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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第2部 華やかな北の都 第5章 ティアナの物語

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第115話 踊るティアナとアントリくん

 王国歴163年2月10日 朝9時 魔法学院 大講堂にて――


 2月に入ってから寒さが一層厳しくなった。朝に輝くダイヤモンドダストは凍てつく大地で小さな虹のようで、その美しさが少しだけが寒さを忘れさせてくれる。


 今日の講義は大講堂のため、一般教室よりも寒い中で勉強することになる。いつものようにアントリと並んで座っていたティアナは、何度もほうっ息を吐き出していた。大講堂では、わずかに白い息となるのだ。


「ねえ、アントリくん。この国の春はいつやってくるの?」

「そうですねえ。一応4月ですけど、本格的に暖かくなるのは5月ですね」


 窓の外は相変わらず凍てついた氷の木々が広がっており、それを眺めながらアントリは答える。暖房で暖められた室内でもティアナは寒さに震えていた。


「おはよう、ティアナさん」


 最近、ティアナとアントリの周りに人が増え始めた。平民や男爵家の女子たちはビルキルトを倒したティアナの魔法を見て興味を持ったらしい。周りが賑やかになってくると、アントリはその場からそっと離れようとする。そのたびにティアナはアントリの服を掴み、その場に留まらせる。


 最近では、アントリも会話の中に入れるようになってきたのが嬉しいティアナだった。


「ティアナさん。オーロラパーティーには誰と参加するんですか?」

「まだ、決めてない」


 当然レオンシュタインと踊ろうとティアナは考えていた。けれどもレオンシュタインは音楽院の同級生ハルパと踊ることを夕食の場で宣言していた。思わず雷の矢を出しそうになったティアナだったが、伯爵家のビルキルトに脅されていると聞けば、私と一緒に、とは言えなかったティアナだった。


 それでもモヤモヤは残る。


 その様子を見ていたレオンシュタインは、ハルパとのダンスが終わった後に踊ろうと誘ってくれたのだ。


「ティア、最初に踊れなくてごめんね」

「しょうがないなあ。でも、踊るのを楽しみにしてる」


 謝るレオンシュタインの腹を叩きながら笑顔で答えていた。回想して口元に幸せそうな笑みを浮かべたティアナを、アントリは少し寂しそうに見つめるのだった。



 §



 二人の魔法練習は順調に進み、ティアナの習得した魔法は、1光球、2分光球、3解呪、4雷の矢、5雷、6雷の回旋、7雷の嵐の7つになっていた。


「この分光球って便利よね」


 研究室の中でティアナは2つの光を出しながら、1つの光をあちこちに移動させていく。


「そうだね。2つを同時に動かすという術式は応用が利くよ」


 分厚い本を見ながらアントリが答える。


「何々? 最終試験の勉強?」


 光球を消して本を覗き込むティアナの金髪から、ふわっとローズマリーの香りが漂う。この匂いはいつもアントリにティアナを思い出させる。そのためアントリのフォレイ男爵家では、石鹸をローズマリーの匂いがするものに代えられていることをティアナは知らない。


「う、うん。最終試験の相手はケーティトリだからね」


 ティアナの仮面が近すぎて、アントリは少しだけ反対側に身体を離してしまう。


「で、勝てそうなの?」

「まあ、やってみるよ」


 3月の最終試験はティアナに勝つところを見せたい。自分との思い出をずっと心に残して欲しいと願うアントリは、必死な研究を続けていた。そんなアントリをティアナは、いつも優しい眼差しで見つめるのだった。



 §



 学園主催の「オーロラパーティー」当日。


 1年を締めくくるこのパーティーに参加する子弟子女は、さすがに華やかな装いに身を包んでいた。公爵家まで参加するこのパーティーは格式も高く、ドレスコードも厳しい。


「おい、アントリ。お前、パートナーはどうした?」

「今年も壁の花、いや、壁の煉瓦か」

「情けないな。まあ、男爵家だしな」


 上級貴族たちは嘲笑い、自分たちの優位を見せつけようとする。男性たちの傍らにはパートナーがいて、アントリを蔑んだ目で見つめていた。

 

「遅れちゃった。アントリくん」


 その場が光に包まれるような華やかな女性が登場する。金髪の影に隠れるように輝く空色の瞳と形の良い薄桃色の唇は男たちの目を引きつけて離さない。


 ティアナだ。


 仮面をつけず、髪には赤い薔薇の花をつけ、それがとても似合っている。薄いピンクを基調とした胸元が結構開いているグブズムンドルのドレスだった。グブズムンドルでは当たり前らしいが、ティアナは結構、恥ずかしい。


「ごめんね。待ったでしょ。」


 アントリの腕に手を掛けて艶やかに微笑むのを見て、周囲の男たちは一斉にティアナに釘付けとなる。


「お、おい、誰だよ。あの絶世の美女は?」

「確か留学生のティアナさんだと思う」

「あの美しさは息子なんかには勿体無い。是非、私の側室に」


 会場中に騒動を巻き起こす中、アントリとティアナは会場をゆっくりと進んでいく。アントリはティアナの耳元で小声で話しかける。


「ティアナさん、どうしたの? パートナーだなんて嘘ついて」

「いいじゃん。あの人たち、すっごく感じが悪いから。見せつけてやりましょ!」


 やれやれとアントリは肩をすくめる。パーティーが始まってからもティアナのもとにやってくる男たちは引きも切らない。そのためアントリはティアナへの挨拶をシャットアウトするガードマンのような役目をこなしていた。


「なるほど……僕は防波堤ですか?」

「へへ、ごめんね。でも、いいじゃん。こんな美人と一緒に過ごせて」


 小さな舌をぺろっと出す仕草も最高にキュートだ。


「自分で言うな!!」


 けれどもアントリは本当に幸せだった。自分の憧れている女性が何であれ自分のパートナーとしてそばで笑っている。その笑顔が紛れもなく自分に向けられていることは、やはり幸せを感じるのだった。


「1曲踊ろうよ、アントリくん」

「喜んで」


 押し寄せる男たちから逃れるようにティアナがステージへ移動する。ティアナと向かい合い、その手を握る。悪戯な表情で口角を上げながらティアナは微笑んでいる。ティアナの美しさに腰が引けそうになりながらも、アントリは負けないように前に出る。


(好きな相手なら前に出なくてどうする)


 音楽が始まり、アントリは積極的にティアナをリードする。楽しく踊るグブズムンドル・ポルカなのに、二人の踊りだけは優雅なワルツのように見える。ティアナの美しさをさらに引き出すようなアントリの踊りにも注目が集まった。


「ねえ、アントリくん。私たち注目されてるねえ」

「僕のリードが素晴らしいからですね」

「自分で言うな!」


 そう言い合いながら笑顔でくるくると回転する。幸せなオーラをまき散らし、見ている人たちをみんな笑顔にしてしまう。踊りでも会場中の話題を集めた二人だった。


 けれども、ティアナはレオンシュタインと踊ることができなかった。


 ある事件が発生し、会場が大混乱になったからだ。パーティーも最後は盛り上がらないまま、終わりを告げたのだった。

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