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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第2部 華やかな北の都 第5章 ティアナの物語

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第114話 ビルキルトと模擬戦

 王国歴163年1月27日 昼1時 魔法院 大講堂にて――


 1月も末になり、ティアナは魔法院での生活に大分慣れてきた。友人はアントリだけだったが、アントリは魔法に詳しく魔力も膨大だった。二人で研究室へ入り浸っては新しい魔法の習得に余念がない。けれども、時々、伯爵家のビルキルトが絡んでくるのが鬱陶しい。


「ティアナさん。今週の金曜日、私の屋敷でホームパーティを開くんです。気楽な会ですから参加しませんか?」

「いや?  遠慮しておきます」


 ティアナはあっさりと拒否するが、女性に誘いを断わられたことのないビルキルトは、その答えが信じられない。気を取り直しキラキラが3割増しの笑顔でティアナを誘う。


「ぼ、僕の聞き間違いかな? ホームパーティに来てくれませんか?」

「遠慮しておきます。ごめんね」


 手を振ってはっきりと断ったティアナはアントリの方に体を向ける。


「ねえ、アントリくん。今日、魔法の練習に付き合ってもらえない?」

「ええ?」

「いいじゃん。どうせ、暇でしょ?」


 笑顔のまま片目を瞑って、右手でくるくるとアントリをからかう仕草を見せる。


「余計なお世話です」

「あはは、うそうそ。一緒に付き合ってよ」


 バンバンとアントリの背中を叩いて早く行こうとティアナは催促する。


「はいはい」


 そう言いながら二人は研究室へ向かって歩いて行ってしまった。その場にはビルキルトとその取り巻きだけが残される。周囲の令嬢たちが、幻滅の眼差しでビルキルト一行を眺める。


「何、あれ? だっさ」

「メイドごときに断られるなんて、伯爵家も落ちたものね」

「アントリくんってお金持ちなのかな?」


 令嬢たちは口さがない。ビルキルトは怒りで真っ青になりながら取り巻きたちと去って行った。


 一方、研究室に向かった二人は、魔法の術式の組み直しについて話し合っていた。5m四方の狭い部屋で、自分の好きな魔法と憧れの女性と過ごせるのは、何よりも嬉しいアントリ去った。ただ、いつも自分と過ごしているティアナを気の毒に思う。


「いいんですか? 毎日、こんな男爵家ごときを相手にして」

「ほら、 また。()()()なんて言うのやめなよ」


 軽く咎めてくれるティアナの優しさが嬉しい。


「でも、他の令嬢達と仲良くしても……。いいかなと」

「うん。でも私、メイドだしね。あっちも気を遣うみたいでさ」


 いや、絶対違う意味で腰が引けてるとアントリは思う。1ヶ月ほど一緒に過ごして分かったことはティアナはアントリの容姿に全くの無頓着ということだった。いつもコロコロと鈴のように笑っては、背中を叩いたり、からかったりしている。


 今日は腕をまくりながら、イタズラな声を出している。仮面の下の顔が目に浮かぶようだった。


「さ、じゃあ、今日もいくわよ」


 と言いながら魔法を詠唱する。ティアナの手が黄色い雷に覆われ、雷の矢が出現する。


「アントリくん、実は雷の矢をパワーアップさせたいんだけど」


 パッと雷の矢を消しながらアントリに尋ねると、彼の顔つきが真剣になり、しばらく考え込んでいた。やがて、考えついたとでもいうように、アントリはティアナの前に3本の指を突き出した。


「回旋の魔法と組み合わせるといいと思う。3つの魔法体がくるくる回りながら1つに収斂していくから威力は3倍になるよ」


 3本の指を横に傾け、くるくると回転させる。見た感じも格好いい。


「何それ? 強そう! やってみる」


 お礼を言いながら、早速、詠唱する。


「雷の回旋!」


 けれども何も起こらなかったため、ティアナは明らかにがっかりして肩を落としていた。アントリは溜息をつく。


「回旋の術式が先だよ。さあ、もう一回」


 アントリは根気強くティアナに教え、暗くなる頃にようやく三本の雷が同時に出せるようになるのだった。



 §



「今日のテストは各自に防御の魔法をかけた模擬戦形式で行う」


 教官の言葉に講堂に座っていた生徒たちの間に緊張が走る。模擬戦は身を守られていると分かっていても、本当の戦いと同じ状況のため怖さが先に立つのだ。

 

