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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第1章 新たなる大地

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第130話 お前はガキかよ

 王国歴163年4月5日 午後1時 フリッツの馬車にて――


「で、どうだ。あの話、考えてもらえたか?」

「うん、何の話だ? お姉ちゃんの店で豪遊する話か? お前の支払いで」


 少しずつ森の中に入りつつあるレオンシュタイン一行の馬車は、木漏れ日が時折馬車の幌を照らしている。話を誤魔化そうとしたレネだったが、フリッツは笑わなかった。


「レオンシュタイン殿の補佐の件だ」

「お前がいれば十分だろ」


 口を結んだままのフリッツは真剣な顔で前を見つめている。


「いや、シュトラント程度であれば俺だけで構わない。けれども、この王国を滅ぼし新たな王国を立てるためには俺の力では無理なんだ」

「王国……ときたか。でかい話だねえ。騎士団さ~ん、ここに謀反人がいますよ~」


 戯けるレネを見てフリッツも表情を緩めて肩の力を抜く。でも、これは言っておかないといけないとフリッツはレネを見つめる。


「レネ、俺たちはユラニア王国の兵士たちに女を差し出さなかった。たったそれだけのために、この逃亡劇だ。大包囲網が張られてるなんて馬鹿らしい話じゃないか」

「まあ、そうだな」


 ガラリ、ガタンという車輪の音が規則的に響いてくる。しばらく沈黙が続く中、レネは鼻でふんと言いながら、


「俺はな、別に国づくりなんて興味ねえよ」


 と冷めた声で話していた。その瞬間、フリッツは大きな声を出す。


「それは嘘だ!!」

「何!?」


 二人は御者席で互いの襟を掴みあった。


「お前、アイシャさんが笑顔で暮らせる国をつくるって、あれだけ力説してただろ。もう諦めたのか?」

「いや、でも、それには途方も無い道のりと準備が……」

「簡単じゃないことはわかってる。でも、お前は酒場でずっと愚痴をこぼすつもりかよ!」

「うっせえ!! お前は中等学校の生徒か? 理想だけを掲げて酒場で夢を語るような奴に何ができるんだ」


 レネの襟から手を放したフリッツは手綱を強く握りしめた。声は裏腹にとても優しいものになった。


「……俺には夢があった」

「だっさ!!」


 吐き捨てるようにレネは言葉をぶつけていた。

 

「婚約者のアンゲリカと幸せな家庭を……つくるって夢が」


 真剣な表情に戻ったレネは、そっと襟から手を離した。その事情をレネは誰よりも詳しく知っていた。それとフリッツの悲しみの深さもだ。


「俺の婚約者は伯爵の横暴で天に召されてしまった。それに、今度はこの逃亡劇だ。俺たちは、いつまで上級貴族ってやつの横暴に耐えなきゃならないんだ」


 感情を抑えたフリッツの言葉が重い。


「俺は今でも夢に見る。俺の傍らにはあいつがいて、近くで子供たちが遊んでるって夢だ。そのたびに俺は泣きながら跳び起きるんだ。たった一人、ベッドの上にな」


 何も言わずにレネは前を見つめていた。車輪の音が大きいはずなのにフリッツの言葉しか耳に入ってこない。


「俺は、あの男の命を取ることはできなかった。でも、復讐を諦めたわけじゃない。あいつを断頭台に送るか、俺が奴より遙かに幸せになるか、だ」


 お前に復讐は似合わないと言いかけてレネは口をつぐむ。最愛の人を失った男に言っていい言葉ではない。


「アンゲリカさんは、お前に幸せになって欲しいと思ってるはずだがなあ」


 分かってるよと言うようにフリッツは首を振る。


「アンゲリカのいないこの世界で俺は幸せになれるか分からない。でも、俺が下を向いて生活してても、あいつは喜ばない。どこであっても幸せな家族を守りたい、それに自分の全てをかける……って決めたんだ」

