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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第1章 新たなる大地

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第141話 村の方針決まる

 王国歴163年5月1日 午後5時 クリッペン村の村長室にて――


 村長の家は丸太小屋が2つ接続されており、丸太がむき出しの武骨な2階建ての建物だった。全員で中を詳しく調べ始めると、西1階には入口があり応接室とリビングが目に入る。西2階は寝室となっており2段の簡易ベッドが6つ置かれ、あまり使われていないらしく、うっすらと埃が積もっていた。


「換気! 換気!」


 手を振りながらヤスミンは2階の窓を開けると爽やかな潮風が窓から吹き抜けていった。全員階段を下り、東側の丸太小屋に移動する。東1階は台所と食事テーブルと6つの椅子が置かれ、さらにその奥は倉庫となっており外に出られるドアが設置されていた。


 入口近くにはエン麦の粉袋が4つ、ジャガイモの袋が3つ置いてあった。天井からは一頭分の豚の干し肉や燻製肉がぶら下げられているため、豚肉の匂いが充満していた。レネは近くに寄り、食べられるかどうかを調べ始めた。


「食べられる肉があって何よりです。正直、助かりました」

「食事できないと何も始まらんからな」


 バルバトラスも燻製肉を一欠片だけ口に含んでみる。きちんと燻製されていて煙の匂いが強い。これなら長期保存も可能だろう。続いて階段を上った一行は、東の2階を探検することにする。西の丸太と同じく二段の簡易ベッドが置かれており、こちらは若干使われていたことが分かる。


 一行は、まず寝室の掃除と布団干しに取り組み、快適な睡眠環境を確保することにした。フリッツとレオンシュタインが見つけてきた麻綱を木の間に巡らし、それに次々に布団を掛けていく。太陽の光が降り注ぐ白いシーツや薄い茶色の毛布が潮風にたなびき始める。

 

「主、そのまま寝てたら、埃だらけになってたよ」


 イルマが木の棒でスパンスパンと叩く度に空中に灰色な煙が広がっていった。海風がそれをざあっと吹き飛ばしていく。あっという間に太陽が真上に昇ったため、バルバトラスやフリッツは倉庫から大きな鉄鍋を運んでくる。


「ジャガイモを茹でよう。調味料は塩だけだけど!」


 ゆであがったジャガイモに思い思いの塩をかけ、皮ごとかぶりつく。


「熱っ!」

「レオン、ゆっくり食べなさい! お行儀悪いわよ!」


 ティアナの呆れたような言葉に全員がレオンシュタインに同情の眼差しを向ける。一行に笑顔が溢れ、明るい声が飛び交う。この村長小屋の周りには10軒ほどの丸太小屋があるに過ぎないため、寂しいことこの上ないにもかかわらずだ。


 みんなのお腹が膨れ、ここから何か素敵なことが始まるんだと、みんな眩しそうに太陽を見上げるのだった。

 

 午後は馬の世話に明け暮れ、あっという間に夕方になる。


 全員、張り切り過ぎたため疲れがピークに達し、エン麦の粥を食べた後はイルマとゼビウスに寝ずの番をお願いして眠りについてしまった。

 

