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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第五章:罪人たちの凱歌

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053.ソリダリスの戦略図

 レオンが机に広げた地図には、中央の旧クロス共和国領 ――現在のソリダリスを囲むように、四つの大国の紋章が記されていた。

 北のプロイン、西のフラン、南のバラン、そして東に位置する宿敵、シトラス王国。


「いいか。

 今回の戦いで、連中はカイルを『狂った怪物』として宣伝する。

 民衆は恐怖し、俺たちを討つための重税にも納得しちまうだろう。

 それが連中の狙いだ」


 レオンは地図の東側、シトラス王国の国境線を指でなぞった。


「だからこそ、先に『真実』を届ける。

 ガルシア、お前が何を救ってきたか。

 そしてカイル、お前がシトラス王国内でどれほどの人形芝居を強いられてきたか…… そのすべてをな」


「……僕たちの歩みを見せる、ということか?」


 カイルの問いに、レオンは不敵に笑いながら頷いた。


「そうだ。

 世間じゃ、ガルシアは血も涙もない『魔王』ってことになってる。

 だが実際はどうだ?

 お前が戦ってきた相手は、いつだって『弱者を踏みにじる強者』や、私腹を肥やす『腐った体制』だけだ。

 居場所のない連中を救い、このソリダリスを作った英雄を、連中は自分たちの権威を脅かすからという理由だけで『魔王』と呼んでいるに過ぎねえ」


 レオンはさらに言葉を強める。


「連中にとっての魔王は、虐げられた者たちにとっての英雄だ。

 その視点の逆転を、大陸中の連中の脳裏に焼き付けてやる。

 ……ノエル、準備はいいか?」


「はい。

 各地の獣人ネットワークや、王国の非道に絶望した者たちを通じて、ガルシアさんが救ってきた人々の『証言』を集めています。

 彼らが情報の『種』を撒いてくれます」


 ノエルは力強く頷いた。

彼女の可憐な瞳には、ただ守られるだけではない、共に戦う意志の炎が宿っている。

 

 だが、その時。

俺の右手が、不自然なほどの冷気に襲われ、微かに震えた。

 

「……ガルシアさん?」


 ノエルがいち早く気づき、俺の手を包み込む。

癒やしの力を持つ彼女には、わかっているのだろう。

「魔王」としての強大な力を振るうたびに、俺の身体が内側から少しずつ、絶対零度の氷へと変質し始めていることに。


「……何でもねえ。

 少し使いすぎただけだ」


「何でもなくありません!!

  体温が、信じられないほど……」


「ノエル。

 ……今はこれしか、守る術がねえんだ」


 俺が静かに諭すと、ノエルは唇を噛み、それ以上は何も言わなかった。

ただ、その掌に込められた熱だけが、痛いほどに伝わってくる。


「……さて。カイル、お前には特別な役割がある」


 レオンが空気を変えるように切り出した。


「お前は『勇者』という看板を捨て、一人の男として、ガルシアの歩みを証明する証人になってもらう。

 勇者が認めた英雄……

 これ以上の説得力はねえ。向かう先は決まっている。

 東の宿敵、シトラス王国だ」


「シトラス……。

 僕たちの故郷であり、すべてが狂い始めた場所だね」


 カイルが静かに、だが鋭い意志を孕んで言った。

 

「ああ。

 あそこの腐った王権を震え上がらせ、民衆を味方につければ、周辺諸国の足並みは一気に崩れる。

 ソリダリスの『逆襲』の始まりだ」


 戦略は決まった。

俺たちはもう、地下の避難所に閉じこもる存在じゃない。

世界が俺を「魔王」と呼び続けるなら、その定義ごと塗り替えてやる。


「よし。 明朝、出発だ」


 俺の言葉に、全員が頷く。

月光が差し込む司令室で、俺たちは初めての「反攻」を前に、静かな決意を固めた。

「面白かった!」

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