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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第2部 華やかな北の都 第4章 フリッツとヤスミンの物語

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第108話 時間との勝負

 王国歴163年3月27日 午後3時 カハトラ公爵の屋敷にて――


「ヤスミンから連絡がきましたか!!」


 27日の午後3時に連絡員が城に到着しフリッツに録音装置を手渡した。絶対に手がかりがあるに違いない。連絡員の話を聞きながら、フリッツはヤスミンからのメッセージを分析する。


「昨日、いろいろあってさあ」→昨日(25日)、何かがあった

「明後日の午後6時、私いない」→明後日(28日)の午後6時にどこかへ移動する

「物騒だからお金の隠し場所は気をつけた方がいいよ。本当は私が行きたいんだけど」→お金の隠し場所に、私が行く

「3人くらいの賊に後をつけられたことがあるから、気をつけて」→敵は3人。私の後をつけてきて。


「昨日(25日)、何かがあって明後日(28日)の午後6時に金の隠し場所に行く。敵は3人。場所は私をつけてきて」


 フリッツは会話を分析し、これは時間との勝負になりそうだと考えを巡らせていく。


「急ぐ必要があります。まず録音を確認しましょう」


 録音されたヘルマンニの陰謀が部屋の中に響き、それを聞いたフリッツの顔は青ざめていった。想像以上に事態は深刻だった。


「公爵とすぐに面談です。ヤスミンの命に関わります」


 立ち上がって廊下を走り、カハトラ公爵の居室のドアを乱暴に開ける。誰かと面会の真っ最中だった公爵に失礼を承知で面会を申し込む。公爵はすぐに相談室に招き入れ、フリッツは手に持っていた箱をテーブルに置いた。


「ようやく証拠を集めました。まず、これをお聞きください」


 生々しい音声を聞き、公爵に驚愕と激怒の表情が浮かび思わずその場に立っていた。忠義面をした執事が、こんな昔から伯爵家の陰謀に荷担しているとは夢にも思わなかった。しかも災害にかこつけて娘のハルパまで毒牙を伸ばそうとしている。公爵は怒りで全身が震えていた。


「公爵、今すぐに隠密行動のできる人物をヘルマンニ商会に派遣してください。戦闘ができれば、なお、いいのですが」


 隠密行動のできる人物を公爵はすぐに呼び寄せたが、戦闘については難しいとの答えが返ってきた。


(ヤスミンのあとをつけても戦闘力がなければ制圧できない。しかし、戦闘員を派遣すれば敵に警戒される。どうすれば……)


 しかし、もう迷っている時間はない。


「では、すぐに行ってください。後発隊に場所が分かるように、このマジックマーカーを持っていってください」

「分かりました」


 マジックマーカーは装置に反応し光を発する。敵に気付かれずに行き先を伝えるには最高の魔法道具だ。公爵家の斥候はすぐに出発してもヘルマンニ商会まで26時間程度はかかる。到着するのは28日の午後5時の予定だ。


(でも、私は動けない)


 フリッツがいなくなれば執事が公爵家で暗躍する可能性がある。逃げられないように監視しておく必要もある。捕まえるには騙し取った金を押さえることが必要だ。


(後発部隊はどうする……)


 そのときフリッツは公爵の後ろに立っている黒ずくめの男に気がつく。


「公爵、その方は?」

「ああ、紹介が遅れましたね。この方は私の古くからの友人で」


 それを遮るように黒い男は手を差し出す。


「ゼビウスだ」


 身長は190cmくらいで全身が黒い服で覆われており、顔もよく分からない。手を握ったフリッツにゼビウスが提案する。


「戦闘なら私が行こう」


 その申し出を受けるかどうかフリッツは躊躇する。素性も何も分からない男の申し出だ。けれども公爵は是非にと頼み込む。


「ゼビウス殿であれば安心だ! お願いできますか」

「ああ」


 そう話すと、すぐに斥候の後に続いて出発した。


「公爵、あの方は?」

「あの方の身元は私が保障する。それよりも、これからの計画を詰めようじゃないか」

「はい。では……」


 公爵とフリッツは解決に向けての動きを相談するのだった。




 § 




(フリッツは間に合わなかった……)


 食堂の掃除をしながら、連絡員を待っていたヤスミンだったが、もうすぐ午後6時になるけれども誰も商会に現れない。陰から合図も送ってこない。ヤスミンは選択を迫られる。


(行くか、逃げるか)


 ここで金の隠し場所を突き止めなければ公爵家が破綻し、悲しい人たちが増える。


 それは嫌だ。


「お、ここにいたのか? さあ行くぞ!」


 顔が緩みきった小男がヤスミンを手招きする。何を考えているのか丸わかりで、手や肩をやたらと触ろうとしてくる。部屋に戻る時間も与えてくれない。案内されるまま馬車に乗り込み、ヤスミンは持ち物を確認する。武器は食堂にあったナイフが4本だけ。そのほか、支払いのために借り受けた銀貨15枚があった。


 荷台に乗ってきたのは大男だけで、小男は御者台に乗っている。ヤスミンは警戒しながら荷台の隅に身体を横たえた。大男はヤスミンを一瞥すると、別に声を掛けるわけでもなく背もたれに身体を横たえて目を瞑っている。


 そのまま、馬車はヘルマンニ商会を出発し、大通りを過ぎると一路黒い森に向かって進んでいく。すでに辺りは漆黒に包まれ、月明かりがなければ進むことすら難しいほどだ。荷台の後ろでヤスミンはさりげなく大男と道の様子を交互に目をやった。


 道が分かれる場所に来るたびにヤスミンは銀貨を落としていく。幸い馬車の車輪がガタリガタンと音を立てるため、銀貨の音はかき消されていた。全部で15枚。月明かりで光ることを祈るしかない。2時間ほど馬車に乗り、道の両側が木々に囲まれるようになってきた。と、ようやく目の前に古びた山小屋が見えてきた。


「さあ、ここだ」


 すぐにヤスミンに近寄ってきた小男を無視しながら、ヤスミンは辺りを見回す。二階建ての小屋は大きな木々に隠されるように建っており、発見しづらい場所である。まずは準備をしなくてはならない。


「ねえ、井戸はどこ? 服を着替えたいんだけど」

「あ、ああ。すぐそこだ。逃げるなよ」

「この場所からどうやって逃げるの?」

「ちげえねえ」


 小男はせせら笑いながら、ヤスミンに服を手渡し小屋に入っていく。

 

(何だコレ?)


 背中が思い切り開いているし胸の部分が強調されるようなドレスだ。足が見えるようにスカートの部分の露出も大きい。


(趣味悪!)


 げんなりしながら服を着替えていく。足の付け根に付けているベルトを締め直し、ナイフを4本差す。幸い、この部分は服に隠れている。


「おうい。水じゃあ準備できねえだろ。お湯だ!」


 桶にお湯を入れて小男が持ってくる。髪を洗うには水だと辛い。お礼を述べると小男は松明を掲げながらジロジロとヤスミンの身体を見るのに余念がない。


「すぐ来いよ」


 小男が小屋に入るのを確かめると、髪を洗って戦闘の邪魔にならないように後ろで束ねておく。


(マスター……私を守って)


 心の中でつぶやき、もらった紙を下着の上から押さえて目を瞑る。やがて目を開くと、華麗なドレス姿でヤスミンは山小屋の中に入るのだった。

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