第125話 夏の始まりの日1 ハルパvsティアナ
王国歴163年3月31日 午後5時 港近くのパーティー会場にて――
「それでは、これより 夏の始まりの日を開始します」
「フォー!!」
吉兆の大パーティーがスタートする。準備は、カハトラ公爵家の執事が取り仕切っていた。時刻は午後5時で辺りは既に真っ暗となっていたが、
「わあ!!」
空に緑の蛍光色のカーテンがたなびいていた。オーロラがいつもよりも明るく、広く空を覆っている。会場に来ている人たちは、いやが上にも盛り上がる。
「それでは、吉兆をもたらした公爵家のアメジスト、ハルパ嬢です!!」
手をひらひらさせながら、ハルパはステージ中央に歩いて行くと、大歓声が沸き上がる。収容人数が5000人を超える野外ステージは超満員で、会場に入れない人たちは周辺で踊りが始まるのを今か今かと待っていた。その数はどうみても、収容されている人数の10倍は超えている。
この地には吉兆をもたらした人は幸せになれるという言い伝えがある。その吉兆を祝うことで自分たちにも幸せがやってくるとグブズムンドルの人たちは固く信じていた。
「それでは、皆様。お酒を持ちましたか? では、乾杯!!!!」
「乾杯!!」
「吉兆に!!!」
「お嬢さまに!!」
その瞬間、空に大きな花火が打ち上げられる。大きな音とともに赤や緑の色彩で空が彩られ、昼かと思うほど明るく照らされる。花火は途切れずに空に上がり、隣の人の声も聞こえないくらい爆裂音が響く。会場のまわりには屋台がいくつも建ち並び、焼き肉や酒、はてはアクセサリーまで売り出す始末だった。
さらに寒さ対策のために、数多くの焚き火が赤々と燃え盛っていた。薪の焦げ臭い匂いが、肉の焼ける匂いと混じりながら会場に広がっていく。焚き火から立ち上るオレンジ色の光が、空の花火に小さなアクセントをつけていた。
「本当に昼みたいだね」
ステージから降りてくるハルパに、レオンシュタインが声を掛ける。
「そうね。何だかワクワクしない?」
とびきりの笑顔のままでハルパは答える。
夏の始まりの日を自分が開催するとは夢にも思わなかった。自分の気持ちを素直に伝えることができたし、自分が慕う人といられる時間が1日伸びた。それらは、何よりも嬉しいことだった。
「さあ、レオン! 早速、踊るわよ!!!」
「ええ? 踊りはもう十……」
「お・ど・る・わ・よ!」
レオンシュタインの手を引っ張りながら、広場の中央に移動する。すでにバルタザル交響楽団はステージ横に控えていた。団員たちの顔は嫌々といった顔ではなく、吉兆で演奏できる喜びに溢れていた。自分たちの願いを音に乗せ、吉兆に託すのだ。
会場にグブニッシュ・ポルカの音色が鳴り響く。世界一の交響楽団が奏でる踊りの演奏は、高貴な音の中にも楽しさや喜びが溢れている。5000人の男女が音楽に合わせて踊る様は、まさに壮観と言えた。
「あははは、レオン! 相変わらず下手ねえ」
ハルパはずっと笑顔のままだった。レオンシュタインと一緒にいられる時間が楽しくて、愛しくて、たまらない。ハルパの笑顔が見られたことで、レオンシュタインは本当に良かったと単純に喜んでいた。
レオンシュタインが踊っている時、背中が誰かにぶつかる。
「ごめんなさい」
と、謝った相手は仁王立ちしたティアナだった。今日、ティアナは仮面を外していたため、ここに来るまでに数多くの男たちを振り切っていた。いや、今も後ろに男どもがひしめいている。
「レオン、もうハルパさまとは十分に踊ったでしょう? 次は許嫁である私と踊りましょう」
許嫁を3倍ほど強調した声でティアナが話しかけてきた。しかし、ハルパは全く怯まなかった。
「あら、レオン! こんな方がいたなんて知らなかったわ。まあ、知らなくてもいいけど」
バチバチと火花が散るような舌戦が始まる。
「あらあ、確かレオンに助けてもらって勘違いした公爵令嬢でしたか?」
ティアナは一歩も引かない。
「いいえ、レオンは学院生活を楽しんでおりましたわ。そう、私との日々をね」
一歩前に出たハルパはティアナを睨み付ける。周りにいた男どもは、その華麗な二人から目が離せない。さらに舌戦が続く中、レオンシュタインはそっと会場から外に出て行った。
空には花火と、そしてオーロラが光っていた。




