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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第3章 凶報に打ち勝つ夢

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第168話 フリッツの演技

 王国歴164年9月4日 午前10時 エッシェベルク城 謁見の間にて――


「フリッツ、久しいな。今日は何用だ?」


 エッシェベルク子爵マインラートはフリッツに鷹揚な態度を見せていた。フリッツが謁見の間を訪れるのは、これで二度目である。部屋の中央で大きな椅子に座ったマインラートの周囲には護衛が4名、執事が1名、安全を守るように立っている。


 豪華な壺や彫刻が多く、壁にも大きな人物画が掛けられていた。


「村での雑務に追われ、マインラート様にご挨拶をするのが遅れまして誠に申し訳ありません。新しい領土からの贈り物をお届けに参りました」


 脇に置かれた麻袋を執事に差し出すと、執事が安全を確認してからマインラートに手渡す。


「ほう、小金貨20枚(約2千万円)か。クリッペン村は豊かなのか?」


 指で金貨を摘んだマインラートは、その色を楽しんでいた。

 

「酷いものでございます。その金貨は会計を操作しまして、ようやく貯めたものにございます」

「ふむ、何が酷いのか?」


 顔をしかめながらフリッツはうんざりした、という表情を見せる。


「交通の便が悪く人がやってこないのです。人口は増えず産業も育ちません」

「まあ、そうだろう。もともとクリッペン村は流刑地だ。豊かならば流刑地などにはならんものよ」


 執事に金貨の袋を戻し、飲み物を用意するように命じる。


「あと、2週間ほど前、領地にヨシアス卿が参りまして」

「なるほど、そちらの相談に参ったのか」

「ご賢察の通りです」


 マインラートは口元に冷酷な笑いを浮かべる中、執事が飲み物を持って部屋に入ってくる。盆の上にワインボトルとグラスが2つ載せられていた。グラスを一瞬だけ鋭く見つめたフリッツは、何もついていないことを確認する。


「フリッツ殿は、ワインに興味があるのかな?」

「気付かれましたか……。最近はワインなど飲めておりません。どんな銘柄かと興味がわき、ついラベルを読もうとしてしまいました。恥ずかしいです」


 頭を下げたフリッツへ、マインラートは蔑むような視線を一瞬だけ投げかける。


「これはモーゼル地方から取り寄せた白ワインだ」

「さすがマインラートさま。一流のワインをお飲みになっておりますな」


 顔を輝かたフリッツは顔を上げて、マインラートをおだて上げていた。それを鷹揚に受け流し、執事からグラスを受け取るとマインラートは少量を口に含む。周囲にも分かるような芳醇なワインの香りが広がる。


 執事からグラスを受け取ったフリッツは、その匂いを楽しむ振りをして再度グラスに毒がないかを確かめていた。


「いただく前にご相談がございます」

「聞こうか」

「実はヨシアス殿から借金の肩代わりを申し込まれました。金額は大金貨800枚(約80億円)でございます」

「大金貨800枚……。どうしてそんな大金を?」


 ワインを飲むのも忘れ、マインラートは溜息をついていた。


「領土経営に失敗したようでございます。そのため、その借金と肩代わりに領土を委譲するとのこと。ただヴァルデック領はマインラートさまのエッシェベルク領と隣接しております。そのため、この話はマインラートさまにお譲りしようと思った次第」


 平静を装いながらもマインラートは苦い表情を隠しきれない。


「フリッツ。その気持ちは嬉しいが、レオンに相談を持ちかけたのなら、レオンが受けてもよいように思う。あやつも子爵程度は名乗っていい頃だ」


 きっぱりと断る。


「寛大なお言葉、ありがとうございます。あと、このお話はシュトラント伯爵にもっていくべきでしょうか?」

「いや、兄上はすでに多くの領土を経営している。ヴァルデック領のような辺境はレオンが治めた方が嬉しいだろう」


 内面の喜びを隠すためにフリッツはあえて渋い顔を作る。


「わかりました。では、このお話は私どもが承ります。ただ、大金貨800枚……」

「そこはフリッツの腕のふるいどころであろう」


 マインラートはそこで話を打ち切ってしまったため、フリッツは次の話を切り出す。


「実はティアナを正室にという申し込みがありましたが……。ティアナはレオンシュタインに愛想を尽かし、すでに出国しております」

「ほう、兄上も物好きなことだ。レオンシュタインの手が付いた女性を所望とは」


 既にティアナに興味を無くしているマインラートにとって、その真意は分からなかった。


「ティアナが既にいないというのに、引き渡しを求められて困っております。何かいいお知恵はありませんか?」

「その場合、まず我が軍が派遣されることになるが」


 その瞬間、フリッツは地面に這いつくばる。


「マインラートさま、どうかそれだけはお許しください。うちには兵士がおらず降伏するだけでございます。占領されても差し上げるものが何もありません」


 やや自尊心をくすぐられたマインラートは、尊大な態度でフリッツを見下ろしている。フリッツはそれを見逃さず、すぐに懐から1つの麻袋を取り出した。


「マインラートさまのお力で、どうぞ攻撃を回避させていただけないでしょうか? 争いに巻き込まれ、命を落としたくないのです」


 そう言いながら執事に麻袋を手渡す。麻袋の中には小金貨10枚(約1000万円)が入っており、マインラートはそれを確認すると執事に袋を戻す。


「分かった。すぐには侵攻しない」

「あ、ありがとうございます。ただ、マヌエルさまは……」

「まあ、しばらくは侵攻は難しいだろう。実は、領民の反乱に手を焼いているようでな」


 マインラートのエッシェベルク領でも反乱が起きているらしく、その対応で城内はざわついていた。

 

(領地経営が思わしくないのだ。これも僥倖)


「フリッツ。兄上はしばらく侵攻はしないだろうが必ず侵攻する。ティアナの件は私からも話しておくが期待はしないように」

「いえ、そのお言葉、何よりも嬉しうございます。やはりマインラートさまにお話ししてよかった」


 何度もお礼を言いながらマインラートの居城を立ち去る。


(レオンシュタインさまはやはり豪運! 十分に対策できる時間がある。それに、ヴァルデック領もすんなりと領有できそうだ)


 馬上で嬉しさを噛みしめながら、フリッツは村への道を急ぐのだった。

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