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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第3章 凶報に打ち勝つ夢

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第169話 マヌエル卿の憂鬱

 王国歴164年9月4日 朝7時 シュトラント城 謁見の間にて――


 その日シュトラント伯爵マヌエルは機嫌が悪かった。ヨシアス卿がクリッペン村から戻り、謁見を求めているという報告をマヌエルは寝室で受けたからだ。……朝の7時に。


「ヨシアス……相変わらず空気の読めない奴だ。しばらく謁見の間で待たせておけ」

「はっ」


 すぐにヨシアスの元に走った執事は応接室で待つように言伝をする。来訪の理由が分かっているだけに帰れとも言えない。ゆっくりと謁見の準備をしたマヌエルは、2時間後にヨシアスを部屋に招き入れた。


「ヨシアス卿、ご苦労だった。で、成果は?」


 謁見の間で平伏するヨシアスにマヌエルは冷静な声をかける。ただ目には熱が感じられなかった。


「はっ。まずティアナ殿ですが、すでに出奔されておりました。行き先はグブズムンドル帝国ということです」


 驚愕の声が返ってくるかと思いきやマヌエルは冷静なままだった。


「次にクリッペン村の状況ですが、村の鉱山から出てくるのは石ばかりだとレオンシュタインは嘆いておりました」


 全く返事は返ってこず逆にヨシアスは気味の悪さを感じる。


「最後にヴァルデック領を大金貨800枚(約80億円)で譲り渡す件ですが、すぐには金を用意できないけれどいいのかと言われたので、いいと答えました」

「そうか」


 ようやくマヌエルは声を出した。昨日、マインラートから聞いていたことと、ほぼ一致する。とすれば、ティアナを捕らえられる可能性は低い。また、鉱山からも特に収入はなくヴァルデック領の委譲に関するお金もすぐに支払えない。ならば村へ攻め入っても赤字になる可能性が大きい。


「ヨシアス。ご苦労だった。あと、領土の件は本当によかったのか?」

「未練はありません。私に領土経営は難しすぎました」


 心からマヌエルに訴える。


「分かった。では領土の委譲は認めよう。再度、私の巻物をもってクリッペン村に行ってくれないか?」


 とんでもないとヨシアスは慌てて首を振っていた。


「ええ? もうあんな田舎に行くのは嫌です。可愛いお姉さんもいないし」

「まあ、そう言うな。これで終わりだ」

「領土委譲のお金も払えない……。そこまで貧乏な村だとは思いませんでした」


 ヨシアスが嘘がつけない性格だと知っているマヌエルは思わず笑ってしまう。最初の報告と同じ事を話しているのに気付いていない。


(どうやら本当のようだな。ならば)


「ではヨシアス。達者で暮らせよ」


 執事が用意した金の入った麻袋が手渡される。


「マヌエルさまに心からの感謝を。今までお世話になりました」


 そう言うと謁見の間から出て行った。窓からヨシアスの様子を眺めていたマヌエルは、冷酷な声で執事に尋ねる。


「ヨシアスを消した方がいいか?」 

「あの御仁にしゃべられて困ることは何もないでしょう。放っておくに限ります。もう貴族でもありませんし」


 頭を下げたまま、執事は熱のない言葉で話す。ただ次の言葉には焦りの感情が含まれていた。


「そんなことより、あのお方からの要求はどうします?」

「正直に言うしかなかろう。使者を出して報告をさせよう。兵はいずれ出すことになるだろうが、それにも金はかかる。女一人にあの熱の入れよう……。とにかく時間は稼ぎたい」


 頭を下げたまま執事は身動きもせずに黙っていた。


「我が領土はそれどころではない。明日も反乱の制圧だ。まずは隊長を呼んでくれ」


 執事はすぐに部屋を出て、隊長を呼びに行く。


「全く、思い通りにならないことばかりだ」



 §



「いやあ、刺客が怖くて連れてきたよ」


 自分の領土に戻ったヨシアスは、フリッツとの待ち合わせ場所に騎士と兵士が脇に控えていた。


「あと、執事にしばらくは領地経営を任せると話してきた。あいつ、いい奴なんで是非配下にしてやってほしい」


 笑顔でそれに応じたフリッツだったが、騎士10名、兵士30名全員を連れてきて領土は大丈夫なのか?


「ああ、うち盗賊は少ないんだ。税率が低いからかな? ただ、そのせいで俺に全然、お金が入ってこない。執事が税率低い方がいいって言うから任せたんだが……」


 執事はどうやらまともそうだ。いや、ヨシアスも基本的なところではまともなのだ。

 

「じゃあ行きましょうか。イルマさんやシノさんに会いたいし」


 フリッツは苦笑しながら、ヴァルデック領の兵士たちに合わせて、ゆっくりと馬を走らせる。


「フリッツ卿」

「フリッツさんでいいですよ」

「実はな……フリッツさん、私もクリッペン村においてもらえないか。マヌエル卿は恐ろしい人だ。いつ気が変わるか分からない」

「そうですねえ。レオンシュタインさまに聞いてみてからですね。駄目とは言わない気がします」


 フリッツに同意するようにヨシアスはうんうんと頷く。


「あいつは昔から優しい奴だった。困った人をそのままにしておけないのさ。まあ、それに甘えるばかりじゃ悪いから、俺もあいつのために働いてみるかな」

「じゃあ、まずは全員無事に村へ帰りましょう」


 一行はゆっくりとクリッペン村へと進んでいくのだった。

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