第165話 参謀長誕生
王国歴164年8月12日 午前10時 クリッペン村 村長小屋の中にて――
「シノさん、早速、防衛計画について話し合いましょう」
「かしこまりました」
シノは律儀に頭を下げる。目まぐるしく変わる状況にレオンシュタインはテーブルの上に肘をつき思わず溜息をついてしまった。レネはそんなレオンシュタインにドライフルーツをすすめる。
「レオンさま、一人でできることはわずかです。そのために私たちがおります。安心してお任せを」
レオンシュタインを励ましたレネは、ゼビウス、イルマ、シノを地図の前に呼び寄せた。
「まず、指揮系統をはっきりさせましょう。村長が大方針を出し、それを参謀が補佐し、各種命令を各将軍に伝達することにしましょう」
レネの話す内容をフリッツが紙に記入していく。
「シノさん、何か付け加えることはありますか?」
「将軍は、ある程度、自分の考えで動いてもらった方がよいと思います。失敗しても理由によっては大きな罰を与えない方がよいと存じます」
「なぜ? 信賞必罰は武門の常ではありませんか?」
シノはしばらく形の良い顎に手を当てながら考え込み、諄々と諭すように話し始める。
「負けた原因が一人に起因することは少ないように思います。任命した方は? 作戦を立てた方は? 外交で防げなかった方は? 複合的な理由があり罰は逆に人を萎縮させてしまうように思います」
「しかし、責任の所在を明らかにしない軍はダメなのではありませんか?」
テーブルの側を行ったり来たりしながら、シノは自分の考えを整理していく。
「そうすると命じられたようにしか動けない軍となります。失敗を恐れる軍は、敵よりも味方を恐れているといえます。それでは勝利はおぼつかないです」
「なるほど、一理ありますね」
「また、その場合、誰に罰を与えるのですか? 失敗して常に参謀や君主が罰を与えられていたら国は成り立ちませんよ?」
信賞必罰は東洋の考えのようだがシキシマ国では違った考えが伝わっているようだ。罰の概念が大分違っている。
「分かりました。将軍の動きについてはシノさんの考えを元にしましょう。では、騎士団についてはどう考えますか?」
「騎士団というより騎兵がよいと存じます。重い甲冑も不要です。騎射の力を上げ、初めは弓で遠距離攻撃、相手を攪乱できたら近接攻撃に移行する戦法はいかがでしょう?」
ゆったりとシノは返答する。他のメンバーたちは彼女の話に聞き入っていた。
「硬い甲冑は不要ですか?」
「たくさんの弓兵を揃えられれば制圧されしまいます。隣国でそのような例を聞きました。槍での突撃は限定された場面でしか効果がでません。騎兵はその機動力を生かして様々な場面で活用できます」
「シキシマには、そのような騎兵があるのですか?」
シノは悲しそうに眉をひそめていた。
「シキシマでは馬を揃えることができなかったのです。軍馬を数多く揃えること。これは経済力がなければ不可能なのです。知り難きこと陰の如く、動くこと雷霆の如し。私がシキシマで模擬戦をするとき一番大切にしていたことは、この2点です」
(どうやら本物のようだ)
レネはシノの能力を見定めると、次に歩兵の編成について尋ねる。
「歩兵は、前方に長槍やハルバードを持たせた部隊、後方に長弓部隊を混合させるとよいと思います。重装騎兵の突撃がある場合、これで防ぐことができます。シキシマのサムライは長弓に長けておりますので、歩兵部隊後方へ配置がよいと思います。彼らは弓が使えなくなれば近接戦闘も可能です」
そこまで話すとシノは椅子から立ち上がりに、テーブルに置いてあったハーブティーを自分のカップに注ぐ。冷えていたお茶は少し興奮気味だったシノを冷静にさせる。レオンシュタインはといえば、シノの横で話を真剣に聞き入っていた。軍事の話は初めて聞くことも多く、内容も興味深い。
まずはイルマやゼビウスに歩兵の指揮官となってもらい訓練をするしかない。閉会しかけたとき、シノが一言付け加える。
「ああ、あと、あのヨシアス卿とかいう御仁はシュトラントの間者と思われます。その証拠を掴んだら、逆にこちらに取り込んで反間(敵のスパイをこちらのスパイにしてしまうこと)にすべきです。モミジ、カエデ」
シノの声に音もなく二人の侍女が姿を現す。
「は!」
シノの前でかしこまる二人にヨシアス卿の動きを探るよう命令すると、目の前から消えるように走り去った。
「あの二人はサイサク(忍者)です。きっと情報を掴んでくれますよ」
口を押さえて笑うシノが、少し怖いレオンシュタインだった。




