第33話 働きたくはないけれど、美味いとは言われたい
挽き立ての珈琲豆の芳香が、リビングの空気をゆっくりと満たしていた。
手挽きミルの真鍮ハンドルを回すたびに、乾いた豆が砕ける小気味よい音と、ほろ苦いカカオに似た深煎りの香りが指先から立ち上る。
シュンは砕いた粉末をフィルターへ丁寧に落とし、沸かしたばかりの湯を細く注いだ。
粉がドーム状にぷっくりと膨らみ、最初の一滴がガラスサーバーの底へ静かに落ちる。
「シュン様、今朝もいい香りですね〜」
厨房から顔を覗かせたリリアが、ふわりと目を細めた。
バタートーストの焼ける甘い匂いが、珈琲のアロマと混ざり合ってリビングに広がっていく。
「ん……うん。今日は蒸らし時間をいつもより3秒長くしてみた。豆の膨らみ方で湿度が高いと思ったから」
サーバーに溜まった漆黒の液体をカップへ注ぎ、口に含む。
奥深い苦味の底から、かすかな果実味と焦がしカラメルの余韻が舌の上を滑っていった。
美味い。
自分の焙煎パラメータと抽出温度の設定に狂いがないことは、この舌が一番よく分かっている。
だが、ふとカップの縁から立ち上る湯気を見つめたまま、昨日から頭の片隅に引っかかっている疑問が、また首をもたげた。
(……本当に、美味いのかな。僕以外の誰かが飲んでも)
シエラもリリアも、いつも「美味しい」と言ってくれる。だが二人は身内だ。シュンが淹れたものなら何でも肯定してくれる——少なくとも、リリアは間違いなくそうだし、シエラだってあの辛辣な舌で「不味い」と言ったことは一度もない。
贔屓目。
その二文字が、技術屋の自尊心にちくりと刺さっていた。
「……ねえ、シエラ」
ソファーの定位置に腰を下ろしていたシエラが、視覚センサーの焦点をわずかに動かした。
「この珈琲さ。外の人が飲んだら、どう思うと思う?」
「質問の意図が不明です。私の味覚評価プロトコルは、液体温度、抽出効率、揮発性香気成分の濃度比から判定しています。外部の一般人がどのような主観的感想を抱くかは、私の所管外です」
「……だよね。うん、そうだよね」
シュンはカップを両手で包み、湯気の向こうに視線を落とした。
(知りたいんだ。僕の焙煎理論と温度管理のパラメータが、贔屓目じゃない、完全に赤の他人の舌にも通用するのかどうか)
だが、その答えを得るために外へ出て、見知らぬ誰かの前に立ち、愛想を振りまいて感想を聞く——そんな面倒は死んでも御免だった。
社畜時代に擦り切れた心が、そのシミュレーションだけで胃のあたりをキリリと締め上げる。
(誰にも会いたくない。気を使って消耗するのはもう嫌だ。でも、客観的な評価だけは知りたい……)
矛盾した欲求の狭間で、シュンはカップの底に残った最後の一口を飲み干した。
そして、ゆっくりとサーバーの丸いガラスの曲面を見つめる。
(……自販機だ)
脳裏に、一つの機構が浮かび上がった。
銅貨1枚を入れてレバーを引けば、自動で1杯分がドリップされるシンプルな箱。顔を合わせる必要もない。名前を名乗る必要もない。ただ黙って機械に銅貨を入れて、黙って珈琲を飲んで、黙って去ってもらえばいい。
(それだ。それなら僕は誰とも会わずに済む)
「シュン、また何か思いついた顔をしていますね」
シエラの淡々とした声が、横から刺さった。
「思いついた顔って、どんな顔だよ……」
「眉の角度が2.3度上昇し、瞳孔が0.8mm拡大しています。過去の統計上、この表情の後に工作室へ籠もる確率は94%です」
シュンは返す言葉もなく、空になったカップをテーブルに置いて立ち上がった。
---
工作室の作業台には、真鍮の板材と歯車、小型の魔導バーナー、それにゼロ・ターミナルの予備パーツから引き抜いた圧力弁や温度センサーがずらりと並んでいた。
