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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第1章 新たなる大地

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第135話 未来に向かって

 王国歴163年4月9日 午前8時 グライフ公爵領の宿屋にて――


 翌日、出発する前にウルリッヒ卿の使者が宿にやってきて、渡したいものがあるので是非とも屋敷に立ち寄ってもらいたいとの手紙を渡される。すぐさま全員で館に向かうと、門の前でウルリッヒ卿の息子ルドルフが大きな箱を用意して待っていた。


「これは、新シュトラント伯マヌエル卿へのお祝いの品です。今まであまり交流がありませんでしたので、この機会によしみを得られれば幸いです」


 公爵家からの贈り物であれば兄二人は驚喜することだろう。馬車の中へ大人が4人がかりで運び込んでいる。


「こちらが我が父よりマヌエル卿への手紙になります。レオンシュタインさんに王国の外交補佐官をお願いする旨が書かれておりますので役に立つのではないでしょうか」


 さりげなく渡された文書だったが、それを聞いていたフリッツは喜びを必死で隠していた。


「それでは、よい旅を!」


 国境まで安全確保の名目で護衛がついてくることになった。ウルリッヒ卿が王国に許可申請済みとのことで堂々と通行することができる。ルドルフに見送られながら、レオンシュタイン一行はすぐにコムニッツ領に出発するのだった。

 

 護衛の騎士は4名でレオンシュタイン一行と距離を取りながら見守っている。あっという間に、その日の宿泊地に到着した。グライフ領のため治安も安定している。いつもは宿屋を推奨するレネが今日は外で野宿すると提案したため、みんな久々に森で小枝を集めて回る。


 焚き火を囲みながら食事を済ませた後、レネは話を切り出した。


「みなさんと未来の話をしたいと思います。実は我が友フリッツはユラニア王国を滅ぼしレオンシュタイン殿に新しい王になってもらおうと考えています。それについて忌憚のない意見を聞きたいのです」


 突然のカミングアウトに全員、驚愕に包まれ、その中でもレオンシュタインは一番驚いていた。


 レネが口火を切る。


「私は王国に手を出さないことを提案します。グライフ公爵が健在である以上、倒すにはかなりの困難を伴うからです。私たちにも犠牲が出るでしょう」


 まさか隣で王国を滅ぼす相談をしているとは思わないグライフ領の騎士たちは、相談が聞こえない位置でぐっすりと眠りこんでいた。


「別にこの王国を手に入れなくてもいいんじゃない? レオンは王様って()()じゃないよ」


 ティアナが気軽に思いを話しヤスミンとイルマも賛同する。顔を赤くしたフリッツが弁解を始める。


「確かにあのときは勢いでそんなことを話しました。ただ最終地はそこでもいいかと思ったのです」


 誰のどんな意見であってもレネは否定しなかった。


「王にこだわる必要はないと思います。教会勢力と面倒くさいやりとりが出てきますので」


 そこにバルバトラスが参入する。


「わしは商業都市を建設するのが良いと思う」

「商業都市?」

「ああ、領主からの租税負担をなくすために、帝国や王国から都市の自治権を認めてもらえばいい。場所にもよるが王国よりは設立が難しくないと思う」


 バルバトラスの意見は実現の可能性がとても高そうに思える。


「それに商業都市は各国に山ほどある。そこと同盟を組めば、がっぽり丸儲けってわけだ」

「素晴らしい提案です」


 レネは元商人だけあって、その可能性と利点がよくわかった。


「ウチもそういう都市でなら服を作れそうやし、他国にも売れるねんなぁ」


 シャルロッティは目を輝かせる。


「そうだ。今は関税を各地で取っているが、あれは全くの無駄だ。自分の国だけではなく他国からいろんな物を売り買いできるのは楽しいじゃないか! しかも安く!」


 バルバトラスの言葉に熱がこもり、レネはその意見を後押しする。


「商業都市に自治権があるならバルバトラスさんのローマ法を生かせるんじゃないですか? 自治都市ですから」


 フリッツもうんうんと大きく頷いている。


「私たちの目標は、まず領土を得る、次に都市を建設し自治権を確立する、その後、自由都市同盟を推進する、でよいでしょうか?」

「それであれば、みんなが幸せになれますか?」


 レオンシュタインの質問にレネが逆に尋ねてきた。


「幸せは相対的な概念と思われます。どのような状況であっても幸不幸は自分が決めることができます。レオンシュタイン殿が考える幸せとは、どのようなものでしょう?」

「ぼくは、人が互いに助け合い、飢えることなく、自由に買い物ができて……。自分の夢を追い求めることができる……笑顔がいっぱいの……」


 レネの目が優しく光る。


「なるほど。ではイルマさんはどうですか?」

「私は主と一緒に毎日笑っていられればそれで幸せだな」

「レオンシュタイン殿。幸せはこのように人によって違います。ですから私たちは、自分が考える幸せを自由に求められる場所づくりを目指していきませんか? 恐らくレオンシュタイン殿の考える幸せはそのようなものだと拝察しますが」


 納得したようにレオンシュタインの顔が輝く。ようやく、自分の進むべき道がはっきり見えてきたように感じる。


「では、それに向かって各自が汗をかくことにしましょう。真っ先にやるべきはフリッツをシュトラントに派遣することです」


 分かってるよなとばかりにレネはフリッツに目配せする。


「レオンシュタイン殿が王国の外交補佐官に任じられるのであれば、2人の兄もそう簡単に手出しはできません。また、グライフ公爵からの贈り物をもって修行の終了を宣言するのです。そうすれば領土をもらえるはずです」


 フリッツも続けて話す。


「交渉は私にお任せください。一応爵位があり話をまとめることにも自信があります」

「ということで、フリッツに働いてもらいながら、私たちはゆっくりとシュトラントを目指しましょう。美味しい料理を出す店をしっかりとリサーチしてあります」

「わあ、楽しみ」

「ケーキはあるのか?」


 みんなの笑顔を見ながらレオンシュタインは夜空を見上げる。その星々はいつもよりも明るく、そして大きく光っているような気がしたのだった。

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