069.神の檻を食い破れ
神罰の代行者が放つ光の剣が、俺たちの展開する障壁を無慈悲に削り取っていく。
一撃一撃が重い。
物理的な衝撃以上に、存在そのものを否定されるような、魂の摩耗を感じていた。
「無駄な抗いを。
被造物が創造主に逆らうなど、理に反する」
代行者の淡々とした声が、頭の中に直接響く。
彼女が右手をさらに高く掲げると、上空に巨大な光の槍が出現した。
先程の剣とは桁違いの魔力密度。
あれをまともに喰らえば、障壁ごと俺たちは消滅する。
「ぐ…… ああああッ!!」
不意に、カイルが悲鳴を上げて膝をついた。
左手の「太陽のあざ」から、黄金の触手のような光が溢れ出し、彼の肉体を内側から突き破ろうとしている。
神が与えた首輪が、制御を失った道具を処分しようと暴走を始めたのだ。
「カイル! しっかりしろ!!」
『くくっ、やはりそうなるか。
神の器を壊すには、内側からの圧力だけでは足りぬ。
あざという「首輪」は、外側の理とも強固に繋がっておるからの』
ロキが楽しげに、絶望的な状況を解説する。
「……なら、どうすればいい!
カイルが壊れるのを黙って見てろっていうのか!」
『簡単なことじゃよ。
外からの理が邪魔なら、それ以上の「不純物」を混ぜてやればいい。
ガルシアよ、お前の魔力を全てカイルへ流し込め。
お前の「絶対零度」で、神の回路を一時的に凍結させ、その隙にカイルの闇で内側から粉砕させるのじゃ』
「俺の魔力を、カイルに……!?
そんなことをしたら、カイルの身体が凍りつくぞ!」
『そうじゃな、死ぬかもしれんのぉ。
じゃが、やらねば確実に消滅じゃぞ?
さぁ、選ぶがよい。
友と共に砕けるか、友を信じて博打を打つか!』
ロキの瞳が狂気的な期待に輝く。
上空の光の槍が音を立てて収束を完了した。
放たれるまで、あと数秒もない。
「……カイル。 聞こえるか」
「……あ、あぁ……。
やれ、ガルシア……。
僕を…… 僕という『器』を、壊してくれ……!」
カイルが血を吐きながら、俺を睨み返した。
その瞳には、恐怖ではなく全てを投げ打つ覚悟が宿っていた。
「……地獄の底まで付き合うって、言ったからな」
俺は凍りついた右腕をカイルの「あざ」に直接叩きつけた。
自身の魔力回路を逆流させ、魂を削るような絶対零度の波動を、カイルの肉体へと強引に流し込む。
「がぁぁぁぁあああああッ!!!」
カイルの絶叫が戦場に轟く。
黄金の光と漆黒の闇、そして俺の白銀の冷気が、カイルの左腕の中で激しく衝突し、混ざり合う。
神の回路が冷気によって軋み、強引に動きを止められたその瞬間――。
「――喰らい、尽くせぇぇぇッ!!!」
カイルの叫びと共に、彼の内側から爆発的な「闇」が噴出した。
黄金のあざが耐えきれず、パキィィィンというガラスの割れるような音を立てて砕け散る。
ついにカイルを縛っていた神の首輪が消滅し、俺の冷気と彼の闇が完全に融合したのだ。
カイルの背中には漆黒の闇に白銀の結晶が混じった、禍々しくも美しい六枚の翼が展開される。
「……何、だと……!?
神の理を、書き換えたというのか……!」
初めて、代行者の無機質な顔に驚愕の色が浮かんだ。
だが、もう遅い。
覚醒したカイルが、闇と氷を纏った聖剣を真っ直ぐに代行者へと向けた。
「……パリスに伝えろ。
僕たちはもう、あんたたちの家畜じゃないってね」
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