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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第五章:罪人たちの凱歌

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062.胎動する列強諸国

 シトラス王国の王都ガイアが陥落し、ルイン王が死亡したという報せは、魔導通信の網を伝って瞬く間に大陸全土を駆け巡った。

それは、列強諸国が築き上げてきた「勇者と王権」という支配体制の死を意味していた。


 シトラスの北に隣接する軍事大国、神聖帝国プロイン。

その重厚な円卓会議室では、皇帝をはじめとする閣僚たちがシトラスから送られてきた最後の中継映像を前に沈黙を守っていた。


「……信じがたい。

 近衛騎士団を単身で無力化し、禁忌の魔導を施したルイン王を塵のように砕いたというのか」


 若き皇帝が、不快そうに指を鳴らす。


「勇者カイルは完全に悪に堕ちた。

 もはやあれは人類の守護者ではない。

 ……魔王ガルシアの毒に当てられ、世界を壊すことに悦びを見出す破壊者だ」


「陛下、周辺国からも悲鳴が上がっております。

 シトラスの崩壊は経済の停滞を招くだけでなく、我が国の民衆に『王権は絶対ではない』という毒を撒き散らしています。

 一刻も早く、あの二人の首を晒さねばなりません!!」


 プロイン帝国、フラン王国、バラン群国家。


 シトラスを除く三つの主要国家は、これまで領土や利権を巡って争ってきた歴史を一時的に棚上げし、共通の敵 ――「ソリダリス」を殲滅するための特例同盟、通称『人類防衛統一戦線』の結成を宣言した。


 ◇◇◇


 一方、俺は馬を飛ばし数日ぶりにソリダリスの黒い城壁が見える位置まで戻ってきていた。

城門を潜ると、そこには以前よりもさらに多くの人々が溢れていた。

シトラスの惨状を知り、逃げ延びてきた者。

そして、レオンが撒いた「真実」に突き動かされ、本物の居場所を求めてやってきた者たちだ。


「ガルシア様だ!

 英雄ガルシア様がお戻りになられたぞ!!」


 かつて俺を「魔王」と呼んで石を投げた者たちとは違う、熱のこもった視線が俺を刺す。

英雄か……

勝手に祭り上げられるのは、カイルと同じで気分がいいもんじゃない。


「おかえり、ガルシア。

 ……カイルの奴は、やっぱりあっちに残ったか」


 司令部へ顔を出すと、レオンが相変わらずの不敵な笑みで出迎えてくれた。

だが、その机に広げられた資料の量は、出発前とは比較にならないほど増えている。


「ああ。

 後始末に時間がかかるだろうが、必ず来ると言ってたぜ」


「そうかい。

 ……だがな、のんびり感傷に浸ってる暇はなさそうだ」


 レオンが地図の一点、シトラスの北側にある国境線を指差した。


「プロイン帝国が、旧シトラス領の北部に軍を進めている。

 表向きは『治安維持』だが、狙いは俺たちの喉元だ。

 おまけにフランとバランも同調しやがった。

 大陸中が、俺たち一か所を潰すために手を組んだぜ」


「……世界中が敵、か。 想定通りだな」


 俺が椅子に腰を下ろそうとした時、部屋の隅にいたノエルが、震える足取りで俺に駆け寄ってきた。


「ガルシアさん……! お怪我は……?」


「ああ、掠り傷一つねえよ。 心配しすぎだ、ノエル」


 俺が彼女の頭を軽く撫でようとした、その時だった。

激しい目眩が俺を襲い、右腕が芯から凍りつくような激痛に走った。


「――っ!?」


「ガルシアさん!?」


 ノエルの悲鳴が遠く聞こえる。

俺は思わず膝をついた。

右手の鎧の隙間から、どす黒い冷気の霧が立ち昇り、床の石畳を真っ白に凍らせていく。


「……くそ、ロキの言ってた通りか……」


 ルイン王との戦いで、俺は無意識のうちに「魔王」としての出力を上げすぎていた。

世界を敵に回すための強大な力。

その代償が、俺の肉体を少しずつ、取り返しのつかない「氷の彫像」へと変えようとしていた。

右腕の痛みに耐えながら、俺は執務室の窓から見える、嵐の前の静けさを湛えた空を見上げた。



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