第150話 ティアナ大暴れ!
王国歴164年7月2日 午前11時 クリッペン村の村長室前にて――
最初に前に躍り出たのは赤い髪をなびかせた女性だった。
「よお、何か勘違いしてるようだけど、それはいいや。でも、レオンの家に手を出したこと……万死に値する」
ロングソードを抜いたイルマが左手で手招きする。赤い髪がさらに逆巻くように立ち、瞳は燃えるような赤になっていた。
「死にたい奴から、かかって来な!」
サムライの一人が前に進み出てサムライブレードと呼ばれる細身の剣を抜き、イルマと向かい合う。その瞬間に距離をつめたイルマは剣を横に薙ぎ、細身の剣はロングソードの斬撃に耐えられず、根元から折れてしまった。
焦ったサムライが短いワキザシブレードを抜こうとした瞬間、
「人ん家に来るなら礼儀をわきまえろよ」
相手の懐に入ったイルマは相手の右手をきめて肩を外し、地面に倒す。呻き声を上げたまま右肩を押さえてうずくまり、脱臼の痛さで地面を転げ回っていた。
同時にティアナも魔法を詠唱していた。
「レオンの家に火を……。なら容赦しない!」
黒い仮面が不気味に光り、詠唱を続けている。いつもは吹かない暴風がティアナの周りに吹き荒れ、あたりの木々を揺らす。馬が怯える中、どす黒い雲が空を覆い辺りは薄暗くなる。ティアナは魔力の調整を全く行わず、放電もコントロールしなかった。
そのため稲光が爆音をたてながら横向きに何本も走っていく。
フリッツは大声で外にいる人たちに避難するよう呼びかける。
「みんな早く室内に入れ! 巻き添えを食らうぞ!」
村人は走って丸太小屋の中に逃げ込んでいく。ティアナの周りには青白い稲妻が何本も光り、空から地面に光の柱を作りだしている。ジジッという不気味な音とともにティアナの身体が光っていく。
「雷の嵐!」
すると先頭にいたサムライが、
「馬鹿め! ゴート族は魔法を使えないと侮ったか。魔法への備えもしてあるわ!!」
首の掛けてある飾りを引きだし、あざ笑った。
その瞬間、巨大な閃光が相手を目がけて何本も落ちていった。空気をつんざくような音が辺りに轟き、外にいる人は耳を押さえてうずくまる。
あざ笑ったサムライの上に見えない膜があるかのように、雷が防がれているように見えた。
「よし、大丈夫だ!」
顔を見合わせたサムライたちは安堵の溜息をついたのも束の間、顔が少しずつ恐怖に歪んでいく。ティアナが詠唱を続けると雷の放電が強くなり、目を開けていられないほど眩しい。巨大な閃光は渦を巻いてサムライの上に落ちていく。バリバリという爆音が何度も轟き、やがて守っていた膜が少しずつ下に押し込まれていく。
「ば、馬鹿な!」
轟音とともに雷がサムライを包み込む。それぞれが防御の石を持っていたにも関わらず、それらは全く効果を表さない。一人、また一人とサムライはその場に倒れていった。その場に立っているサムライは残り一名となっていたが、ゆっくりとティアナは歩み寄っていく。
いつもの優しい声ではなく、ぞっとするような低い声が響く。
「レオンを、私たちの幸せを、踏みにじるような輩を排除する」
そう話すとまっすぐに右手を挙げ、その手から無数の稲妻が走る。渦を巻きながら空気がティアナの方に吸い込まれていくのが分かる。
「止めろ! ティアナ! 村を巻き込むつもりか?」
冷静になったイルマがティアナに呼びかけるが、爆音で彼女には届かない。空全体を覆うほど大きくなった黒雲のために強風が吹き荒れ、小さな木々は根っこから吹き飛ばされている。
「……絶対に許さない!!」
その瞬間、一つの影がティアナに近づく。
「ティア! そこまでだ!」
レオンシュタインがティアナを後ろから羽交い締めにした瞬間、レオンシュタインは電撃に包まれる。無言で耐えるレオンシュタインだが、髪の毛が逆立ってしまうほどの電撃だ。レオンシュタインが倒れるのと同時に、ティアナは我に返る。
「レオン!」
すぐに詠唱を止めレオンシュタインのそばに駆け寄る。自分がやったことに、涙が止まらない。ただ、レオンシュタインは比較的早く回復していた。
「……ティア、大丈夫」
それを見ていたイルマは心の中で冷静に突っ込みを入れる。
(マジかよ。あのとんでもない電撃からすぐに回復できるのか。主は不死身だな)
遠くで見ていたシャルロッティは、しきりに紙に何かを書き続けていた。レオンシュタインの頭を抱えながら、ティアナはポロポロと涙をこぼしていた。一緒に戦おうとしていたレネとゼビウスは出番がなく苦笑いしかなかった。
ただ、泣きたかったのはゴート族の方だろう。交渉するつもりが、あっという間に制圧されてしまったのだから。やがて村長宅から次々と人がとびだして、倒れている7人をカゲツナが寝ている部屋に運び込んでいく。
窓から一部始終を見ていたカゲツナは、仲間の不作法を謝罪していた。
「……みなさん、本当に申し訳ない」
ゴート族全員がベッドの中で昏睡しているのを見て、カゲツナは村の掟を1つ学んだ気がした。
『レオンシュタインに手を出すな』
徹底させなければ命に関わるとカゲツナは肝に銘じるのだった。




