第11話 こじらせた2人
王国歴162年9月4日 昼前 ピルネに向かう街道の上にて――
あの出来事以来、ティアナはレオンシュタインから距離を取って歩くようになった。ご飯のときも隊長のビコーやおかみさんの側から離れないので、謝ることすらできない。仮面がいつものように顔にへばりついていて表情をうかがうこともできないのだ。
(このままじゃティアナが城に帰っちゃうんじゃないか? なんて馬鹿なことをしたんだあああああ)
レオンシュタインの後悔は、すでに100回を数えていた。朝もあまり食欲がなく残してしまうありさまだ。
ティアナはティアナで自分の感情を鎮めることができないでいた。
(何よ。可愛い女の子がいたら、平気でいやらしいことを誘ってくる男だったの? 誰にでも優しいところが良かったのに……)
もやもやとした感情のままティアナは無言でひたすら歩く。少しずつ街道の脇に家がちらほらと見えるようになり、その景色がどんどん後ろに流れていった。
(私がメイドになる前から、遊んだり、優しくしてくれたのに。べ、別に嫌いじゃないし、その……許嫁(※本人の思い込み)なんだし……)
こっちはこっちで、いろいろと拗らせているようだ。
(だいたい、ロマンチックじゃないのよ! もっとこう素敵な場所で話してくれたら、私だって別に……OKする……かも?)
「ティアナちゃん、大丈夫? かなりペースが早いけど」
「ひゃ、ひゃい」
おかみさんのルイーズが心配そうに話してくる。考えに集中していたティアナは跳び上がらんばかりに驚いた。
「ほら、レオンくんを許してあげたら。あんなにしょんぼりしてるじゃない」
見れば最後尾を1人でとぼとぼ歩いている。
「ティアナちゃんがすっごく綺麗な子だったから、びっくりして舞い上がっちゃったのよ」
ルイーズさんも昨日のティアナの顔を見て、腰を抜かさんばかりに驚いたことをまざまざと思い出していた。
「ね? 許してあげたら」
それでもティアナはぷいっと横を向いたまま、歩き続けるのだった。
(あらあら)
時間が解決してくれると思ったのかルイーズはそれ以上何も話さずに歩き続ける。
結局、二人はほとんど会話もしないまま、その日は離れて眠りについたのだった。
§
「ティアナちゃん、これプレゼント。いつかまた、会おうね」
ついにピルネの町に到着し、キャラバンはすぐに出発の時間となる。渡された銀貨をぎゅっと握り、ティアナはルイーズを潤んだ瞳で見つめていた。
「ルイーズさんも、お元気で」
ルイーズがティアナを抱きしめた瞬間、
「ティアナちゃん、レオンくんはね、将来大物になるような気がするよ。たくさんの男を見てきた私が言うんだから間違いない。優しいし、紳士だし。許してあげて」
と耳元でささやいていた。それに答えようとした瞬間、ビコーさんが出発を宣言する。
「ここで見送っててティアナちゃん。私、泣いちゃうから」
名残惜しそうにティアナから離れたルイーズは、小さく敬礼して走り去っていく。
巡礼団はのろのろと前に進み始め、ビコーとルイーズの顔が見えなくなるまで二人は手を振り続けて見送ったのだった。
「いい人たちに会えたわね」
「うん」
二人が空を見上げると青色以外の色が見えず、太陽の光がじりじりと肌を焦がすような気がする。二人は顔を見合わせて笑顔になり、町の中央へと向かって歩き始めた。まだ、ぎこちないものの距離はだいぶ近くを歩いている。
いろんなことがありながらも、二人は無事に最初の町ピルネに到着したのだった。




