第146話 レオンがとんでもないことを言い出した
王国歴164年5月7日 午前9時 クリッペン村の村長室にて――
「あの、オイゲンさんに儲け話があるって聞きまして」
そう言いながら村長の館に入って来たのは、年の頃は25歳前後の綺麗な女性だった。脚がすらっと長く、黒で統一された服が目立つ。短髪で茶色い髪と小麦色の日焼けが、健康的な美を感じさせる。口を開けてみていたレオンシュタインの脇腹にイルマがこっそりと肘を叩き込む。
「痛! イルマ、何するの?」
「主。見とれてた」
「ち、違うよ」
「どうだか」
そんなやりとりを微笑ましそうに眺めていた女性が口を開く。
「私、サラって言います。鉱石調査が専門です」
握手をするときにサラは手に金の指輪をいくつも手にはめていた。
「村の中を自由に調べてもいいですか?」
「もちろんですが危なくないですか? 美しい女性が山に入るだなんて」
すると、サラはヒマワリのような大きな笑顔でレオンシュタインの肩をどんと叩く。
「村長さん、優しいわね。大丈夫! 私は魔法が使えるからね。オイゲンによろしく言っといて」
ウインクをすると1ヶ月くらい調査に入ると言い残し、山の方にゆっくりと歩いていった。
§
「金利が年5%とすれば、1年で大金貨10枚(約1億円)を支払うのか……。恐ろしい額だな」
第2回の会議は、ディーヴァが村長小屋の近くに3つの丸太小屋を完成させた日に行われた。
その会議には、最初の9人(レオンシュタイン、ティアナ、イルマ、ヤスミン、レネ、フリッツ、バルバトラス、シャルロッティ、ゼビウス)に加えて、喪男同盟から4名(弓の名人ケスナー、水道作りのオイゲン、農家のルカス、建築家ディーヴァ)、食堂で働くローレ、水路作りのアレック、鉱石調査のサラの、合計16名が参加した。
「でも、ものすごい好意ですね。交流のない村に融資してくれるなんて」
アレックが信じられないと首を振る。会議用としてディーヴァが作ってくれた細長いテーブルは、16名が向かい合える大きさがあるため、丸太小屋の1階はいつも狭いくらいだった。
「まあ、確かにそうだけど港を担保にされてるからね」
フリッツは交渉者として、そのことを強調する。帝国の狙いは外洋船が停泊できる港の確保であり、我が村の発展はおまけのようなものなのだ。
「利息を稼ぐための手段を整理しましょう」
レネは冷静に会議を進めていく。
「我が村で現在お金になりそうなものは、石材、木材、鉱山の3つです。石材、木材では稼げたとしても大金貨10枚(1億円)ほどです。ですから、鉱山開発に希望を見出したいところです」
そのため、サラに調査結果を報告してもらうことになった。
「ええと、私は1ヶ月くらい山を調査しました。そこで、まず見つけたのが……ほら、綺麗でしょう。水晶です」
懐から六角形の透明な鉱石を取り出して、机の上に転がす。尖った透明な部分が、キラキラと太陽の光を反射している。前村長の水晶が眠っているという情報は正しかったようだ。
「これ、私のお気に入りにしたんです。形も整ってますし」
透き通った20cm位の細長い六角形は、村の前途を明るく照らすかのようだ。バルバトラスは、無意識にひげをひねっていた。
「いいぞ。水晶は帝国に高く売れるはず。30cm四方の塊が1つで小金貨1枚(約100万円)にはなるぞ!」
周りの興奮を抑えてオイゲンはさらに尋ねていた。
「サラ、水晶は鉱脈があるのか?」
「あるよ。かなり埋まってるね。まあ10年や20年で枯渇はしないと思う」
サラは長い脚を組みながら、身振りを交えて説明する。
「水晶は分かった。それより例のものはありそうか?」
オイゲンはそのことが一番気にかかっていた。
「ありますよ。しかも、かなり眠ってます」
「例のものって何ですか?」
二人の会話が曖昧なため、レオンシュタインは何のことか分からない。
「金です。ゴールド!」
二人は同時に大声を出す。すぐには飲み込めず、ぼんやりとするレオンシュタインを尻目に周囲には驚愕の表情が広がっていく。
「金? そりゃあ景気がいいな。ぐはははは」
「ケーキ、何個買える?」
バルバトラスとヤスミンが顔を見合わせる。
「で、サラ。とりあえず、大金貨が50枚(約5億円)くらい必要なんだ。2~3ヶ月でいけるか?」
「多分、楽勝ですよ。鉱脈が黄金色に光ってて、そのまわりが水晶なんですよ。美しすぎて……はあ、はあ……」
なぜか異常に興奮しているサラを、とりあえずは放置する。多分、この人も静かに壊れているのをレオンシュタインは感じ取る。
「わりいな。あいつ金フェチなんだよ。金に異様に執着すんだ……。ま、それだから鉱脈を発見するんだけどな」
オイゲンは右手を顔の前に挙げて謝ったあと、レオンシュタインに向き直る。
「村長、それではさらに水道敷設を本格化させます」
まだ、状況が飲み込めないレオンシュタインだが、かろうじてうなずく。
「鉱山開発も必要ですね。村長、人手を募集していいですか?」
フリッツはすぐにでも事業を進めたいと人材確保を提案する。その話の流れをレネが強引にさえぎった。
「待ってください! 金が出たと知られれば、シュトラント伯マヌエル卿に目をつけられ、課税されるか、接収される可能性があります」
ティアナやフリッツが発言を求める。
「別に金を掘るって言わなきゃいいんじゃない? ここはもともと石を掘る場所なんだから、石を掘るってことにすれば……」
「鉱夫から秘密が漏れるかもしれませんね……」
レネがサラにどれくらいの鉱夫が必要か確認すると、最低でも100人は必要だとの回答が返ってくる。
「ちょっと待った! 農地にもそれくらいは必要だぞ!」
農家のルカスも人手については黙っていられない。
「今は30人くらいでやっているが、本当はもっと人手がほしいんだ」
オイゲンも続けとばかりに手を挙げる。
「水道は今50人体勢でやっているが、こっちもカツカツだ。本当は200人くらいは必要なんだ」
「待て待て、住居だってそうだぞ。今のペースで人が増えたら明らかに住宅不足だ。今、10人で村の住居作りをしてるんだぜ。無理があるんだよ」
ディーヴァも懸念を示す。すると、ローレもそっと手を挙げていた。
「私たちの食堂も、2号店、3号店を作らないと食事を担保できないわ。今は家族で村に来る人が少ないし、どうしても食事は食堂頼りになるわよ」
どうやっても人が足りない。しかも、あまり多くを募集しすぎると他の領土から疑いの目を向けられる。時間もそんなにはなかった。
突然、レオンシュタインが立ち上がり1つの提案をした。
「あのさ、ゴート族から働く人を募集したらどうだろう?」
とんでもない話だった。




