洞窟近くまできたレオンシュタイン一行は、とりあえずその日は荷台で寝ることにする。火を焚きたいところだけれど、用心のためにレネとレオンシュタインが隣り合い、ヤスミン、サラ、ティアナの3人が抱き合って眠ることにする。
時々、ヤスミンが『探知』の魔法を唱えたけれども、標高500mを越える山には誰もいないのだった。
§
翌朝、サラは4人を先導し、鉱山に軽い足取りで入っていく。坑道は2mほどの高さで、レオンシュタインはやや腰を曲げながら奥を目指す。鉱山は所々、蝋燭が灯されていきぼんやりと明るい。50mほど奥に入っていくと、蝋燭の明かりでもそれと分かる輝く壁が見えてきた。その前に立ったサラは4人を手招きする。
「これさ」
ハンマーで叩いた場所から、金色の光を含んだ石が落ちてくる。サラはそれを拾い上げると、松明の近くでその光を確認してもらう。
「金、銀が含まれてて周りには水晶もあるよ」
そう言うと、サラはレオンシュタインに1つ手渡し、さらに壁を叩く。レネ、ヤスミン、ティアナにも手渡すと、サラは壁の近くを詳しく観察する。レオンシュタインとティアナは頭をくっつけながら、石を眺める。石のことは何も分からない二人だが、金がたくさん光っていることは容易に分かる。
レネもその光に興奮していた。
「今まで見てきた金山の中でもピカイチだねえ。ここは」
さらに壁を崩しながら、サラは石の様子を確かめていく。
「この含有率なら、1ヶ月で大金貨30枚程度(約3億円)にはなりそうだね。しかも銀まで含んでいるときてる。銀も月に銀貨5000枚(約5000万円)にはなりそうだよ」
意味ありげな視線でサラはレオンシュタインをじっと見つめる。
「で、村長さんはどうすんの?」
「1年間の期限を区切って、村の税金を半額にしましょう! あ、あと、今まで一緒に来てくれた人たちにボーナスを支払います」
一瞬考え込んだレオンシュタインは、考えをまとめてきっぱりと答えていた。今まで一緒についてきた人たちは、グブズムンドル帝国から帰って来てからも最低限のお金しか支払われていなかった。最初の6ヶ月は1ヶ月銀貨5枚で働いており、最近はようやく銀貨15枚になったけれど十分とはいえなかった。
というより少なすぎた。
レネ、フリッツ、バルバトラスは、月小金貨3枚(300万円)でも雇えない人材だ。ティアナ、イルマ、ヤスミン、シノに至っては、お金をどれだけ積んだらきてくれるのか分からないくらいなのだ。
「レネ。一人あたり大金貨1枚(1000万円)でどうだろう?」
「レオンさんについてきている人には、あまり必要ないと思いますが……」
それでも、レオンシュタインは頭を振る。
「いや、経済的に自由であることも大事だと思う。レネさんだってアイシャさんを連れてこないといけないし、家だって必要でしょ」
アイシャのことを気にかけてくれるレオンシュタインの気持ちがレネには嬉しい。胸が温かい気持ちで一杯になる。
「そうですね。今回はそれでいいと思います。今後のことを考えて毎月の給金とボーナスは確定しておきましょうか」
「うん、そうしよう」
二人のやりとりを見ていたサラは開いた口が塞がらない。サラは慌ててレオンシュタインに詰め寄っていた。
「ちょ、ちょっと。村長、あんたはどうすんの? 毎月大金貨が35枚入ってくるんだからさ、自分の家を立て替えるとか、別荘つくるとか、いろいろやることあんでしょ?」
レオンシュタインは首をかしげる。
「自分も、みんなと同じ家でいいですよ。それに、もう欲しいものは、みんなからもらってるし」
別世界の人間を見るような目でサラはレオンシュタインを凝視している。レオンシュタインはモジモジしながら話を続けている。
「村の人たちが立派な家を建てられるようになったら、自分も建てようかな」
片膝を地面につけたレネは、ずっと頭を下げたままだ。肩をすくめたサラは諦めたように呟く。
「ま、こんな村が1つはあってもいいのかな」
「何だか、ごめんなさい……」
何となく謝ってしまうレオンシュタインだった。レネの方を向いたサラは感動を抑えた声で話しかける。
「レネ。あんたの見る目は確かだねえ。この人は……ほらっ、みんなが幸せになるってやつを叶えてしまうかもしれないよ」
「私は叶えると思ってますよ。会ったときからずっと」
顔を上げ笑顔で答えるレネの前で、レオンシュタインは照れているのか、あたふたしてしまう。その様子をティアナとヤスミンも笑顔のまま見つめている。思い切り膝を叩きながら、サラは宣言する。
「じゃあ、私も本気を出そうかねえ。確かヴァルデック領に未調査の山があるらしいけど行っていいかい?」
「もちろん。でも今は止めてください。あちらは、こちらよりも治安が悪いんで」
「そっか無理はいけないな。じゃあ、もう少しクリッペン村の山を調べ回るわ。見つけたら、また減税になるのかな?」
「はは、今のところ、そうですね。いや、人を応援するというのもいいかも……」
「やりがい、あるなあ」
そう話しながら全員、出口に向かっていく。
この鉱山によってクリッペン村が急速に発展することになるのだが、5人はまだそのことに気付かないのだった。




