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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第2章 ゴート族と黒髪のシノ

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第159話 お風呂パーティー

 王国歴164年8月3日 午前11時 シキシマ国の旅籠宿 露天温泉にて――


 シキシマ国を出発する前日、ティアナ、イルマ、シノの三人は、なぜか一緒に温泉に入ることになってしまった。レオンシュタインとシノが入ったという温泉に、ティアナとイルマも入りたいと申し出たのだ。


「あ~。やっぱりシキシマ国のお風呂は、悔しいけど最高ね!」

「全くだ。硫黄の匂いが強くて、いかにも効きそうって感じだな」


 首まで温泉に浸かりご満悦の二人だった。案内はもちろんシノで、その流れでシノまで温泉に入ることになってしまった。


(まあ、レオンさまから二人を離すにはいい機会かも)


 黒いシノが暗躍しそうになり、誤魔化すためにただ黙々と身体を洗っていた。


「ねえ、シノさん。何か辛いことがあったの?」

「まあ、主が首を突っ込むくらいだ。いろいろあったんだろ?」


 シノに向かってティアナはいきなり話を切り出すが、シノはその話の流れが分からない。『もうレオンには近づかないで』的なことを言われると思っていたのに、そういう話ではなかった。イルマもテヌグイを頭に載せながら微笑みを絶やさない。


(ますます狙いが分からないわ……。この二人、なぜ怒らないの?)


「私たちも、いろいろあったからね」


 そう言ったティアナは自分に解呪をかける。湯船に立った身体全体を緑色の光に包み、やがて消えた瞬間、金髪の女神のような女性が目の前に現れた。

 

「解呪できるようになったのはレオンのおかげね」


 笑顔が眩しすぎて同姓でありながらも目が離せない。

 

(スタイルも抜群で、顔なんて超絶美少女。なのに、性格が残念という少女文芸にありそうな設定の子かしら?)


 そういった少女文芸をよく読んでいたシノは、すぐに妄想を膨らませていた。少女文芸に耽溺たんできしていたといってよい。イルマは湯船から出てシノの隣に座り、その燃えるような赤い髪を洗い始める。


「私もさ、この顔になったのは1年前くらいかな。それまでは狼口って言われてたからね。あ、やっぱ、主が治してくれたんだけど」


 狼口……とてもそうとは思えない。横に座った女性は、その主とやらが好きで堪らないという笑顔をしている。


(こっちは戦士。それなのに、体つきはふんわりと女性っぽいし、顔もメチャクチャに可愛い。おっぱいも大きい。男たちはこのギャップ萌えに抗えないはずよ)


 シノが様々な妄想を繰り広げる中、ティアナは自分がシュトラント城で嫌われていたことを、ぽつりぽつりと話す。それに続けてイルマも傭兵時代の苦労を話し出す。


「で、シノさんはどうなの?」


 結局、シノも自分の身の上を話す流れになってしまった。別に隠すこともないかと考え、正直にレオンシュタインに話したことを2人に話す。


「え~信じられない! マサムネさんだっけ? ありえないわあ。自分の娘に……」

「そんな天気を読む力も使いどころだと思うけどなあ。親父さんの気持ちがわからん。まあ、親父さんには深い考えがあるのかもな。親父の顔、見たことない私が言うのもなんだけど」

 

 プンプンと怒っているティアナの横で、イルマは髪にお湯を掛けていた。ぽちゃりとイルマがまた湯船に戻り、シノも身体が冷えたのか一緒に湯船に入る。


(なんなの? この二人、めっちゃいい……。闘志が鈍るなあ)


 困惑したシノは、肩にお湯をかけつつ二人の様子を眺める。


「でさ、昨日あったことを詳しく教えてくれない?」


 いきなり本題に入られたのだけれども、シノはそのことに気付かない。結局、シノは正直に昨日のことを話してしまった。二人は時折、相づちを打ちながら、質問を交えてさりげなく細部まで聞き取っていた。話を聞いた二人は、安堵あんどの溜息を漏らす。


「なんだ。レオンの後からお風呂に入って、そのとき、いつものレオンの『やらかし』があったっていうことなのね。安心した!」

「まあ、そんな事じゃないかと思ってたよ。主にそんな器用な真似はできないからな」


 そう言うと二人はシノの側に行き、肩をぴしゃぴしゃと叩く。


「これからよろしくね、シノさん」

「まあ、とりあえず事情は分かったよ。()()()()()()()ってことだな」


 さりげなく結婚のことを否定したイルマは、昨日の話をなかったことにしてしまう。


「そうね。()()()()()ができたってことだよね」


 笑顔のままティアナも『仲間』を強調する。


(やられた……。二人の狙いはそこだったのか)


 二人の狙いに気付きいたシノは臍をかんだが、不快な気持ちにはならなかった。むしろ爽やかな気持ちが胸に広がる。二人はバシャバシャと音を立てて湯船から出て歩き出す。


「ティアナ。お前、きちんと主に謝っとけよ」

「ええ、何で? 別にいいでしょ、あれくらい」

「別に浮気はしてないんだからな」


 言い争いながら、入り口から出ようとする時、


「シノさん、出ないの? 浸かりすぎは身体に悪いよ」

「そうだぞ。出発も近いし、無理すんなよ」


 シノを手招きする。


(二人にやられてしまいましたわ。でも、私も諦めたわけじゃありませんからね)


 闘志を燃やしながら二人についていったシノなのだった。

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