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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第五章:罪人たちの凱歌

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061.さらば、シトラス王国

 咆哮と共に迫るルイン王

――否、異形の怪物は、その巨体に似合わぬ速度で玉座の間の床を粉砕した。

腕から生えた複数の魔導剣が、不協和音のような光の残滓を撒き散らしながら俺たちを強襲する。


「死ねッ! 逆賊ども!

 私こそが正義、私こそがこの国の永遠なる光なのだ!!」


 狂乱した王の剣撃を、カイルが漆黒の聖剣で受け止める。

凄まじい衝撃波が走り、周囲の柱が飴細工のように折れた。


「……これが貴方の望んだ光か!

 多くの民を犠牲にし、自らも化け物に成り果ててまで手に入れたかったのが、こんな醜い力なのか!!」


 カイルの激昂に応えるように、彼の左手のあざが脈打ち、闇の魔力がさらに膨れ上がる。

カイルは怪物の懐へ飛び込むと、その八枚の魔導の翼を一枚ずつ、確実に闇の刃で斬り落としていった。


「ぐ、あああああッ!!

 私の翼が……

 私の神性が!!」


「神だと? 笑わせるな。

 お前はただの、権力に憑りつかれた哀れな亡霊だ」


 俺は怪物の背後に回り、両手を床に叩きつけた。


「――『氷獄ひょうごくひつぎ』」


 王の足元から巨大な氷の棘が噴出し、その巨体を空中で固定する。

逃げ場を失ったルイン王に向けて、俺は右手に凝縮した全魔力を注ぎ込み、絶対零度の極光を放った。


「凍りついて、その歪な野望ごと砕け散れ」


 王の肉体が、足元から急速に白銀の氷へと変わっていく。

魔導の翼も、腕から生えた剣も、すべてが氷の中に閉じ込められ、その輝きを失っていく。


「バ…… バカな……。

 私が…… このシトラスの王たる私があぁぁ……!!」


 最後に残った王の叫びも、カイルの放った一撃によって霧散した。

闇を纏った漆黒の聖剣が、氷漬けになったルイン王の胸中央

――魔導の核が埋め込まれた場所を、一寸の狂いもなく貫いた。


 パキィィィン……ッ!!


 静かな、だが決定的な音が響き、氷像と化した怪物は粉々に砕け散った。

後に残ったのは、主を失い、静寂に包まれた広大な玉座の間だけだ。


 ◇◇◇


 城の外に出ると、空は白み始めていた。

ルイン王という歪な核を失ったことで、王都を覆っていた不自然なまでの「偽りの光」は消え、ありのままの朝日が街を照らしている。


「……終わったんだね、ガルシア」


 カイルが空を見上げて呟く。

その表情には勝利の喜びはなく、ただ故郷を自らの手で葬った者としての、深い喪失感と覚悟が混じっていた。


「ああ。

 ……だが、これからだぜ。

 王がいなくなり、システムが崩壊したこの国は、一時的に混乱の極みに陥る。

 レオンたちが言っていた『真実』が広まれば、民衆は自分たちの拠り所を失うんだからな」


「わかっている。

 ……それでも、嘘の上に成り立つ平和よりはマシだ」


 カイルは腰の聖剣を見つめた。

白銀だったそれは、今や主の意志を反映し、深みのある漆黒の輝きを放っている。


「僕は、この街に残って混乱を収める手伝いをするよ。

 ……『勇者』としてではなく、一人の人間として、犯した過ちの責任を取らなきゃいけない」


「……そうか。

 じゃあ、俺は一足先にソリダリスへ戻る。

 レオンに『ゴミ掃除は終わった』と伝えてやらなきゃいけないしな」


 俺はカイルの肩を一度だけ強く叩き、愛馬の手綱を引いた。


 シトラス王国の崩壊。

それは、大陸全土に広がる「偽りの正義」のドミノが倒れ始めた、最初の一枚に過ぎない。

俺たちの戦いは、ここからさらに激しさを増していく。


「あとでな、カイル。

 ……あまり長く待たせるなよ」


「ああ。

 ……すぐに行く。 僕たちの『新しい世界』を作るために」


 朝日に向かって歩き出す俺の背後で、かつての英雄が、新しい一歩を踏み出す音が聞こえた気がした。

「面白かった!」

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