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第8話:暗部の鍵(キー)

1. 「標的」の提示

深夜の書斎。新(佐野)は、ホログラムディスプレイに一人の男の顔を映し出す。

白神しらがみ刑事。

地方県警の組織犯罪対策課に所属する、叩き上げの執念深い男だ。

「この男だ。先日の『黒岩会』への襲撃事件の際、現場からある『手帳』を回収している。それは表向きは紛失したことになっているが、実際は白神の手元にある」

志乃は新の冷徹な眼差しに気圧されながらも、鏡に向かって口紅を引き直した。

「……自由民社党と緒方組の関係、ね。それが公になれば、今の政権は一瞬で吹き飛ぶわね」

2. 刑事と令嬢

雨の降る港町。白神は一人、寂れた居酒屋のカウンターで安酒を煽っていた。

警察上層部からの圧力で、黒岩会の事件は「ただの抗争」として処理されようとしている。正義感の強い白神にとって、手元にある「政界と暴力団の癒着リスト」は、正義の証であると同時に、いつ自分を焼き尽くすか分からない爆弾だった。

そこへ、場違いなほど美しい女が現れる。九条志乃だ。

「……こんな場所で一人なんて、刑事さんも寂しいのね」

志乃は「男遊び」で培った直感で、白神が抱える孤独と焦燥を見抜く。彼女は権力者の令嬢としての顔と、一人の壊れそうな女としての顔を使い分け、白神の懐に深く入り込んでいく。

3. 取引の罠

白神は最初、志乃を警戒していた。しかし、志乃が不意に漏らした一言に、彼は凍りつく。

「……緒方組の連中に、狙われてるんでしょう? その『手帳』のせいで」

志乃は新から授けられたシナリオを演じる。

自分もまた、自由民社党のドロドロとした内部抗争に巻き込まれ、消されようとしている被害者である、と。

「あなたの持つその証拠、私に預けて。私が国会で爆弾として投げつける。それが、あなたの正義を救う唯一の道よ」

志乃の潤んだ瞳と、微かに震える指先。白神は、目の前の「美しき共犯者」を信じたいという誘惑に勝てなかった。

4. 影の勝者

数時間後。志乃は新の待つセーフハウスに戻る。

その手には、白神から預かったマイクロSDカードが握られていた。手帳をスキャンしたデータだ。

「……手に入れたわよ、新。これで満足?」

志乃は新にカードを差し出す。新はそれを無造作に受け取ると、中身を高速でチェックする。そこには、自由民社党の幹部たちが緒方組を通じて行っていた、外資への利権売却と、それに伴う巨額のキックバックの証拠がびっしりと記されていた。

「上出来だ、志乃。……白神刑事はどうした?」

「……私の虜よ。でも、彼はもうすぐ消されるわ。警察内部の『緒方組に近い連中』に情報を流しておいたから」

新は、志乃の残酷な一言に初めて満足げな笑みを浮かべた。

「いいぞ。死人に口なしだ。そして、このデータこそが、我々が自由民社党を内側から食い破るための『最初の一撃』になる」

窓の外では、205X年の冷たい雨がトウキョウの街を濡らしていた。

前世で国民に見捨てられた佐野源助が、今度は「真実」という名の劇薬を使って、日本を再び混沌の渦へと引きずり込もうとしていた。

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