「へえ。ご立派だな」


 フリッツは込み上げてきた自分の感情を抑えつけていた。するとレネは明るい調子でフリッツに答える。


「ま、俺の天使であるアイシャが奇異の目で見られない、幸せになる国づくりだったら一枚噛んでやってもいい」

「当たり前だろ。アイシャさんが幸せにならなくて誰がなるっていうんだ?」


 二人にようやく笑顔が戻る。肩をすくめたレネは両手を左右に広げ諦めたような口調になる。


「やれやれ、こんな悪友のために俺は波乱万丈の人生を歩むのか。のんびりスローライフが俺の目標だったのに」

「まあ、幸せ国家ができたら、それをしようや」


 そう言うと二人はがっしりと握手をする。


「ありがとう、レネ。……お前なら受けてくれると思ってた」

「まあ、貧しい人のために全力で東奔西走できるフリッツさまだ。一応、信頼してるよ。世界で一番な」


 そう言った瞬間、レネの表情が引き締まる。


「そろそろ、お客さんが来るかもしれない。対応を話し合おう」


 馬車を止められる広場を見つけると、フリッツはそこに馬車を止めた。ゼビウスもフリッツの馬車を、すぐ後ろに止める。


「起きてください」


 フリッツが全員を起こし、みんなはあくびをしながら荷台から降りてきた。


「さあ、こっちです」


 いつの間に準備したのかレネは飲み物と食べ物を配っていた。


「腹が減っては何もできませんからね」


 そう言うと自身もパンを齧りながら説明を始める。


「この先の森は兵を隠しやすい場所です。私が王国側の人間なら、ここで襲撃します」


 何でもなさそうに話すが内容は重い。


「明るい時間帯で良かったです。それだけでも私たちは幸運ですね」


 夕方の午後4時のため空はまだ十分に明るかった。グブズムンドル帝国とは違い、南方に位置するユラニア王国の日が暮れるのはまだ先だ。みんなの肩から少しだけ力が抜ける。レネはそれを確認すると、次の指示に移る。


「探知の魔法ができる人はいませんか?」


 ヤスミンとイルマが手をあげる。ただ、イルマはヤスミンほど遠距離は探知できないと伝えていた。


 レネは頷くとヤスミンに探知をお願いすることに決める。


「ここから探知できますか?」

「無理」

「じゃあ、少し先まで馬で行ってください。ただし危ない場合は逃げてください」


 レネの提案は明快だった。ヤスミンは驚きながら逃げていいのかと確認する。レネは当たり前という表情だ。


「その時は別の策を練ります。命より大事なものはないです」


 すぐにヤスミンが馬に乗って走っていった。その間にレネは別の話を進めていく。


「戦闘になった場合、近接戦闘ができるのは、どなたですか?」


 イルマ、ヤスミン、バルバトラス、そしてゼビウスが手をあげる。


「なるほど、では魔法攻撃ができる方は?」


 ティアナが手をあげる。


「わかりました。もし、敵を見つけた場合ですが第一は魔法で遠距離攻撃。次は弓で遠距離攻撃、その次に近接戦闘にしましょう。それ以外の方は、荷台で隠れていてください」


 1つ1つゆっくりと成すべき事を教えてくれるレネは、まるで中等学校の教師のようだ。猫背のまま、みんなの前をゆっくりと歩き回る。


「私の目標は命は無くさず、問題解決です。敵も味方も生かしましょう。人は生きていれば何とかなりますからね」


 その考えにレオンシュタインは共感してうなずく。


「こちらの命が危ない場合は遠慮しないで逃げてください」


 そこに馬蹄を響かせてヤスミンが戻ってきた。馬の口をフリッツが取るとヤスミンに手を差し伸べる紳士のレネだった。


「お疲れ様です。どうでしたか?」

「向こうの森。盗賊が10名隠れてた」

「武器は何でしたか?」

「弓は3人、剣が7人」

「素晴らしい働きです」


 ヤスミンを褒め、休息するようにと言いながら水筒を渡し、全員に最終方針を説明する。


「まあ、作戦というほどではありません。魔法の遠距離攻撃で弓を制圧。弓で賊を減らし最後は近接戦闘です」

「では、始めましょうか」


 みんなリラックスしながら戦闘の準備をするのだった。

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