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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第五章:罪人たちの凱歌

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067.魔王と勇者の協奏曲

 空を支配していた『レヴァイアサン』が、断末魔のような金属音を立てて大きく傾ぐ。

姿勢制御を失った巨体は、後方の随伴艦を巻き込みながら、ソリダリスの遙か北方へと墜落していった。


 だが、地上の絶望は終わらない。


「報告!

 西翼よりフラン王国の魔導騎士団が突入!

 城門の第一隔壁が突破されました!」


「南側、バランの傭兵連合も攻撃を再開!

 空爆の停止を確認し、一気に押し切る構えです!」


 司令部から響くレオンの怒号が、街の喧騒を突き抜けて俺の耳に届く。

空の脅威は去ったが、地上を埋め尽くす連合軍の本隊は、この機を逃さじと一斉に牙を剥いてきたのだ。


「……カイル、まだ終わってねえぞ……」


 俺はノエルの肩を借りて立ち上がろうとしたが、膝から下が感覚を失い、無様に崩れ落ちそうになる。

右腕から始まった凍結は、すでに右半身を完全に「彫像」へと変えていた。

皮膚は白銀の氷に覆われ、魔力回路は膨大な冷気を孕んだまま凝固している。


「ガルシアさん、動いちゃダメ!

 今、魔力の暴走を抑えるから……!」


 ノエルが必死に俺の胸に手を当て、癒やしの光を注ぎ込む。

だが、彼女の手は激しい冷気で瞬時に赤く腫れ上がった。


「わかっているよ。

 ……でも、今のガルシアになら『あれ』ができるはずだ」


 上空から舞い降りたカイルが、俺の隣に膝をついた。

彼の左手からは、禍々しい闇の魔力が陽炎のように立ち昇っている。


「……カイル様、何をするつもりですか!

 今のガルシアさんに刺激を与えたら、身体が内側から砕けてしまいます!」


 ノエルが鋭い声を上げ、カイルの前に立ちはだかるようにして俺を庇った。

彼女の瞳には、愛する人を失うことへの恐怖と、かつての「聖なる勇者」とは別人に変貌したカイルへの困惑が混じっていた。


「大丈夫だよ、ノエルちゃん。

 ……信じてほしい。今の僕の『闇』は、ガルシアの凍りついた魔力を溶かすための『熱』になれるんだ」


 カイルは穏やかに、だが揺るぎない眼差しでノエルを見つめた。

ノエルはその瞳の奥に、かつてと変わらぬ「ガルシアを救いたい」という純粋な意志を見出し、震える手で道を開けた。


「……死なせないで。

 絶対、絶対に助けてください……!」


「ああ、約束する。

 ……ガルシア、手を貸して」


 カイルが俺の、氷の塊と化した右腕に、そっと自らの左手を重ねた。

二人の「闇」と「冷気」が激突し、俺の肉体を凄まじい激痛が走る。


「が……ぁぁぁあああッ!!!」


「耐えてくれ!

 僕の闇を君の氷の矛先にする……

 過剰な冷気を逸らし(そらし)ている間にその肉体を再駆動させるんだ!」


 闇が氷のヒビに入り込み、神経の代わりに魔力を繋ぎ直していく。

カイルの闇という新たな存在は、俺の冷気を一気に引き付けてゆく。

そして、死の象徴であった俺の暴走した冷気は、闇と混ざり合い制御可能な「黒い氷」へと変質し、彫像のようだった俺の右半身が、不気味な脈動と共に再び動き出した。


「……ハ、ハハッ……。

 最高にタチの悪い治療だな、おい……」


 俺は黒く染まった右拳を強く握りしめた。

右半身を覆う氷はもはや呪いではなく、全身を巡る強大な兵器へと昇華されている。


「ノエル、少しだけ離れててくれ。

 ……こいつは、とびきり冷えるぜ」


 俺は不安げなノエルの頬を左手で軽く撫でると、カイルと共に城壁の先端へと跳躍した。

眼下には、勝利を確信して城門へ肉薄する、雲霞のごとく押し寄せる数万の兵たち。


「……行くぞ、カイル!」


「ああ、合図を!」


 俺たちは同時に敵陣のど真ん中、その最前線へと着地した。

周囲を取り囲む兵たちの驚愕を余所に、俺とカイルは互いの魔力を一点に集中させる。


「――『黒氷・極大葬送コキュートス』!!」


 俺が大地を殴りつけ、カイルがその衝撃に「闇」の指向性を与える。

瞬間、ソリダリスを中心に世界から色が消えた。


 地を這う黒い氷の津波が、あらゆる熱を、光を、そして命の活動を瞬時に停止させる。

城壁に迫っていた魔導騎士も、傭兵たちも、声を上げる暇さえなかった。

彼らはただ、一瞬で漆黒のクリスタルの中に封じられ、微かな風に触れただけで砂のように崩れ去っていく。


 立ち昇る黒い霧の中、俺とカイルは背中合わせに立ち、静まり返った戦場を見渡した。

 

「……これで、連中も学習したかな」


「そうだね。

 ……でも、まだ『この世界』は僕たちを放っておいてはくれないみたいだ」


 カイルの視線の先。

地平線の向こうから、これまでとは比較にならないほど巨大で、禍々しい「神の気配」が近づいてくるのを、俺たちは感じ取っていた。



「面白かった!」

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