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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第2部 華やかな北の都 第6章 公爵令嬢ハルパの物語

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第117話 ハルパとの出会い

 物語は少し前に遡る。


 王国歴162年12月18日 昼12時 ケブラピーク音楽院 大講堂にて――


 自己紹介が終わった後、レオンシュタインは席が空いている場所を見つけたので、そこに座り込んだ。そこに座るのか? という視線が集まるのを感じたが、他に行くところがない。横にはレオンシュタインと同じくらいの年頃の、紫の髪の少女が座っていた。


 眉毛がきりっと上がり、目つきも鋭い。肌は白く、大陸ではあまり見かけない尖った印象を受ける顔立ちの美少女だった。髪の毛が片目にかかっており、顔の半分しか見ることはできない。微かにレモンに似た柑橘系の香りが漂ってきて、レオンシュタインはエニシダ(金雀枝)という花の香りだったと思い起こしていた。

 

「よ、よろしくね」


 軽く挨拶をしたレオンシュタインだったが、少女はただ小さく頭を下げるだけに終わった。そのまま接点はなく授業は終わってしまった。


「ああ、そうだ。ハルパさん。レオンシュタインさんに院内の案内をしてもらえないかしら?」


 立ち去る際に教員はハルパにレオンシュタインの案内を依頼していた。

 

「……別にいいですけど」


 無表情のまま低い声でハルパは答え、これ見よがしに溜息をついて立ち上がった。


「……じゃあ、案内する」


 レオンシュタインに近づいて来たため、レオンシュタインは喜んでハルパに相対する。よろしくと手を差し出したが、その手は何も掴まず、ハルパはじっと立ったまま、そのの手を見つめていた。気まずい沈黙が数秒間続く。やがて、ハルパはゆっくりと動き始めたため、レオンシュタインは慌ててその後をついていった。


 様々な場所をつっけんどんに説明をしていくハルパは、見た目とは裏腹に、本当は優しく親切なんだろうとレオンシュタインは想像する。2階の研究棟の廊下に差し掛かると、突然、


「おい、ハルパ! もう覚悟はできたか?」


 と声を掛けられる。


 上等の服を着ていることから考えると上級貴族なのだろう。その男と取り巻きの3人が、ハルパの前に立ちはだかった。ハルパの表情は、目の前に葉っぱが落ちてきたくらいに全く変わらなかった。


「何が?」


 全くとりつく島がないが、その軽薄そうな男たちはニヤニヤ笑いながら、向こうに行ってしまった。ハルパは何もなかったかのように、


「……じゃあ、次はカフェテラスね」


 と無表情で案内を続行した。


 結局、30分の案内の中で、レオンシュタインとの会話は0だった。ひたすら()()だけを続けたのだった。


 次の日も、そのまた次の日もハルパは講堂に一人で座っていた。そのため必然的にレオンシュタインもその隣に座ることになった。師匠の命令通り、レオンシュタインは友だちになろうと声をかけ続けたが、ハルパの態度は基本的に無視だった。レオンシュタインが困っているときには手を差し伸べるけれども、ほとんど会話にはならなかった。


(どうしたもんかな)


 このままでは、師匠の言いつけが守れないし、それにしてもハルパの態度はかたくなすぎた。悲しいことや辛いことを抱えているに違いない。そう、確信したレオンシュタインは話しかけるのを止めないのだった。


 §


 2日後、レオンシュタインは教員から専攻を決めるように言われてしまった。教員は、毎日プラプラと院内を歩いているのが気に触ったらしい。そろそろ何かに取り組まなきゃな、とレオンシュタインは考える。何がいいか頭を捻っていると、ふと1つの楽器が頭に浮かんだ。


「パンフルート?」


 意外な楽器の名前に横にいたハルパは首をかしげる。レオンシュタインは彼女にパンフルート専攻の研究室を案内してくれるように依頼していた。その研究室の場所をすぐに思い出すことはできなかったようで、ハルパはレオンシュタインを連れて、あちらこちらを探し回った。


 目指す研究室は研究棟の最も奥に存在していた。パンフルートを専攻している生徒は2人しかおらず、しかもほとんど研究室には来ていないとのことだった。担当の教授もフルートとの掛け持ちだった。


「……どうすんの?」


 ハルパが無表情に尋ねるとレオンシュタインはここに決めたと告げる。


「以前聞いたパンフルートの演奏が忘れられないから、ここでやってみるよ」

「……そう?」


 教官から楽器を手渡されたレオンシュタインが演奏にトライするのをハルパは無表情で眺めていた。レオンシュタインは音を出そうと息を吹き込んでいるが全く音ができない。そのうちレオンシュタインの顔が赤くなってくる。


「ふっ」


 思わずハルパが笑ってしまう。その瞬間、レオンシュタインの顔がぱっと明るくなる。


「そんなに変?」

「……ま、まあ」


 どうやらツボに入ったらしく笑いが抑えられない。そのまま5分間は口を押さえて笑うハルパだった。そんなことがあってから、ハルパとレオンシュタインは昼に一緒にご飯を食べる程度には仲良くなった。


 今日も一緒にご飯を食べていると、以前絡んできた貴族たちがやってきた。


「おいハルパ。演奏会は3ヶ月後だぞ。気持ちの整理はできたか?」


 そういうと、すぐに取り巻き達と一緒にその場を去って行った。レオンシュタインは演奏会だというのに、ちっとも明るくならないハルパの様子が気になった。


「ハルパ? 演奏会って?」


 尋ねると、意外な答えが返ってくるのだった。

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