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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第3部 新天地ノイエラント 第1章 新たなる大地

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第129話 こんな馬車に宰相様が?

 王国歴163年4月5日 昼12時 ユラニア港の近くにて――


「良かったですね。これで安心ですか?」


 騎士団から離れていくのを見てレオンシュタインが確認するとレネは即座に首を横に振る。


「いえ、これからが大変です。敵は2つの対処をしてくるでしょう」

「2つ?」

「1つは盗賊を装って襲ってくること、もう1つは相互自由通行権を一時的に停止してくることです。私たちの馬車はかなり前からマークされております。後方に馬車が見えますか?」


 レネの指さす方に馬車が土埃を上げているのが見える。


「皆さんを待っている間、あの馬車の御者と騎士団が話しているのを見ました。相談の後、馬車に3人の男が乗り込んでいます」


 さすがフリッツの友人だけあり、その観察眼は本物だ。


「あと馬に乗った騎士団が私たちの前方へ走っていきました。待ち伏せがあるものと思われます」


 深刻な中身なのにレネは淡々と話している。


「一番安全なのはコムニッツ公爵領への道です。そちらに向かいましょう」

「この人数を乗せる馬も大変ですからね。ま、のんびり逃げましょう」


 2台の馬車の進みはゆっくりだった。どこかで聞いたようなセリフをレネは話すと、いきなり荷台で横たわってしまった。


「しばらく眠ります。フリッツ、お前がいろいろ対応しろよ」

「分かった。寝てろ」


 荷台からは、すぐにレネのいびきが聞こえてきた。馬を御しながらフリッツは苦笑しながら謝っていた。


「許してやってください。レネは昨日から寝ていないのです」


 フリッツは優しい目でレネを見つめる。


「彼は王国内のギュンター商会に勤め、かなりの激務だと嘆いていました。これだけの手配をするのは大変だったでしょう」


 寝ているレネを眺めながらフリッツは話を続ける。


「こいつは財務改善時代の悪友です。伯爵家の財務を改善するときに、どれだけアイディアを出してくれたか分かりません。商会でも馬車馬のように働かされていますが、その程度の男ではありません。国の全てを統括する宰相が相応しい、と私は思っています」


 馬車の中は驚きに包まれる。ここで、いびきをかいて眠っている猫背の男が宰相だとは、どうしても思えない。どう贔屓目に見ても雑貨店の店員さんがぴったりだ。でもレオンシュタインだけは笑わなかった。彼だけはレネに底知れぬ才能を感じたからだ。


「私もフリッツさんと同意見です。宰相が私たちの逃亡を手助けしてくれるのだから必ず逃げられますね」


 それを聞いた全員の表情が緩む。そして眠りが浅く会話が耳に入ったレネの目に涙が浮かんでいた。レオンシュタインは馬車に用意されていた地図を取り出し、バルバトラスに広げてもらう。


「フリッツさん、国境までは何日くらいかかりそうですか?」

「おそらく10日はかかるでしょう」


 目算ではそれくらいに見える。焦っても仕方がない。それを聞くとレオンシュタインも荷台に戻り、身体を横たえて眠りについた。他のメンバーも船旅の疲れがあるので、フリッツに後を頼むと言い残し、前後不覚に眠ってしまった。


 フリッツだけが御者席で馬の手綱を握っていた。後続の馬車はゼビウスが手綱を取っている。


 ハルパの父、カハトラ公爵の友人だからとレオンシュタインは疑いもせずに女性陣を任せている。人を信じすぎると思う時もあるのだが、それが彼の魅力でもあるだろうとフリッツは考える。その危うい部分を自分が守ろうと密かに思うフリッツだった。


 そのまま、ガラガラと音を立てながら1時間は走ったろうか。牧場の広がる丘は見えなくなり荒れ地や木々が多くなり始めていた。そんなとき、むくりと荷台からレネが抜け出してきた。


「おう、レネ!」

「敵は出なかったようだな」


 フリッツが差し出した皮袋を、レネはひったくるように奪い取って喉をならしながら水を飲む。ぷふうと息を吐き出して口を拭ったレネは、くだけた口調でフリッツを茶化す。


「フリッツ。こりゃあ、きつい逃亡だ。相手はユラニア王国だからな」

「腐った……が抜けてるな」

「そうだ。そこが狙い目だ。お前から送ってもらった金が力を発揮してる」


 ズルそうな表情でフリッツは笑い、レネもつられて口角を上げる。レネは皮袋を放って返し、フリッツは空中で受け取り荷台へとしまい込む。しばらく二人とも黙ったまま前を見つめていた。


「で、どうなんだ? 俺たちは無事に脱出できるのか?」

「まあ、6割ってとこかな」

「そんなに低いのか?」

「誰にも被害が出なければってことだ。2割は敵に被害が出るし、あと2割は敵と味方に被害が出るだろうな」

「なんだ。100パーセントか?」

「物事に100パーセントはない。でも、かなりの確率でいけると思う」


 レネはニヤリと笑い、二人は顔を見合わせる。


「じゃあ、こちらに被害が出ないようにしないとな」

「その通りだ。わが悪友よ」


 馬車はしばらくの間、馬が地面を蹴る蹄の音だけが響いていた。

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