シュンは設計図も引かず、頭の中の完成形を指先で追うように部品を組み上げていく。
真鍮板をバーナーの青い炎で炙り、万力で直角に曲げて筐体の外壁を成形する。背面に銅貨投入口のスリットを切り出し、内部にコインの重量と直径を検知する簡素な振り子式選別機構を仕込んだ。
投入口の奥には、あらかじめ挽いた粉末を詰めた小型タンクと、湯を適温に保つ魔導加熱コイル。レバーを引くと弁が開き、重力で湯が粉末の層を通過して下のカップへと落ちる——ただそれだけの、余計な機能を一切持たない抽出機構。
最後の配管を銀ろうで接合し、筐体の蓋をネジで締め上げる。
作業台の上に鎮座した真鍮の箱は、手のひら二つ分ほどの小さな自販機だった。
「……テスター」
呟きながら例の真鍮ハウジングを手に取り、金メッキのプローブを加熱コイルの端子へ当てた。
——ピィィ……ン。
澄んだ電子音。メーターの針が定格値で静止する。抽出温度は狙い通り。コインの検知精度も問題ない。
「シュン、何を作っているのですか」
工作室の入口から、シエラが腕を組んで作業台の上を覗き込んでいた。
「珈琲の自販機。地上に置いて、通りがかりの人に飲んでもらう」
シエラの琥珀色の瞳が、わずかに細まった。
「……外の人間に、わざわざ珈琲を提供する合理的な理由を聞いても?」
「味の評価が欲しいだけ。僕の焙煎が本当に外でも通用するのか、知りたい」
「通用しなかった場合は?」
「……パラメータを見直す」
「承認欲求のために外部に装置を設置するのは、保安上のリスクです」
シエラの声に抑揚はなかったが、視覚センサーの走査速度がわずかに上がっていた。
「大丈夫だよ。設置も回収もシエラに頼むし、銅貨1枚の安い値段にしておけば変に怪しまれない。無料だとかえって不審がられるからね」
「……仮に許可するとして、設置場所は」
「神殿の横の壁。投入口の近くなら、あの辺りは人通りがあるし、自警団が見回ってるから荒らされにくい」
シエラは数秒間、無言で自販機の筐体を見つめていた。
それから小さく息をつくような排気音を鳴らし、視線を逸らした。
「……夜間に隠密で設置します。配線と壁面への固定は私が行いますので、取り付け金具の仕様を出してください」
「ありがとう、シエラ」
「礼は不要です。保安プロトコルの一環として、地上の状況を直接偵察する口実になります」
シエラはそれだけ言い残すと、工作室を出ていった。
リビングの方から、リリアの「あら、シエラちゃん、お出かけですか〜?」という声がかすかに聞こえた。
---
翌朝。
シュンはリビングの革張りソファーに浅く腰掛け、壁面の監視モニターを凝視していた。
昨夜のうちにシエラが設置を完了した自販機の映像が、集音マイクの環境音とともにモニターへ映し出されている。
白大理石の壁面に、真鍮の小さな箱がひっそりと据え付けられていた。朝の薄い光が、投入口スリットの縁を淡く照らしている。
誰もいない。
シュンは膝の上で両手を握りしめ、モニターの映像から目を離せずにいた。
こめかみの血管が、心臓の拍動に合わせてトクトクと脈打っている。
(……来ないかな。いや、まだ朝早いし。そもそも誰も気づかないかもしれない。こんな壁の隅っこの小さな箱なんて——)
「シュン様、朝食をお持ちしました〜」
リリアがバタートーストとスクランブルエッグの皿を運んできたが、シュンはモニターに釘付けのままだった。
「あら、何を見ていらっしゃるのですか?」
「……しっ。今、大事なところだから」
「ふふ、分かりました〜。お皿はこちらに置いておきますね」
リリアが皿をサイドテーブルへそっと置き、シュンの隣にふわりと腰を下ろした。
