第147話 ゴート族
王国歴164年6月12日 午前9時 クリッペン村の村長室にて――
ゴート族とは古くからユラニア大陸に住んでいる土着の民族で、身体的な特徴は身長が平均して170cm前後とやや低く黒い髪の人が多い。独自の文化を持ち、周囲の国々とは交流を絶ってきた……というより忌み嫌われていた。
「ゴート族が嫌われるのは呪われた民族だからでしょ? 髪が黒いのは呪いのせいだって」
うつむき加減になり、ぶるぶると震えながらシャルロッティが呟く。周りにいるメンバーも同意の意を込めて頷きテーブルに肘をついて聞いている。確かに教会でそのように言い伝えられてきたけれど、ゴート族は別にモンスターではない。
「東方聖光教会ではそのように言い伝えているけど、西方聖光教会ではあまり呪いのことに触れていないんだ。実際、あやふやな伝説だって多い」
一人一人の顔を眺めながらレオンシュタインは熱を込めて話していた。旅の中でゴート族の話が出るたびに、レオンシュタインは疑問に思っていたらしい。一番おかしいと思うのが邪悪なために髪が黒くなったという伝説だ。年齢を重ねれば髪の毛が白くなる人も多いが、それは祝福されたとでもいうのか?
紅茶のポットをもってきたローレは、希望する人のカップになみなみと注ぎ込む。渋いような甘いような紅茶の匂いが村長室の中に充満する。冷えた紅茶をぐっと飲み干したレオンシュタインは、控えめにおかわりをお願いする。
「レオンさん、きっと伝わりますよ」
笑顔のローレはカップにそっと紅茶を注いでいく。つられてレオンシュタインも笑顔になり、椅子に座り直して肩の力を抜いた。
「自分たちと何も変わらないと、ずっと思ってたんです。ゴート族と手を組めれば人手不足は解消されるし、シュトラントに気付かれることもない。そうすれば、やがて偏見も減っていくと思うんです」
確かに悪くない提案のように思えるが、長年の考えを改めることは難しい。みんなも反対ではない顔つきではあるけれども積極的に賛成という顔つきでもない。やたらと紅茶を飲み、テーブルの上に置かれたオレンジのドライフルーツを囓っている。
その様子を見ていた、レオンシュタインは宣言する。
「自分の目で確かめてくるよ。ゴート族の住んでいる地域は村から北西側に広がっているはずなんだ。ぼくはみんなのようにできることもないからね。せめて、ゴート族と仲良くなって村に招待したいと思うんだ」
村長の自覚がない上に危険である。反対しようと腰を浮かしかけたレネはフリッツに肩を掴まれ再び椅子に腰掛けていた。その場に立ったフリッツが、みんなを代表して意見を述べる。
「レオンさん、確かに偏見をなくし一緒に働くのはよい考えだと思います。ただ、それは今やらないといけないことでしょうか? 宗教上の考えも変えていかないといけませんし、ゴート族側にも迫害の歴史があり私たちによい感情をもっていません。そんな大事業をするより、この村を発展させていく方が大事じゃないですか?」
今まで黙って腕を組んでいたバルバトラスが口を挟む。
「いや、むしろ今なんじゃないか? フリッツ。我々は帝国から大金貨2000枚(約200億円)を借り受け、前例のないことに挑戦しようとしてる。男だから、女だから、帝国民だから、ゴート族だからっていうのをなくすのが俺たちの目標じゃないのか? 少なくとも俺はそうだ。村長が目指している誰でも幸せになれる国に、参加資格を設けようってのか?」
その場に立ったバルバトラスは久々に感情を露わにする。彼が大学を追放された理由は女性を教授に推薦したためだった。ローマ法の大家でもあるバルバトラスは、法の下の平等は絶対に譲れない信念なのだ。
「でも、私はやっぱり怖いね。嘘をつかずに言えば」
ドライフルーツのおかわりをローレにお願いしながら、イルマが答える。それを聞いたレネはようやく頭が冷えてくる。冷静に村長の提案を分析していた。
「出会う経験が少なければ、伝聞に惑わされます。知識が実感を伴っていないためです。なるほど、これは交流が必要ですね」
そう答えたレネは、レオンシュタインの方を向き頭を下げていた。
「村長の慧眼、恐れ入りました。誰でも幸せに暮らせる国の『誰でも』は、この世の全ての人なのですね」
「そうだといいな、と思ってます」
レネは全員の方を向き直り、力強く宣言する。
「我が村はゴート族に使節団を派遣することにします。人選はフリッツ、お前に任せた」
その場にいた全員が賛同の眼差しをレネに向け、ほっとした空気がその場に広がる。
「では、代表としてレオンさんに行ってもらいましょう。随行員はイルマさんとバルバトラスさんにしましょう」
そう決まると、すぐに出発の準備が進められるのだった。




