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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第2章 ゴート族と黒髪のシノ

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第149話 ゴート族との邂逅

 王国歴164年6月17日 午前11時 クリッペン村の街道沿いにて――


「主! この人、息がある!!」


 盗賊が逃げていった後、イルマは地面に倒れている男を介抱し始める。年の頃は25歳前後で、黒い髪に緑の瞳を持つゴート族の特徴を備えていた。


「息はしてるけど意識が弱い」


 首に指をつけてみるとピクピクと動きは感じるものの拍動はかなり弱い。すぐに治療しないと命に関わる。

 

「イルマ、バルバトラスさん、すぐに村に戻りましょう。犠牲になった方は後で誰かに搬送してもらいましょう」

 

 3人は亡くなった人たちを道の脇に移動させると間に合わなかったことを詫び、生き残った人を助けると手を合わせて誓うのだった。


 バルバトラスは倒れているゴート族を背負い、レオンシュタインが二人を紐で結んで身体を固定させる。


「行きますよ!」


 レオンシュタインの合図とともに馬が走り出す。怪我人に負担を掛けないよう、馬に適度な休憩をとらせながら、クリッペン村まで戻る。


 時間はちょうど、お昼を少し過ぎた頃だった。3人の馬を見たヤスミンとティアナがすぐに駆けつる。


「マスター、早かったね。もう行ってきたの?」

「そんなわけないでしょ、ヤスミン。でも、レオン。その人は?」

「盗賊に襲われてたんだ」


 バルバトラスとイルマがそっと地面に下ろすと、小屋から後フリッツやレネたちも近づいてくる。


「こ、これは……ゴート族?」


 黒髪と緑の瞳にレネが戸惑って立ちつくす。


「ティア! すぐに寝床の準備だ。それとヤスミン、治療ができる人を呼んで」


 ティアナは小屋へ、ヤスミンは施療院へ走っていく。


「レオン! できたばかりの家の方がいいだろ。ベッドもあるから運びなよ」


 村長宅の近くに出来た新しい家には広々とした寝室があり、ディーヴァは大きなベッドを設置していた。すぐに病人をベッドに寝かせて、汚れた服を脱がせていく。そこにヤスミンに連れられたアンドレア神父が到着した。ゴート族ということで戸惑いを見せた神父も、命を救うことを優先して薬での治療を施す。


「私はまだ修行中で、魔法による治癒は使えないのです。ただ薬による治療で、何とかこの方を元気にしたいと思います」


 ベッドの周りで見守っていたレオンシュタインたちは神父の誠実な答えに感銘を受ける。アンドレア神父は、つい先日この村に着任したばかりで、掘っ立て小屋のような教会で毎日、祈りを捧げていた。同時に怪我の治療にも積極的に取り組んでいる優しい人なのだ。


「アンドレア神父さま、ありがとうございます。また明日もよろしくお願いします」


 全員でアンドレア神父を見送って頭を下げる。その姿が見えなくなるとレオンシュタインは横に立っていたローレに1つのお願いをしていた。


「看護はローレさんにお願いしてもいいでしょうか?」

「はい、村長。喜んで」

 

 修道女と一緒に看病をしたことのあるローレは素直に頭を下げる。経営している食堂は最近、部下に任せることも多く、ローレはいささか暇を持て余していた。


 バルバトラスとゼビウスは馬車を準備し、すぐに遺体のある場所まで戻っていった。2日後、2人の遺体を回収し、亡骸は村のみんなに見送られ墓地に丁重に葬られたのだった。


 

 §



 3日後、昏睡していた黒髪の男の意識が戻り、目を開けると美しい緑の瞳で周りを見渡す。


「ここは……?」

「ここはクリッペン村です。戦っていた場所から南へ馬車で1日くらいの所ですよ」


 優しく答えたローレは、まだ身体を起こさないように注意をする。


「貴方は3日も眠ってたのよ。まだ、起きられる身体じゃないわ」


 そう言うと近くにあった重湯をスプーンで掬う。怪我人の頭だけを枕の上にずらし食べ物を取れるようにする。


「さあ、少しずつでも食べなきゃ」


 差し出された重湯を拒否しようとしたが、ローレの笑顔を見て気を取り直して口に入れる。何口か食べると、またすぐに眠ってしまうのだった。



 §§



 さらに1週間が経過する頃、男はようやく背中をベッドの壁につけ起き上がれるようになった。言葉も大分明瞭になってきた。男はゴート語ではなくユラニア共通語を話していたことから、かなりの教養人であることが分かる。ローレにはカゲツナと名乗った。


「ローレさん、私を助けてくれた方にお礼が言いたいのですが」


 カゲツナは、はっきりとした声でローレに話し頭を下げる。ローレはすぐにレオンシュタイン、イルマ、バルバトラスを部屋の中に招き入れた。


「カゲツナさん、元気になってよかったです」


 代表としてレオンシュタインが握手をし、カゲツナはその手を握り返して丁重にお礼を述べた。


「私の供の二人は?」

「……村の墓地で眠っております」


 目を瞑ったカゲツナは大きく息を吸い込み、しばらく黙ったままだった。気持ちを整理する時間が必要だったのだろう。


「ありがとうございました。家族も喜ぶでしょう」


 暫くたってから頭を下げる。

 

「カゲツナさんには休養が必要です。早く故郷へ帰りたいと思いますが……」


 レオンシュタインはベッドの側にある椅子に腰掛け、焦らないようにと話していた。その時、外で大きな声が響く。やや、たどたどしいユラニア共通語だ。


「俺たちの仲間をすぐに返せ! さもなくば、この村を火の海にしてやるぞ!」


 外に出たレオンシュタインたちが見たものは、馬に乗った戦士7名の姿だった。歴史書にある通り、大鎧をつけ、頭には兜を被っている。背中に長さ2mはある弓をかけており、顔にこちらを睨み付けるような怪異な仮面がついている。


 7名はおそらくサムライなのだろう。歴史書では、サムライはベルセルク(バーサーカー)の一種であるとの説明がなされていた。

 

「聞こえないのか? ならば……」


 そう言うと先頭の男が弓を引き絞って手を離すと、びゅおという唸りを立てながら村長宅の壁に矢が突き刺さる。


「次は火矢を放つぞ!」


 その瞬間、彼らの前に村の4名が立ちはだかっていた。

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