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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第3章 凶報に打ち勝つ夢

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163/283

第163話 ティアナに求婚?

 王国歴164年8月12日 午前10時 クリッペン村 村長小屋の中にて――


 ヨシアス卿は下げられていく料理に未練を残した視線を送る。


「無念……。料理も女性も」


(こいつ……メンタル、鋼かよ)


 シャルロッティは軽く突っ込むが、そのブレない姿勢は好感がもてた。もちろん小指の先ほどだったけれど。このような男でも一応子爵という貴族であるため、村の主要閣僚が招集される。村長レオンシュタイン、統括レネ、外交フリッツ、法律バルバトラス、軍事ゼビウス、農業ルカス、建築ディーヴァ、鉱山サラ、水関連オイゲン、運輸ジーナが一堂に会す。


 相変わらず村長宅はぎゅうぎゅうだった。


「レオン。会議はもう少し広いところにした方がいいぞ。俺のような外交の使者も来るからな」


 上席でヨシアス卿は、まともなことを進言する。村のみんなが裕福になったらとレオンシュタインは考えており検討しますと短く答える。遊びに来たとばかり思っていたヨシアス卿が、外交の任を帯びていたことにレオンシュタインは驚きを隠せない。


 ヨシアス卿はすぐに用件を切り出した。


「1つ目はシュトラント伯からの要望で、配下ティアナ・フォン・アルプレヒトを正室として迎えたいとのことだ。ま、結婚の申し込みだな」


 閣僚全員が驚愕の表情となる。驚きの1つはティアナへの結婚の申し込み、もう1つはティアナが貴族だったという事実だ。

 

「しかし、アルプレヒトとは聞かない貴族名ですね」


 フリッツがヨシアス卿に尋ねる。


「その通りだ。私でさえ、その名前は聞いたことがない」


 ハーブティーのお代わりをしながら、ヨシアス卿は結婚のことについて伝えておきたい情報があると真剣な顔つきになる。



 その内容は……宣戦布告についてだった。



「レオン。ティアナさんの件、甘く見ては駄目だ。断った場合、エッシェベルク子爵マインラートが先遣隊としてこの地へ軍を進発させると言ってたぞ。騎兵20、歩兵70といったところか」


 室内が緊張に包まれる。


「後発隊として、シュトラントから騎兵150、歩兵500が派遣されるはず。通常の軍事行動であれば、それくらいだ」


 合わせて騎兵200、歩兵が600といったところだ。全く勝ち目がない、というより現在、村には軍事力がない。


「早急に軍事力の確保しなくては! シキシマ国に連絡しよう」


 ゼビウスがまず発言する。


「いや、まずは外交で時間を稼ぐべきだ」


 そこまで話してフリッツは口をつぐむ。ヨシアス卿が味方かどうか、はっきりと分からない中、ここで詳しい話をしてもいいものか。


 部屋が静まったところでヨシアスは2つ目の用件を切り出す。


「レオン、お前、我が領土を運営する気はないか?」


 またしてもその場が驚きに包まれる。領土を破棄するというのか?


「いや、レオン。説明が足りなかった。詳しく話す」


 そう言うとヨシアス卿は驚愕の事実を話し始めた。


「実は我がヴァルデック領の累積赤字が大金貨800枚(約80億円)を突破してな。立て替えと引き替えに領土を譲ろうと思ったのだ」


 領土放棄&赤字経営。


「ヨシアスさま、いったいどうすれば大金貨800枚もの赤字になるのですか?」


 呆れたを通り越して、むしろ興味が出てきたレオンシュタインである。


「実は領内の工房で硬質磁器の研究をしていて失敗続きでそうなったんだ」


 硬質磁器は東の国で制作されたものがほとんどでユラニア大陸ではあまり流通していなかった。その価値は高く、同じ重さの金と同程度である。


「……硬質磁器」

「レオン、そう言うがな、硬質磁器のカップは固く、薄い。実用に耐えられる食器で美しさも比類ないのだ。俺はその完成に自分の人生をかけたい」


 領土に関してはとんでもない主張だが、人生に関しては理解できる部分がある。とりあえずレネは検討のために会議の終了を宣言した。ヨシアス卿も身体を休めるため、できたばかりの迎賓の丸太小屋に案内される。それを見届けたレネは飲み物のお代わりを依頼すると、すぐに会議を続行した。


「ティアナさんを一時的にグブズムンドルへ逃がし、ここにはいない旨をシュトラント伯に伝えたらいかがでしょう?」


 フリッツが先ほどの続きを述べる。


「とりあえずはそれでいい。しかし、シュトラント伯に伝えるのは危険な役目だぞ。拘禁される可能性がある」


 レネが懸念を述べると、フリッツは何でもなさそうに回答を出していた。


「半分はヨシアス卿にお願いしましょう。あと半分は……」


 フリッツはニヤリと笑って答えない。後で問いただすことにしたレネは、すぐに議事を進行する。しかし突然とも思える求婚は不可解で、どうしてそのようなことを言い出したのか誰にも見当が付かない。


「ティアナさんに秘密があるのでしょう。今はそれ以外、全て憶測になってしまいます」


 そのため、情報収集を兼ねてフリッツがシュトラントに出立することになった。同時に軍備の増強に関する対応も話し合われる。


「軍事計画はゼビウス殿にお任せします」

「分かった。今すぐ思いつくことをまとめてみよう」


 そこまで話し合いを煮詰めると、自然と話題はヨシアス卿へと移っていく。


「まさか硬質磁器とはなあ」

「ボーンチャイナ(原料に骨粉を混ぜて作られる磁器)では満足できなかったんですね」


 けれども、みんなヨシアス卿を憎めないようだった。


「領民の件はアレだが己の生き方としてはいいのかもなあ」


 みんながほのぼのとしている中、レネは現実的な領土経営のソロバンをはじいていた。


「レオン殿、ここはヨシアス卿の願いを叶え、領土を買い取るべきです」

「ええ?」

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