表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第五章:罪人たちの凱歌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/58

054.英雄の帰還、あるいは侵略

 ソリダリスの東側境界線を越えると、空気の質が変わった。

かつて俺とカイルがマインを旅立ったあの頃と同じ、シトラス王国特有の、少し湿り気を帯びた土の匂い。

だが、今の俺たちの目に入る光景は、記憶の中の故郷とは似ても似似つかないものだった。


「……ひどいな。

 街道沿いの村が、いくつか消えている」


 馬を並べて進むカイルが、苦々しく呟いた。

かつて活気に溢れていたはずの宿場町は、窓が板で塞がれ、道端には力なく座り込む難民たちの姿が目立つ。

シトラス王国がソリダリス遠征のために強行した重税と強制徴収。

その傷跡は、俺たちが想像していた以上に深く、そして生々しい。


「おい、見ろ。 ……あれだ」


 俺が指差した先、村の広場の掲示板には、俺たちの手配書が並んで貼られていた。

漆黒の鎧を纏い、禍々しく描かれた俺の絵の下には『諸悪の根源・魔王ガルシア』。

そしてその隣、カイルの顔の上には太い墨汁で『反逆者』という文字が叩きつけられている。


 その時、掲示板の前にいた数人の村人が、こちらに気づいて振り返った。


「あ…… ああ……。

 ま、魔王だ……!」


「勇者様を洗脳して連れ去った、魔王ガルシアが現れたぞ!!」


 悲鳴が上がり、村人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

中には、震える手で石を拾い、俺たちに投げつけてくる者さえいた。


「来るな! この化け物め!」


「勇者様を返せ! 呪いを解いてやるんだ!」


 投げられた石が、俺の漆黒の鎧に当たってカツンと乾いた音を立てる。

カイルは避けようともせず、ただ悲しげに瞳を伏せた。


「……ガルシア、すまない。

 僕が王宮の嘘を放置していたせいで、彼らは……」


「謝るな。

 連中にしてみれば、俺はただの死神だ。

 事実、昨夜の戦いで何万もの兵を凍らせたのは俺だからな」


 俺は冷徹を装い、無感情に村を通り過ぎようとした。

だが、路地裏から這い出してきた一人の老婆が、カイルの馬の足元に縋り付いた。


「勇者様…… 

 お願い、ございますだ……。

 孫が、魔導汚染の影響で熱が引かぬのです。

 王国の薬師は『逆賊の村には薬は出せぬ』と……。

 どうか、どうかお救いくださいまし……!」


 老婆の指は、泥に汚れ、ひび割れている。

カイルは馬を降り、その老婆を抱き起こそうとした。

だが、周囲の村人たちはさらに激しく罵声を浴びせる。


「寄るな!

 汚らわしい!

 その勇者はもう、魔王に魂を売った偽物なんだぞ!」


「……違う。 僕は、僕だ」


 カイルが静かに、しかし力強く言った。

彼は左手のあざを掲げた。

かつての黄金色ではなく、どす黒い輝き。

それを目にした村人たちが恐怖に顔を歪める。


「見てくれ。

 確かにこの光は変わった。

 でも、僕が守りたいものは変わっていない。

 ……ガルシア」


 カイルに呼ばれ、俺は溜息をつきながら馬を降りた。

右手に魔力を集中させる。

老婆の孫だという子供に触れると、体内を巡る汚染された魔力が、俺の「氷」と共鳴するように疼いた。


「……熱を冷ます。 少し痛むぞ」


 俺が子供の額に手をかざすと、黒い氷の霧が立ち上った。

周囲からは「殺す気だ!」「魔王が呪いをかけている!」と悲鳴が上がるが、俺は構わず、汚染された魔力を根こそぎ凍らせて体外へ弾き出した。


 数秒後。

荒い息をついていた子供の顔色が、劇的に良くなっていく。


「……熱が、引いた……?」


 老婆が震える声で呟く。

俺は何も言わず、再び馬に跨った。


「カイル、行くぞ。

 ここに長居をすれば、王国の追っ手がこの村を『魔王に加担した』として焼き払う口実を与えるだけだ」


「……わかっている」


 カイルは老婆に一包みの保存食を握らせると、再び俺の隣に並んだ。

背後からは、困惑と、ほんの少しの希望が混じった沈黙が聞こえてくる。


 これが、俺たちの戦いだ。

「魔王」と「反逆者」が歩む、血と泥にまみれた英雄の帰還。

シトラス王国の王都ガイアへ向かう街道には、まだ、長く暗い影が伸びていた。



「面白かった!」

「続きが気になる!」

「今後どうなるの!?」


と思ったら、

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!!


面白い!なら☆5つ、つまらない!!なら☆1つ、

正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です。


ブックマークも頂けると本当にうれしいですし、はげみになります!

よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