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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第1章 新たなる大地

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第143話 どうすんの? このお金

 王国歴163年7月5日 午前11時 グブズムンドル帝王宮謁見の間にて――


「フリッツ殿、よかったですね」


 祝福の言葉をヴィフトが述べるがフリッツはその場に立ち上がることができない。現実のこととは思えず、その場に座り込んだまま放心状態だ。

 

「大金貨2000枚(200億円)は重量もあり運搬には危険も伴います。クリッペン村の沖合まで船で運び、そこから大型カッターで海岸まで運んだらいかがですか? 大金貨1枚(1000万円)で引き受けますよ」


 ヴィフトの提案にフリッツは運賃の格安さに大いに驚かされる。


「是非ともお願いします」


 即答するとヴィフトから1つ提案が出された。


「実は、クリッペン村の港湾予定地の調査を行おうと考えています。担保の査定です。調査が終わるまで調査員3人を村に滞在させたいのですが、いかがですか?」

「勿論、お受けします」

「良かったです。では、彼らの滞在費として大金貨1枚をお支払いします」


 さすがにヴィフトはスマートだった。

 

「あとフリッツ殿、ご存じですか? 我が国の港からユラニア王国の港までの距離とクリッペン村の港までの距離は、わずかな違いしかありません」

「まさか? そんなことが?」


 近くの机にフリッツを誘ったヴィフトは紙に図を描いて位置関係を表す。


「大陸から見て我が国は北西に位置しております。ユラニア港とクリッペン村の沖までの距離に線を引くと」


 ヴィフトの描く線はほぼ同じ距離を示していた。このときフリッツは地図の重要性を痛感した。


(何ということだ……。地図、そして海図は絶対に必要だ)


「これからは気軽にレオンシュタイン殿の演奏を聴けそうです。では、早速、出航の準備をしますね」


 ヴィフトは優雅に去って行った。


 §


 船は滑るように前に進む。船の脇に5匹のイルカが併走して、時折、海の上を跳びはねていく。季節は7月で晴れが多く風も安定していた。船長の見立てでは西風が吹いていれば4日ほどでクリッペン沖まで到着するらしい。


 4日!


 フリッツは船の重要性も痛感した。


(この日数で帝国まで行けるのであれば、継続的な貿易が可能だ。しかもユラニア王都へも3~4日で行くことができる。これからは船が重要な輸送手段になるだろう)


 大海原を見ながら、いつかは自分たちも船を所有したいとフリッツは思う。そして早くみんなにこの成果を伝え、領土発展を進めたいという気持ちが抑えきれないフリッツだった。



 §



「それでは大金貨2000枚、確かにお渡ししました」


 みんなヴィフトの声が耳に入らない。村長宅の机に大金貨の袋が200個、無造作に置かれている。1つの袋に大金貨が10枚入っており、確認のため1つの袋から大金貨が机に並べられる。直径15cm厚さ1cmの金貨はずしりと重い。


 その光は村の未来を暗示するかのようだ。


「前代未聞ですねえ。この大きさの丸太小屋に大金貨2000枚ですからね」


 村にやってきていた喪男同盟のメンバーは圧倒されて口がきけなかった。貧乏な村でボランティア同然で働くのではなかったのか……。

 

「どうか、このお金を村のために役立ててくださいね」


 ヴィフトに近寄ったレオンシュタインはその両手を握りしめていた。


「今、私に何かできることはないですか?」

「そうですねえ。久々にレオンシュタイン殿のバイオリンを聴かせていただけますか?」

「勿論です」


 ケースからバイオリンを取り出している間、周りにいる人は演奏のために詰めて真ん中にスペースをつくり出す。


 椅子が2つだけ残され、それ以外は壁際に運ばれたのだが丸太小屋の中はぎゅうぎゅうだった。


「では、この椅子にヴィフト卿、もう1つはゼビウスさん、座ってください」


 まさか自分が呼ばれると思っていなかったゼビウスは、ぎこちなく椅子に座る。


「ヴィフトさん。ゼビウスさんとの先約がありますので、そちらを先に弾いてよろしいですか?」


 帝国の重臣より自分を優先するレオンシュタインのことを心配するゼビウスだったが、ヴィフトはもう1曲聴けるとご満悦のようだ。

 

「ゼビウスさん、ずっと弾けずに申し訳なかったです。じゃあ、何を弾きましょうか?」

「……あの時の、賛美歌27番を聴かせてもらってもいいか」

「はい」


 そう言うとレオンシュタインの顔が引き締まる。調弦を済ませゼビウスを見て一礼し、すぐに演奏を始めた。本気のレオンシュタインの演奏を聞いたことがなかった喪男同盟のメンバーは、その音に圧倒され壁に寄りかかってしまう。


(な……何だ、これ?)

(凄いというか、そんなレベルじゃ……)


 ティアナはレオンシュタインの様子を見て、その演奏がいつも以上であることをすぐに感じ取る。教会で演奏したときよりも、さらに美しく、心にまで響く音の広がり。ゼビウスはすぐに椅子の前に身体を倒してしまった。


 それを見ていたレオンシュタインはさらに深く音が入り込むように、強く、優しく、そして許しを込めるように弾き続ける。誰も音を立てず、バイオリンの音だけが小屋に響き渡っていた。


(フランツ……、カトリン……)


 ゼビウスは顔を両手で覆い、滂沱ぼうだと流れる涙を抑えることができなかった。最後のフレーズを弾き終わると、ヤスミンはゼビウスの側にそっと寄り添い少し外の空気を吸うように勧めていた。


 頷いたゼビウスは、ヤスミンと共に外に出て行く。


「今まで聴いた27番の中でも出色しゅっしょくの演奏でした。私も胸を打たれました……」


 泣いている人も多くヴィフトも目を赤くしたまま答えている。次はヴィフトのリクエストのため、レオンシュタインは早速、バイオリンを構え直した。


「ゼビウス、大丈夫?」


 外のベンチにゼビウスを座らせたヤスミンが優しく尋ねる。


「ああ、ありがとう。レオンシュタイン殿は相変わらず……だな」


 ゼビウスは少しずつ涙をぬぐい空を見上げる。


「ヤスミン、ありがとう。私は大丈夫。その……、一人にしてくれないか?」


 そっと立ち上がったヤスミンは一人で丸太小屋に戻っていった。あまり灯りのない村のため、ゼビウスの頭の上には星がすぐそこにあるかのように光っていた。


「フランツ、カトリン……元気に……」


 そう言うと、また嗚咽が込み上げてくる。そんなゼビウスを慰めるように、小屋の中からレオンシュタインのバイオリンの調べが響いてくるのだった。

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