モニターの中で、廃線路の広場を横切る人影が映った。
ずんぐりとした体格に、煤と油で黒ずんだ革の前掛け。腕の太さは樽のように逞しく、顎には無精髭が散らばっている。
スラムの鍛冶職人だった。
男は広場を横切る途中で足を止め、壁面の見慣れない真鍮の箱に目を留めた。
投入口の上に刻まれた「珈琲 銅貨一枚」の文字を、眉間にシワを寄せて読んでいる。
シュンの喉がゴクリと鳴った。
鍛冶職人は、しばらく自販機を胡散臭そうに眺めた後、腰のポーチから銅貨を一枚つまみ出し、投入口へと落とした。
——チャリン。
集音マイクが拾った硬貨の金属音が、リビングに響く。
シュンの背筋が、ピンと伸びた。
モニターの中で、職人が太い指でレバーを引き下げる。弁が開き、真鍮の筐体の奥から微かな水音が漏れ聞こえた。数十秒の静寂の後、排出口から白い湯気が立ち上り、据え置きの陶器カップに漆黒の液体がとくとくと注がれていく。
職人がカップを手に取った。
無造作に口元へ運び、ズッと一口すする。
——ピタリ。
職人の動きが、止まった。
眉間に深いシワが刻まれ、口を半開きにしたまま、まるで石になったかのように硬直している。
「っ——」
シュンは両手で自分の胃のあたりを押さえた。
(まずかった……? 抽出温度が高すぎた? それとも蒸らしが足りなかった? 粉の粒度か? タンクに詰めてから時間が経ちすぎて酸化した?)
膝がかすかに震え、冷や汗が背中を伝い落ちる。
モニターから目を逸らしたくて、それでも逸らせない。
「シュン様、お顔が真っ青ですよ……?」
リリアが心配そうに身を乗り出したが、シュンはかぶりを振るだけで声が出なかった。
モニターの中で、鍛冶職人が動いた。
硬直していた眉間のシワがゆっくりと解け、代わりにカッと大きく目が見開かれた。
太い喉仏がゴクリと上下し、カップを両手で包み直して——二口目を、三口目を、夢中で口に運んでいく。
最後の一滴まで飲み干した職人は、空になったカップの底をじっと覗き込んだ。
それから無言で首を左右にゆっくりと振り、投入口の方へと視線を戻す。
集音マイクが、掠れた呟きを拾った。
「……銅貨一枚で、何だこの味は」
職人はポーチに手を突っ込み、もう一枚の銅貨を探るように指で掻き回した。だがポーチの底は空だった。舌打ちをひとつ落とし、名残惜しそうにカップを据え置き台へ戻すと、何度も振り返りながら広場の向こうへと去っていった。
「————っはぁ」
シュンは糸が切れたようにソファーの背もたれに崩れ落ち、天井を仰いだ。
心臓がドクドクと耳の奥で鳴っていて、手のひらが汗でじっとりと湿っている。
「シュン様、大丈夫ですか……?」
「……大丈夫じゃない。胃に穴が開くかと思った」
リリアが温かいおしぼりをシュンの額にそっと当てた。湿ったタオルの蒸気が、強張っていたこめかみをじんわりと緩めていく。
だが、ほっとする暇もなく——モニターに次の人影が映った。
仕立ての良い黒いコートに、銀縁の眼鏡。白い手袋をはめた痩身の老人が、真鍮の自販機の前で足を止めていた。
上層貴族街の屋敷から買い出しに降りてきた給仕長のようだった。
老人は眼鏡越しに「珈琲 銅貨一枚」の文字を一読し、懐から銅貨を取り出した。投入口へ落とし、慣れた手つきでレバーを引く。
カップに注がれた珈琲を、老人はまず鼻先に近づけた。立ち上る湯気を一度、二度と吸い込み、それから唇をカップの縁へ静かに付けた。
一口。
老人の眉が、すっと持ち上がった。
白手袋に包まれた指先が、かすかに震えている。
二口目を含み、三口目。老人は目を閉じたまま、ゆっくりと息を吐いた。
それは味を確かめる所作ではなく、何か途方もないものと向き合っているかのような、長い沈黙だった。
