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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第3章 凶報に打ち勝つ夢

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第162話 子爵来訪

 王国歴164年8月12日 午前10時 クリッペン村 村長小屋の前にて――


「久しぶりだなあ、レオン! 大きくなったな」


 この日、何の前触れもなく、ヴァルデック子爵ヨシアスが供の騎士2名を連れてクリッペン村へやってきた。


「ヨ、ヨシアスさま……」


 突然のことにレオンシュタインは驚いて二の句が継げない。ヨシアス卿は金髪にすっきりとした顔の輪郭を持った30歳のイケメンである。細身の身体をもち、ビルドアップされた胸元をさりげなくアピールしてくる。握手をしながらヨシアス卿は周囲の女性の探索に余念がなかった。


 ヨシアスの目が一人の女性に留まった。と、すぐに側に行って筋肉をアピールする。

 

「燃えるような赤い髪をもつ美しいお嬢さん。よろしければお名前を教えていただけませんか。私はヴァルデック子爵のヨシアスと言います」


 そう言うとイルマの手をとり手の甲に思いっきりキスをする。執拗に、そして時間が長い!


「あ、あたしはイルマって言います」


 ようやく手を振りほどき、見えないように後ろ手で手の甲を拭いながらイルマは答える。珍しく笑顔が引きつり、助けを求めるように目でレオンシュタインを探す。その隙にヨシアスはイルマの側に寄り、自然に腰を抱く。


「では、お嬢さん。村を案内してもらえますか」


 近い! 顔が近い! しかも、ますます腰を密着させようと右手で自分の方へと抱き寄せる。限界とばかりにヨシアスを振り切ったイルマはレオンシュタインの後ろに隠れてしまった。


あるじ~」


 レオンシュタイン以外に触られるのは嫌だし、顔が近いのも嫌で、思わず涙ぐんでしまうイルマだった。帝国騎士団相手でもひるまないイルマだが、純情な乙女なのだ。あまりにも可哀想で、レオンシュタインはイルマの頭を優しく撫でる。


「ヨシアスさま、おたわむれは困ります」


 軽く抗議をするがヨシアスは全く気にしていなかった。


「レオン! 戯れなものか!! 私は本気だ!」


 余計たちが悪い。イルマは全身に怖気おぞけが立つ。


「それにレオン。このお嬢さんはお前の護衛か? だったら私の恋を阻むことはあるまい」


 少し遠くからこの様子をシャルロッティが眺めており、いいネタが出てきたとばかりにメモ帳を取り出した。


(これは、おもろなってきたでえ! 次回作のタイトルはこれや! 『ハーレム男にライバル現る! 二人まとめて嵐の海へ(仮)!』 新作意欲が湧いてキターーーーー!)


 そんなことはつゆ知らず、レオンシュタインは何と答えたら良いのか窮地きゅうちに陥る。横にいるイルマは肘でレオンシュタインの脇腹を何度もつつき「言え!」とばかりに催促してくる。


「あ、あの、イルマですが、私の護衛兼……」

「護衛兼?」

「その……一緒に旅をしてきた仲間といいますか……」


 その瞬間「ああ~」という失望の雰囲気がその場を支配する。


(ちっ! 根性なしが!)


 シャルロッティに至っては、あからさまに舌打ちをしながらも、メモの手を休めない。横にいたイルマも業を煮やして一歩前に出る。


「私はレオンの妻!(になる予定)です。気安く触らないでください」


 イルマは意図的に( )の中身を小声で話す。しかも、いいよねという眼差しでレオンシュタインを見つめたというのに、レオンシュタインは自然に目をそらしていた。


「何と! レオンの妻でしたか。それは失礼いたしました」


 すっと引くあたり遊び人の本領が垣間見える。レオンシュタインはあからさまにほっとするがイルマはブスッとしたままだ。


 今日もクリッペン村は平和だった。


 次に被害にあったのは昼餉ひるげを準備していたシノだった。村長宅でカッポウギを着ながら、いそいそと料理を並べていた。黒髪がさらりと落ち、皿に入りそうになるのを手でかき上げる。


(今日は蕪のスープと焼き魚、お米じゃないのが残念だけどパンとバター、あとは私の得意の卵焼き)


 歌うようにリズムを取りながらシノはメニューを確認していく。


(こういう毎日の積み重ねが殿方の心をぐっと掴むのよ)


 すると入り口の扉が開きレオンシュタインが入ってくる。シノは輝くような笑顔で迎え入れていた。


「レオン様、昼餉ひるげの準備が整って……」


 全部言い終わらないうちにレオンシュタインの後ろからヨシアス卿が入ってくる。


「黒髪、ゴート族。輝くほど……美しい」


 すぐにヨシアス卿はシノに近寄っていく。


「これは貴方が? 食べてみても?」

「駄目です!」


 シノは笑顔のまま即答する。


(何なの、この人は? 私とレオンさまの大切な時間を奪おうとしてる。しかも昼餉ひるげまで)


 少しずつ黒いシノが現れ始め、そそっとレオンシュタインの側に寄っていく。


()()()()()()()()に作った昼餉ひるげです。腕に寄りをかけました。味見をしてもらえます?」


 そう言うとテーブルの上の卵焼きを器用に箸で掴み、


「はい、あ~ん」


 と、レオンシュタインの目の前に持っていく。


 ヨシアス卿は興味深く、その様子を眺めている。


 躊躇ちゅうちょしているレオンシュタインになりかわり、ヨシアス卿が近くに寄って口を大きく開ける。咄嗟とっさに箸をすり替えたシノは、辛子をつけておいた卵焼きをヨシアス卿の口に入れる。


「うむ、美味。んん? これは……水! 水を!」

「あらあ、どうされましたか?」


 シノは全く知らぬ振りを通し、2人の騎士もすり替えに気がつかない。水瓶の近くに寄ったヨシアス卿は、ひしゃくで何杯も水を飲んでいた。


「味加減を間違えてしまったようですね。申し訳ございません」


 丁寧な挨拶をしながら料理を全て下げてしまうシノだった。


 シャルロッティはその仕草を見て、


(シノさん、かっけえ! 貴族相手に平然と。そこにシビレる、憧れるう)


 互いに黒い部分があるせいか、シノに引かれてしまうシャルロッティだった。

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