 焚き火を挟んでゼビウスとイルマが丸太に腰掛ける。


「イルマさん、疲れていたら小屋で寝てもいいぞ。俺一人でも大丈夫だ」

「いや全然平気だよ。逆にさあ、ワクワクして眠れない気がするもん」


 黒衣のゼビウスは、ふっと笑顔をイルマに向け、また沈黙する。


「ゼビウスさんはどうなの? 何でこんなところまで一緒に来てくれたの?」


 しばらく焚き火をいじりながら考えていたゼビウスは、ふとその棒の動きを止める。


「興味がでたんだ。優しい国って奴に。みんな、毎日、楽しそうに生きてるからな」

「ふうん」


 イルマは、よいしょと3本の薪を運んでくる。


「じゃあ、その黒い服、やめた方がいいよ。辛そうだもん」

「そうか……」

「私も同じようなことしてたからさ」


 その後は、ずっと黙る二人を焚き火の明かりが温かく包むのだった。


 §


 翌朝、食事もそこそこに全員が丸太小屋1階のテーブルにつき、村の経営について話し合うことになった。会議が始まり、口火を切ったのはレネだ。


「この村の強みは、海があること、川が近く水を得やすいことです。逆に弱点としては、人口が少ないこと、税収がほとんどないことです」


 近くに海があり村長小屋の近くに川が流れている。水深があり船の活用が可能だ。フリッツがそれに続ける。 


「まず稼げる場所を作ることが肝要です。稼げる場所は、とりあえず土木工事や木材の伐採、石材の採掘ですかねえ。ただ、最初の資金はどこからか借りるしかないですね……」


 自分で話しておきながらフリッツは苦笑する。でも今、できることを提案しないと何も始まらない。


「木を切り倒し、それを使えば格安で住宅を準備できます。土木工事は多岐にわたり必要となりそうです」


 そのために開発資金の確保が急務だとフリッツは力強く話す。バルバトラスは寝る場所や食べる場所の重要性を強調する。


「人を増やすには住環境を整備することだ。寝る場所がない、ご飯が食べられないだとすぐに逃げちまうぞ!」


 全く、その通りだ。今のままでは村に誰も住めないに違いない。手を挙げたレオンシュタインは家づくりができる人物をみんなに紹介していた。

  

「住居を作る人はリンベルクで知り合った大工のディーヴァさんがいいと思う。それと喪男同盟のみんなに遊びにきてくれるよう話してみる」


 村の現状を見るにつけ彼らの力を貸してもらいたいという思いがレオンシュタインに溢れていた。シャルロッティは、以前所属していた商業ギルドで別の場所で働きたい人という人が多かったこと、船を作る勉強をしてた姉妹を知っていることを挙げた。


「服飾だけじゃなく、カーテンを作りたいとか、そんな人ぎょうさんおったよ。お金さえ支払われれば、やってくる人は多いと思う。あと船がほしいなら、あの姉妹にに声をかけるとええな」


 勿論、船は絶対に必要だ。


 バルバトラスは大学の知り合いに言及する。


「昔、一緒に働いていた同僚に、石の専門家、医学の専門家がいたなあ。そいつらに手紙を書いてみるよ。あと、大学にも求人を出してもらえれば最高だな」


 レネは元同僚や知り合いの商人に声を掛けることを提案する。カネが稼げるなら、すぐにでも来るだろうと笑いながら話す。


 昼が過ぎてかなり議論がまとまった。軽い昼食を食べているとイルマとゼビウスの二人も寝床から起きてくる。ゼビウスの装いはいつの間にか茶色のチュニックと青色のズボンに変わっていた。それに気付いたイルマは笑顔でウインクする。


「じゃあ、全員揃ったところで優先順位を決めましょう」


 レネの言葉に全員が話し合い、グブズムンドルへお金を借りにいくこと、人材を早急に集めること、住む場所・食べる場所を作ること、の3つが決定した。一番難しいのは、お金を借りに行くことである。なにせ、今、村が立ち上がったばかりで信用も何もあったものではなかった。


 この困難な役目にフリッツが手を挙げる。


「大きなお金を貸してくれる可能性があるのはグブズムンドル帝国くらいです。私が行ってきます」


 喪男同盟にはレオンシュタインが行って話をしてくることに決まる。護衛としてイルマ、ティアナが同行する。商業ギルドへの連絡係としてヤスミンが手を挙げる。そのギルドでは、クリッペン村での仕事の案内、シャルロッティの友達への連絡を行うことになる。


 仕事の案内は土木工事、建築、農作業、林業、水産業など多岐にわたる。アピールポイントは衣食住を保障にする。身一つでやってきて暮らしに困らないのは大きいだろう。


 バルバトラスは、手紙を渡すためユラニア王国のギュンター商会やその近くの大学へ出向くことが決まる。


「まあ、そろそろ1回、家に戻らないといけないからな」


 バルバトラス家のことは謎のままだ。


 レネ、ゼビウス、シャルロッティの3人は留守番になった。


「このままでは村長宅を守れないため、早速地元から兵士3名、お世話係1名を募集しておきます」


 危機的なくらい人がいないのだ。募集を提案したレネにフリッツは、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。


「レネ、お前、アイシャさんはいいのか?」


 アイシャさんとはレネの奥様だ。レネは愛妻家として有名だとレオンシュタインはフリッツから聞いたことがある。


「こんな寝るにも2階へ上がらなきゃ行けない場所へ、愛しのアイシャを連れてくるわけにはいかないだろ。村がある程度発展したらでいい。それまでは、お前の実家で大切に養ってもらえるんだろ」

「ああ」

「じゃあ、安心だよ」


 レネの愛妻ぶりをよく知っているフリッツは、本当は離れていたくないことを痛いほど分かっていた。そのため、まずは自分の仕事を成功させなければならないとフリッツは密かに決意する。


「ところで、我が村にはどれだけお金があるんだ?」


 前村長の金庫には銀貨が15枚入っていただけで、手持ちを合わせると小金貨28枚(約2800万)、銀貨120枚(約120万)となった。

 

「ま、ある分でやっていくしいかないよね」


 現村長レオンシュタインの一言に全員が笑いながら頷くのだった。

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