最後の一口を飲み終えた老人は、カップをそっと台に置き、真鍮の筐体を手袋の指先で軽く撫でた。
それから深々と一礼すると、背筋を伸ばして静かに去っていった。
モニターの映像が、再び無人の壁面だけを映す。
「……豆が、なくなったみたいだ」
シュンが掠れた声で呟いた。タンクに詰めておいた粉末は、たった数杯で底を尽いていた。
---
「見た? 見たよね? あの鍛冶のおっちゃんの顔。銅貨1枚であの表情だよ? 目がカッて開いて、最後の一滴まで飲んで、空のカップの底をじーっと見つめてたんだよ?」
シュンはリビングのテーブルに身を乗り出し、両手を振りながら熱弁していた。
頬が紅潮し、瞳がキラキラと輝いている。先ほどまでの胃痛と冷や汗はどこへやら、鼻の穴をわずかに膨らませたドヤ顔が、そこにあった。
「それから給仕長のおじいさん! あの人、上層の晩餐会で毎日最高級の飲み物を出してるはずなのに、僕の珈琲飲んだ瞬間に指が震えてたんだよ? 手袋の上からでも分かったもん。あれは驚いてたね。間違いない」
「……報告は以上ですか」
シエラが定位置の椅子に座ったまま、腕を組んで微動だにしない。
「いや、まだある。あの給仕長、飲み終わった後に自販機に一礼したんだよ? 一礼! 銅貨1枚の自販機に! つまり僕の焙煎理論と抽出パラメータは——」
「承認欲求の報告書としては十分な分量ですね。そろそろ朝食を冷まさず食べてください」
シエラは視線を逸らし、サイドテーブルのバタートーストを指先で示した。
だがその視覚センサーのログには、先ほどのモニター映像——鍛冶職人と老給仕長の硬直した表情——が、丁寧にタイムスタンプ付きで保存されていた。
「ふふ、シュン様の珈琲が、お外の方にも伝わったんですね〜」
リリアが温め直した皿をテーブルへ滑らせながら、ふんわりと微笑んだ。
そしてソファーの後ろに回り込み、シュンの髪をそっと指先で梳きながら、優しく頭を撫でた。
「……えへへ」
シュンは情けなく頬を緩ませ、差し出されたトーストにかぶりついた。
バターの塩気と小麦の甘みが口いっぱいに広がり、達成感と合わさって、喉の奥がじんわりと温かくなった。
その日の午後、シュンはタンクに新しい粉末を詰め直した。
翌朝も、その翌朝も。気まぐれに、朝だけ。
モニターに映る客の一人一人の表情を、シュンは飽きもせず眺めていた。カップを口に運んだ瞬間に止まる動き。見開かれる目。空のカップを名残惜しそうに見つめる仕草。
そのたびに頬を緩め、ソファーの肘掛けをぽんぽんと叩き、シエラに向かって「ねえ今の見た?」と繰り返すシュンを、シエラは終始無言で眺めていた。
---
数日後の未明。
日の出前の薄闇の中、シュンはモニターの前で目を疑った。
自販機の前に、人の列ができていた。
まだ夜が明けきらない廃線路の広場に、ぼんやりとした灯火を手にした人影が十数人、真鍮の筐体の前に行儀よく並んでいる。先頭の男が隣の者と何やら小声で言葉を交わし、後ろからは新たな人影が一人、また一人と広場の入口に現れていた。
シュンの頬から、さっと血の気が引いた。
(……まずい)
承認欲求は、もう十分すぎるほど満たされていた。
あの鍛冶職人の見開かれた目も、老給仕長の震える指先も、この数日間でモニター越しにたっぷりと堪能した。自分の焙煎理論と抽出パラメータが、赤の他人の舌にも完璧に通用することは、もう疑いようがない。
だが、列ができるのは想定外だった。
人が集まれば噂が広がる。噂が広がれば好奇心の強い連中がやってくる。好奇心の強い連中が来れば、いずれ「誰がこの自販機を置いたのか」を調べ始める奴が現れる。
(面倒の種は、芽が出る前に抜く)
