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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第1章 新たなる大地

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第138話 領土へ向かって

 王国歴163年4月22日 午前11時 シュトラント城 正門前にて――


 横からイルマが、うんざりという表情で口を挟む。


「いやあ、毎日大変だったよ。部屋の壁が薄いからアノ声がダダ漏れでさ。解放されると思うとほっとするな」

「もう行け! そんな女に用はない。お金も返してもらう」


 赤くなって下を向くティアナの様子にマインラートはギリっと口を噛むと、手で追い払うような仕草をする。レオンシュタインに近づき抜け目なく金貨の袋をひったくると、その場を去っていった。


「ありがとう、イルマ」


 イルマに近寄ったティアナは跳びついて思い切り抱きついた。


「あんな奴と関わるのが嫌だからね。さっ、行こ」


 そう言うと、ティアナと一緒に馬車に乗り込んでいった。


「では、出発」


 レネの号令の下、二頭立ての馬車は滑るように前に進んでいく。みんなの待つ宿屋は城からそれほど離れておらず、外で待機組が到着を待っているのが見えてきた。


「領土をもらえたよ!」


 レオンシュタインは叫びながら荷台から飛び降りていた。待機組も走り寄り、レオンシュタインの肩を叩きながら祝福する。宿屋の前にある広場にみんなを集合させたフリッツは、これからの方針を決めるのによい機会だと考える。


 フリッツが呼びかけると、全員が木や柵に腰掛け、輪になる。フリッツに促され、まずはレネが口を開く。


「それではクリッペン村について、私が掴んでいる情報をお知らせします」


 みんなの顔を順々に視線を移しながら、レネはゆっくりと語り出した。

 

「クリッペン村は人口が100名前後の小さな村です。主な産業は石の販売です」


 どこでそんな情報を仕入れたのか、やけに詳しい。


「村の西側に巨木の広がる山地があり、南側は海となっています。なお、海側は切り立った崖となっており船が停泊することを妨げております」

「じゃあ、海から魚を取ることができないんじゃ……」


 レオンシュタインは素朴な疑問をつぶやく。


「その通りです。クリッペン村は、その地形的な理由から漁港として発展しませんでした。村の住人のほとんどは石切場で働いております。それ以外は特に話を聞くことができませんでした」


 聞けば聞くほど、石以外は何もないことが分かる。フリッツも情報を付け足した。


「産業も発達しておらず石材を扱う業者があるくらいです」


 それでも自分たちの領土をもらえたのは嬉しい。


「やりがいがあるってもんだ。わしも久々に畑を耕すか」


 袖をまくり上げながら、バルバトラスが楽しそうに話す。シュトラント地方の4月の気温は15度を超えることもあり、今日は雲があまり見られず春の爽やかな風が吹き渡っていた。畑を耕すにはよい時期だ。


「はよ、どこぞに落ち着いて服の型紙をつくらなあかんな」


 帝国で描きためたスケッチを生かした服を作りたくて堪らないらしく、シャルロッティの鼻息も荒い。今まで本格的にできなかったため、その気持ちもひとしおだろう。


「頼んでいた食べ物の準備はできていますか?」


 レネは一番気になっていた食料を確認すると、ヤスミンが手を上げ、その場に待機組の代表として立つ。


「全員の食料3日分は買った。馬の飼料も積んだ」


 クロートローテンは都会だけあって何でもすぐに買えたそうだ。安心したフリッツが小さいパンとりんごを全員に手渡し、簡単な昼食を取り始める。みんながりんごを囓り始めた頃を見計らって、フリッツが乗馬組と荷台組に別れるよう促した。一人一人の顔が希望に輝いている。


「クリッペン村まで、のんびり行きましょう」


 フリッツの言葉と共に、2台の馬車と5頭の馬は歩み始める。フリッツの馬車にはティアナ、レネの馬車にはシャルロッティが乗り込んだ。バルバトラス、ヤスミン、レオンシュタイン、イルマ、ゼビウスの5人は馬上の人となっている。


 ティアナと二人で昨年の9月に出発してもう8ヶ月が経過していると考えると、レオンシュタインは一際感慨深く、涙が出そうになる。見覚えのある場所を通るたびに、ビコーやルイーズと出会ったのはここだった、ここで眠ったけど身体が痛かった、と思い出は止めどなく湧いてくる。


 あの時2人で歩いていた道を、今は馬車付きの9人で通っている。懐かしい丘や川を眺めながら、その時とは違う春の匂いを感じるレオンシュタインだった。



 §



 3日間、何事もなく9人はゆっくりと南下していった。ピルネの街を通っているときティアナのテンションが上がる。


「ねえ、レオン。スコップ亭が見えてきたよ。寄っていこ」


 馬車が止まるとティアナはすぐに跳び下りて、入口から二人の名を呼ぶ。笑顔で出てきた主人とおかみさんにティアナは抱きついた。そのまま旧交を温めるべくスコップ亭に宿泊する一行だった。翌朝、二人に挨拶をすませるとすぐに一行は領地目指して進んでいく。少し進むと、道の両側にイチゴを売っている人たちを多く見かける。


「ここにりんご売りのおばあさんがいたんだよ。魔術院のマーニさん。今、どうしてるかな?」


 マーニさんのことを懐かしく思ったティアナはイチゴ売りからたくさんのイチゴを買ってしまう。エッシェベルク子爵領(レオンシュタインの兄マインラートの治める領土)の最南端の町ウェンドローまで、雨が降らなかっために行程は順調だった。


 マインラートの妨害があると警戒していたのだが、特に何も起こらなかった。イルマのあの一言のおかげと言ってもよかった。ところがウェンドローの町を過ぎた途端、道幅が狭くなり道路にも石がほとんど埋め込まれず、黄色い土ばかりが目立つようになった。雨が降れば馬車は通行不能になりそうだと予想がつく。


「ヤスミンさん。探知の魔法を時々使ってください」

 道は続いているものの、人が隠れられる木が多くなってきたためレネは周囲が気になるらしい。どの木も大きく枝を広げ、昼であっても薄暗く盗賊がいてもおかしくなかった。


 寝るときも周囲のブッシュを切り開き、安全を確保してから休む9人だった。

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