第13話 同室? ぼくは紳士!
王国歴162年9月5日 昼 ピルネの町にて――
2人は町を歩きながら、ビコーが教えてくれたスコップ亭を探していた。市庁舎のすぐ隣だということで大通りを真っ直ぐ歩いていくと、気がつけば目の前に目当ての宿が建っていることに気付く。小さな2階建ての宿で薄いクリーム色の壁がとても綺麗だ。
屋根のあるところで休めると2人は心底ほっとした。
受付でビコーからの紹介だと話すと、すぐに食堂へと案内される。サービスの良い店との評判は間違いないようだ。
テーブルが6つ備えられた食堂は、外の景色が眺められる窓際の席では町の賑わいがよく見える。レオンシュタインは窓際の席に腰を下ろし、ティアナは向かいではなくレオンシュタインの横にちょこんと座る。
(レオンシュタイン! お前は紳士! 紳士! もう二度と間違った行動を起こさないぞ!)
とレオンシュタインは決意していたし、
(ティアナ! 明るい声よ、声! これ以上、我が儘してたらメイド失格だもんね)
と、ティアナも心に期するものがあった。
2人は椅子に腰掛けると、ぎこちなく笑い合う。けれども会話が弾むわけでもなく、しばらくテーブル席は沈黙につつまれていた。
やがて厨房の方から肉を焼く匂いが漂ってくる。
付け合わせのザワークラウトとともに、山盛りのソーセージが大きな皿に載せられ、テーブルの上にどんと置かれる。2人はすぐさまフォークでソーセージを突き刺すと、プツン、パツンという音がして脂があふれ出た。二人は急いで口へと運ぶ。
「熱! でも、ん~!!」
「これは、おいしいね! ティア」
賞賛の声を上げながら二人はソーセージと格闘し始めた。噛んだ瞬間にブリンとした弾力を感じ、口の中に肉汁が溢れていく。美味しい食事は当然、口を滑らかにした。安堵と美味しい食事が2人の中を元に戻していた。
トマトのサラダも運ばれてきて、その新鮮な赤色が食欲をそそる。口に入れた瞬間、トマトの香りが油臭さを吹き飛ばし、酸っぱさが口の中に広がっていく。
素晴らしい夕食に舌鼓を打ちながら、二人の会話は自然と明日の予定になる。
「この近くに施療院があるって聞いてるよ。明日はそこでレオンの足を治療しよう」
レオンシュタインが足を痛めていることをティアナはちゃんと知っていた。
そう決めたティアナはフォークの横に置いてある赤ワインに手を伸ばし、レオンシュタインのコップに注ぐ。お礼を言ってレオンシュタインが口に含むと、葡萄の瑞々しさが残っているようで、とても美味しい。
「泊まってる間、私、この宿で働こうかな」
赤ワインに手を伸ばしていたレオンシュタインは、手を止めて感謝の気持ちを表す。
「いいの。そのためについてきたんだから」
屈託無く答えたティアナとしばらく赤ワインを楽しみながら、しばらくこの宿に逗留すること、足の回復を図ること、ティアナが働くこと、が決まったのだった。
お腹が満腹になるまで食べた2人は部屋のある二階へと階段を上がっていく。
部屋の前に立ったレオンシュタインは、別室に行くであろうティアナにおやすみを話そうとしたが、それより先にティアナが部屋の中へ入ってしまった。
ええっ? と訝しげな顔をするレオンシュタインだったが、ティアナはもう部屋の中だ。これは紳士としてダメなんじゃないだろうかとレオンシュタインは焦ってしまう。
レオンシュタインが部屋に入ると、そこにはベッドが2つ置かれているのが見える。ええ! この状況は……とレオンシュタインはうろたえる。
「ここはティアの部屋だった?」
「一部屋しか空いてないって言わなかった? さ、早く着替えましょ。もう寝る時間ですよ」
何でもなさそうに話したティアナは、自分のベッドにバックをポイっと投げる。
(自分が気にしすぎなんだよ。旅の相棒なんだから、自然に、紳士に振る舞うんだ、レオンシュタイン!)
(ま、まさか誘っているように思われたかな? で、でも、信じてるわよ。レオン! まだ早いわよ!)
意識しすぎかと考えたレオンシュタインは、さりげなく服を脱ぎ始める。慌てて後ろを向いたティアナも上着から脱ぎ始めていく。
それを見たレオンシュタインも、ぐるんと反対側を向き、衝立に手を伸ばす。
「あ、衝立があるね。これをベッドの横に立てておこうよ。イビキをかくかもしれないからさ」
「そ、そう?」
衝立の陰で、電光石火の早さで着替えたティアナは、すぐにベッドに潜り込んだ。
「ああ~。久々のベッド~」
うれしそうなティアナの声を聞きながら、レオンシュタインもベッドに潜り込むと、シーツから太陽の匂いが漂ってくる。久々の匂いにレオンシュタインは心から安堵した。
気がつくとティアナはあっという間に、すうすうと寝息を立てる。
レオンシュタインがそっと部屋の灯りを消し、ピルネの夜は静かに過ぎていくのだった。