シュンはソファーから立ち上がり、作業台の上の遠隔操作端末を手に取った。
自販機のコイン投入口をロックする信号を、ワンタッチで送信する。
「シエラ」
声をかけるまでもなく、シエラは既にリビングの入口に立っていた。
漆黒のドレスの裾が、微かな気流に揺れている。
「……撤収命令ですか」
「うん。丸ごと回収して。跡が残らないように」
「了解。壁面の固定ボルトと配線を回収し、痕跡を消去します」
シエラは音もなく踵を返し、薄暗い通路の奥へと消えた。
シュンはモニターの前に戻り、映像を見つめた。
自販機の前で並んでいた人々が、ロックされたレバーを引いても珈琲が出てこないことに首を傾げ始めている。
十数分後。
モニターの映像が一瞬だけ揺れ、真鍮の筐体が壁面からすっと消えた。あまりに素早い動きで、並んでいた人々の誰一人として、何が起きたのか理解できていない様子だった。
跡地には、清潔な白大理石の壁面だけが残されている。
一人、また一人と、人々が壁面を撫で回し、しゃがみ込んで地面を確かめ、やがて呆然と顔を見合わせた。
シュンはモニターの電源を落とし、ソファーに深く沈み込んだ。
「……回収完了。筐体、配線、固定金具、すべて工作室の棚へ格納しました」
戻ってきたシエラが、淡々と報告する。
「ありがとう、シエラ。お疲れ様」
「撤収作業に称賛は不要です。——それよりも」
シエラはリビングのテーブルの上に目を向けた。
リリアが、いつの間にか湯気立つカモミールティーと蜂蜜入りのホットミルクをトレイに載せて、シュンの横に座っていた。
「はい、シュン様。お疲れ様でした〜」
温かいカップを差し出すリリアの菫色の瞳が、穏やかに細められている。
「……ん。ありがとう、リリア」
シュンはカモミールティーを一口含み、ゆっくりと息を吐いた。
花の甘い芳香が、張り詰めていた胃のあたりをじんわりと溶かしていく。
「シュン様、お外の方のお顔、たくさん見られましたか?」
「……うん。もう十分。大満足」
「ふふ、よかったです〜」
リリアがシュンの肩にそっと手を添え、温かな掌で二度、三度と優しく撫でた。
「二度とやらないでくれますか」
シエラが腕を組んだまま、淡々と言い放った。
「保安上の観点から、外部への不要な装置設置は今後一切推奨しません。あなたの珈琲が外の人間に通用することは確認済みです。これ以上の検証は統計的に無意味です」
「……はい」
シュンは素直に頷いた。
もう、外に何かを仕掛ける気は微塵もなかった。
リリアが毛布を持ってきて、シュンの膝にふわりとかけた。
シエラが無言でモニターの前を通り過ぎ、自分の定位置に戻る際、ちらりとだけシュンの方を見た。
シュンはソファーに深く身を預け、ゆっくりと目を閉じた。
カモミールの残り香と、毛布越しに伝わるソファーの革の匂い。
換気ファンの微かな風切り音だけが、静まり返った地下要塞に小さく響いている。
地上の廃線路広場では、朝日が差し込む頃になって集まってきた人々が、何もない白大理石の壁を前に立ち尽くしていた。
数日間だけ現れて、忽然と消えた真鍮の箱。
銅貨一枚で、口にした者の誰もが息を呑んだ、あの珈琲。
人々はそれを、「幻の神自販機」と呼んだ。
地下深く、シュンはそんなことを知る由もなく、二度寝の心地よい闇の底へとゆっくりと沈んでいった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
「魔導コタツが羨ましい!」「オートマタたちに癒やされた!」「面白かった!」と思っていただけましたら、広告下部の【ブックマークに追加】や【ポイント評価(★)】をポチッと押していただけると励みになります!
次回も明日【18:00】に更新予定です!




