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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第1章 新たなる大地

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第148話 ダブルで遭遇

 王国歴164年6月14日 午前8時 クリッペン村の村長室前にて――


 今日はゴート族の国へ出立する日。準備が進む中、レオンシュタインはティアナの元気がないことに気がついていた。もうすぐ出発だというのに、ついっと庭の方へ歩いて行く。

 

「どうしたの? 元気ないね」


 レオンシュタインは彼女を追いかけ、顔を覗き込む。ティアナは、ふくれたまま黙って横を向いてしまった。


「ティア、もしかしてゴート族の国に行きたかった?」


 木のそばでレオンシュタインが問いかけると、ティアナはふうっと溜息をつき、近くに生えていた柊の葉を1つ摘み取る。


「あのね。私はレオンの旅にずっとついていくって約束したでしょ! ショトラント城で話したこと忘れたの?」

「いや、覚えてるよ」

「本当かな?」


 ぐっとレオンシュタインに顔を近づける。その瞬間、魔法を唱えて仮面を消してしまう。しばらく会えないから、仮面を取ろうと決めたらしい。


「それなのに、今は一緒にいないこと……多いし」


 葉を弄びながら口を可愛らしく横一文字に結ぶ。視線を落とすティアナの肩に手を置くが何と言っていいのか分からない。

 

「な~んてね! レオン、元気で行ってきなさいよ!」


 右手でレオンシュタインのお尻をバシンと叩いて、無理に笑顔をつくる。綺麗な瞳の中に悲しみが見えるようだ。


「自分は必ずティアがいる場所に戻ってくるよ」


(必ず妻のもとに帰ってくるってこと?)


 さりげなく話した内容がティアナの頭の中で勝手に変換される。


「分かった。帰る場所を守るのも、妻の役目だもんね」

「妻?」


 その様子を見ていたシャルロッティはギラッとした眼差しを二人に送る。二人は微妙にすれ違っているのだが、それすらもイチャイチャの1つとしか思えない。みんなが笑顔になっている中、シャルロッティの訪問だけは眉間に皺が寄っているのだった。


「気をつけて行ってこいよ」


 大きな声で手を振ったディーヴァを見て、まわりもそれに合わせる。使者の3人は馬上でそれを眺めながら、すぐに街道を北上し始めた。


 仲間達の姿がどんどん遠ざかる。

 

 問題はゴート族の居住地への行き方が分からないことだった。細々と交易をしていることから道はあると思うのだが、はっきりとした道は見つかっていなかった。


「道があるとすれば西側だ。そっちを調べながら行くしかないな」

「主、気をつけて進まないと」


 バルバトラスやイルマの言うとおりで、翌日から3人は馬から降り道がないかを探しながら進む。道の左右には森が広がり、ブッシュも生い茂っていて人が進めそうな道が見えない。朝9時から夕方の4時まで、その見つからない道を探しながらひたすら進む。もはや狂気とも言える探索だったがレオンシュタインは平気だった。


 いつか必ず道は開けるというのが彼の信念なのだ。


 結局、道が見つからないまま1日が終了する。テントを立てて火を起こし、ケスナーから持たされた山鳥を焼く。すぐに薪の上に鳥の脂が落ち始め、ジュッジュという音を響かせる。イルマは索敵で周囲を警戒するが特に反応はなかった。

 

「索敵で数え切れないくらい、村までの道に人を増やしたいね」


 ちょっと淋しそうに火の側に寄ったイルマはレオンシュタインの横に座る。バルバトラスは向かい側で山鳥の串をひっくり返し、塩を振っていた。


「よし! いい感じに焼けたぞ!」


 2人に焼けた山鳥を差し出したバルバトラスが一口肉を噛みしめると野趣溢れる旨みが口いっぱいに広がる。


「これは美味しい!」


 夢中で3人は山鳥の肉を頬張る。焼き肉を堪能しながらバルバトラスはレオンシュタインが不器用に焼き肉を食べるのを眺めていた。


「なあ、兄ちゃん……兄ちゃんはブレないなあ」

「何がですか?」

「みんな幸せってやつだよ。あれ、本気だったんだな」


 手に残った串を火の中に投げ入れ、レオンシュタインはその燃える様子を眺めていた。


「幸せを見ているのが好きなんです。あんまり見なかったから……」


 小さい頃から辛い経験の多いレオンシュタインだった。兄弟からは爪弾きにされ、父母からも大事にされず、使用人からも軽んじられていた彼は幸せを渇望していた。


「そうか……。じゃあ、俺も働かんとな」


 笑顔でそれに答えながら、レオンシュタインはまた火を見つめ直していた。


「主、じゃあ、今日は私と寝よ! 幸せになれるよ」


 後ろから抱きついたイルマにはレオンシュタインの寂しさがよく分かった。自分がそばにいるのに寂しい思いをさせてしまったと思うと、ちくりと胸が痛む。そのため、いつもとちがって少しだけ優しさを感じるハグになった。


「ありがとう、イルマ……」


 そう言いながらレオンシュタインは黙って火を見つめ、イルマの手に自分の手を重ねていた。


(えっ? もしかして一緒に寝ちゃう? 心と身体の準備ができてない……。それにバルバトラスさんもいるんだし。でも、レオンが……)


 以前と同じような状況に胸のときめきを隠せないイルマは、様々な妄想をしてしまう。


「じゃあ、悪いけど、夜の警戒はイルマに頼むね」


 はい、分かってました。


 思わず握った拳でレオンシュタインの腹に一撃を叩き込む。痛がるレオンシュタインを放っておき、すぐに木に登って警戒を始めるイルマだった。


 こうして3人の夜は穏やかに過ぎていくのだった。


 §


「主! 誰かが襲われてる!!」


 周辺がようやく明るくなった頃、イルマが二人を揺さぶっていた。周囲を警戒していた彼女は300m先で何かが起こっていることを探知し、耳を澄ますと剣の響き合う音が聞こえてきたというのだ。


「すぐに行こう」


 三人は音の方へ走っていくと、道に二人の男が倒れており、一人が戦っている最中だった。その周りには3人の男たちが剣で戦っており、バラバラの武装から盗賊であることが分かる。その奥にはさらに3人の盗賊がいて、笑いながら戦う様子を見学していた。


 黒髪の一人は脚が悪いのが地面に倒れたままで血の匂いが辺りに充満している。攻撃している賊は見えるだけで7人を数えることができた。


「ほらほら、もう逃げないのか? ゴート族の脚なしが!」


 賊は倒れたゴート族の目の前に剣を突きつけている。笑いながら人をいたぶる様子にレオンシュタインは憤る。


「イルマ! 盗賊を制圧し、その人を助けて!」

「了解した!」


 ロングソードを抜いたイルマは賊の中に突入し、突きつけている剣をはじき飛ばした。さらに呆然としている賊の腹を蹴り飛ばして気絶させる。3人の盗賊は倒れている1人から離れてイルマに向かってくる。


「こんなところに、こんな可愛いお嬢ちゃんが!」

「滅多に見れねえ上玉だ。俺たちはついてるな!」

「お嬢ちゃん、お痛はダメでちゅ……」


 全部を言わせずイルマは男を剣の平地ひらじ(平らな部分)で殴り飛ばす。無言のまま剣を振るい2人の剣を空中に跳ね上げていた。同時にバルバトラスがメイスで二人を叩きのめし、その場を制圧する。

 

 後ろで見ていた盗賊の3人は一目散に逃げていくのだった。

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