「ただし使えるのは下級魔法のみとする」


 それを聞き、ティアナは自分が使える魔法を指折り数えてみた。光球と雷の矢の2つしかなかった。


「ティアナ、前に出なさい」


 突然、教官からの指名が伝えられる。


 2つの下級魔法では戦えないとティアナは辞退しようとすると、突然、ビルキルトが対戦相手として立候補してきた。


「勝負だ。ティアナさん。あなたが負けたら私の家で一緒に食事をしましょう」

「じゃあ、私が勝ったら?」

「この町で一番のレストランにご招待しますよ」


 ティアナにメリットが何もない。辞退を申し出ても教官は聞く耳を持たず、試合をしろの一点張りだ。

 

(嵌められたな)


 その様子を見ていたアントリは苛立ちを隠さない。この教官は伯爵家と親交があり、以前からビルキルトを特別扱いしていた。


「ティアナが勝ったら、雷の中級魔法の本を贈与するということでどうですか?」


 アントリの言葉に会場中の賛同が集まり、教官は首を縦に振らざるを得なくなった。ティアナからありがとうと可愛らしく手を振られる。


(言って良かったあ)


 男爵家が伯爵家に物申すのは勇気がいることだった。けれども、それができなければ彼女の横に自信を持って立つことができない。少しだけ自分が好きになったアントリだった。


 結局、ティアナは断ることができずに試合会場に移動することとなった。勝てば一緒の食事がなくなっただけでも良かったのだけれども。模擬戦の会場は屋外の円形劇場で行われることになり、魔法学園の生徒たちは皆ぞろぞろと移動していく。


 時々青空が見える冬晴れ中、会場の中心に立ったティアナとビルキルトは、向かい合ったまま簡単なルールの説明が告げられる。


「降参するか、防御魔法に大きなダメージが入った瞬間、敗北になる」


 教官の声を遠くに聞きながらティアナはすぐに作戦を考え始める。

 

「では、始め!」


 すぐに勝負が始まり、考える時間を与えてくれない。ビルキルトは土の 魔法を繰り出し、ティアナの周りに土の棘が何本も突き出てくる。


「ん、やっかいだな。もう」


 雷の魔法は土の魔法と相性が悪い。軽やかに逃げ回りながらティアナは戦法を考え続ける。繰り出す雷の矢は、あっさりと相手の土壁に吸い込まれてしまう。


「やっば」


 石の弾丸ストーンバレットが次々と飛んでくる中、打開策が考えつかない。そんな時、一人の男の子が何かを叫んでいることに気づく。


 アントリだ。


「ティアナさん! 光球から回旋だ!」


(光球? 確か、前それで隙を作れって……。そっか!)


 ビルキルトが詠唱する瞬間を見計らって、ティアナは光球の魔法を繰り出す。光球は相手の眼前で光り輝いた。


「うわ?」


 思いがけない攻撃に術式が一瞬だけ乱れ、できた土壁は先ほどよりも薄くなっていた。


(今!)


 ティアナは『回旋の雷』を2つ同時に繰り出す。3本の雷の矢は回転しながら土壁を抉り、1つ目が消えると同時にもう1つがその開けた穴をくぐり抜けていく。雷の矢はまっすぐにビルキルトに向かっていき、そのまま直撃した。ビルキルトの防御魔法が作動し、ティアナの勝利が確定した。


「ティアナくんの……勝ちだ」


 忌々しそうに告げる教官の声をよそに、ティアナはピョンピョンとその場で喜びを爆発させていた。


「いえーい。アントリくん。作戦バッチリだったよ」

「ティアナさんの魔法が良かったね」


 ハイタッチをしながら二人は笑顔になる。負けたビルキルトの顔が歪み、二人を睨み付けながら会場を後にする。空を見上げると、いつの間にか上空に黒い雲が立ちこめていた。

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