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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第2章 ゴート族と黒髪のシノ

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第151話 水道完成と少女文芸

 王国歴164年7月6日 午前8時少し前 クリッペン村の村長室にて――


 ゴートというかティアナが村で暴れた何日か後、村に1つの朗報が入った。オイゲンの特級水道が完成するというのだ。村の中心まで水が流れる計画だ。午前8時前だというのに、村長宅前に作られた円形の水飲み場の前には、たくさんの人々が集まっていた。


 誇らしげな顔のままオイゲンは村長宅の壁に掛けられた時計を眺めていた。ハラルドの力作で錘で針を動かす鳩時計の一種だ。大きな特徴として、時間がくるとハンマーが鐘を叩いて時間を告げるのだ。かなり大きな音が響くため、村人はその音をいつも頼りに生活していた。


「8時にアレックが水門を開くことになっている」


 その長い針が12時の方向を差すのをオイゲンは今か今かと待っていた。針が真上にきた瞬間、時計の上部の扉が開き、鐘が高らかに打ち鳴らされる。朝の8時だ。


 すぐに水は流れてこない。話をしながら待っていると水飲み場に置かれた石作りの蛇の口から水が流れ始める。やがて、4方向の全ての蛇の口から水が流れ始めた。


「成功だ!」


 集まった人たちは大きな声でオイゲンの偉業を称える。肩を叩いたり、腹をこづいたりと、手荒な祝福が続く。水を手に受けて飲んでみると冷たくて美味しい。これからは、すぐに新鮮な水を手に入れることができる。7月も始まったばかりの暑い時期での完成は本当にありがたいことだった。


 その喜びを窓から冷ややかに眺めていた黒髪の一団がいた。ようやく体調が回復してきたカゲツナたちゴート族だ。

 

「カゲツナさま、この村は井戸がないのですか? 遅れてますね」


 サムライのリーダーであるキヨマサは馬鹿にしたような口調で鼻息も荒い。

 

「遅れているのはお前だ、キヨマサ。あの水がどこから流れてくるのか知ってるのか? 遙か上流の川から石のパイプを通って、ここに流れているのだ。我らには真似の出来ない技術だ」

「石のパイプ?」

「そうだ。彼らは10kmも上流から、綺麗な水を得るためだけに膨大な数のパイプをつなげているのだ」


 キヨマサは二の句が継げない。こんな小さな村がローマの水道を模しているというのか。


「模しているのだ、キヨマサ。彼らは途方もないことをやり遂げている。何とかして、この村と交流をもちたいものだ」


 そう言いながら、ずっと窓の外の様子を眺めているカゲツナだった。


 §


 また村に急速に普及し始めたものの1つに『少女文芸』などの小説があった。これは王国に急速に広まっている活版印刷の技術を導入したもので、村の工房では30人が本作りのために働いていた。


「文化にお金を使えるようになってこそ人々の生活は潤います」


 レネはそう言って、高額な活版印刷の機械を2台購入し、それを貸与して気軽に本を出版できるようにしたのだった。ちなみに『少女文芸』とは少女のための読み物で、主に女性の作者が恋愛を中心とした物語を提供していた。


 シャルロッティはリア充を暗黒魔法で懲らしめるシリーズの作者であり、一部で絶大な人気を誇っていた。すでに5巻目まで発行し、題名も「無自覚ハーレム男に正義の鉄槌」「人前でイチャつく赤毛の女を冥界へ送れ」など、直球過ぎて出版禁止になりそうな内容だった。


「リア充を滅するこの物語を世界中に広げていくで!」


 本業の服屋だけではなく、小説家としても名をなしつつあるシャルロッティだった。それに感銘を受けた何人かの若者が『少女文芸』だけではなく、詩や冒険の物語を紡ぎ始めた。村だけでは飽き足らず、その本を持って行商に出かける者まで現れた。


 それらは、やがて王国や帝国にブームをもたらすのだが、今は小数の人の娯楽として普及するに留まっていた。


 また村は人口が増えるに従って、さまざまな商店が急速に建ち並んでいった。海で釣りを楽しむための釣具屋、花屋、ケーキ屋、パン屋などはもちろん、本屋、八百屋、魚屋、床屋、食堂などが広がっていった。酒場の仕事斡旋所では求人の紙が所狭しと並べられていた。

 

 ディーヴァが家作りを始めた昨年の9月、村の人口は500人だった。特級水道が完成した今年の7月には、3500人に増加していた。


「思った通りの人口増加だな、フリッツ」


 特級水道開通を小さな酒場で祝っていた二人は、感慨深げに窓の外を眺めていた。あの何もなかった村に水道が敷かれ、道が作られ、家々が立ち並び、小さいながらも市場がたつようになっている。家族連れも増加し、子どもたちが道路を走っている様子が見られるようになった。


「子どもが増えたのはいい兆候だ。レネ」


 持っているビールを喉に流し込みながらフリッツは嬉しそうに乾杯をする。レネの持つビールのジョッキがガチャンと音を立てる。


「ただ下水道などの施設がもっと増えないと、快適さが上がらないな」


 村の行政府(レオンシュタインの丸太小屋)には、少しずつトイレに対する不満が挙げられるようになってきた。人数の増加はアレックの作った下水道のキャパシティーを越えてしまったのだ。


「本格的な下水道の完成は今年の11月。オイゲンの手腕に期待しよう」


 店先のベンチに移動し、店員にポテトと鶏肉の唐揚げを注文する。やがて、運ばれてきた食べ物は熱々で美味しく、二人はそれに舌鼓を打つ。唐揚げの香ばしさとビールの苦さが悪魔的に合う。クリッペン村の7月はとても暑く、ビールが飛ぶように売れていた。入道雲が青空に高く高く広がっている。


「で、フリッツ。帝国への利息の支払いはどうなってる?」

「人口3500人から入る住民税は、1ヶ月で銀貨2800枚(2800万円)だ」

「利息はいけそうだな。あとは元本を減らさないと」

「それは、レオンシュタイン殿に任せよう」


 ジョッキを飲み干したレネは追加のビールを注文する。店員に聞くと今年は近隣の酒屋からビールを購入しているのだが、来年は自分たちでつくると息巻いている。


「しかし、ビールまでつくるようになるのか……」


 そう言うと二人は店の奥に戻り、さらに酒と食事を楽しむのだった。

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