051.背中合わせの凱歌
ソリダリスの城壁の外は、もはや夜とは思えないほどの光に包まれていた。
数万の兵、数千の魔導砲、そして空を埋め尽くす紫色の毒霧。
列強連合軍は、自らの不始末を隠蔽するために、この地を「無」に帰そうとしていた。
「全砲座、開けッ!
あの忌々しい氷の城ごと、魔王と裏切り者を消し去れ!!」
将軍ザカリーの怒号が響く。
直後、空気が悲鳴を上げるような音と共に一斉射撃が放たれた。
夜空を焼き切る数千の光弾が、ソリダリスの城門へと降り注ぐ。
だが、その弾丸が城壁を穿つことはなかった。
「……五月蝿いな」
城門の前に立つガルシアが地面に軽く手を触れる。
瞬間、ソリダリスを中心に世界が静止した。
凄まじい熱量を持って放たれた光弾が、城壁に届く直前で、すべて「凍りついた」のだ。
光そのものを氷の中に閉じ込める絶対零度の領域。
「なっ…… 光を凍らせただと!? 馬鹿なッ!!」
混乱する兵士たちの前に、カイルが力強く一歩踏み出した。
左手のあざから溢れ出す漆黒の魔力を、聖剣へと流し込む。
かつての温かな光は消え、そこにあるのはすべてを断ち切るための「鋭利な闇」。
「道を開けるよ、ガルシア」
「ああ、頼んだぜ」
背中合わせに並んでいた二人のうち、カイルが弾かれたように前方へ飛び出した。
「どけえぇぇッ!!」
カイルが黒い流星となって、凍りついた光弾の林を突き抜ける。
彼が聖剣を一閃させるたび、連合軍が誇る重厚な防護魔導障壁が、まるで紙細工のように両断された。
数千の矢も、魔法による弾幕も、カイルが切り拓く一本の「道」の前では何の意味もなさなかった。
カイルが敵陣の最深部までを最短距離で切り裂き、巨大な空白地帯を作り出す。
「――今だ、ガルシア!」
カイルの声に応え、ガルシアがその「道」を悠然と歩み進める。
ガルシアが右手を横に薙ぐと、空中に固定されていた氷漬けの光弾が粉々に砕け散り、今度は連合軍へ向けて「氷の散弾」となって逆流した。
最前列の歩兵部隊も、後方の弓兵部隊も、カイルに切り裂かれた傷口から流れ込む圧倒的な凍気に飲み込まれ、一歩も動けぬまま美しい氷像へと変わっていく。
「化け物め!
構わん、全弾発射だ!
味方ごと焼き払え!!!!」
本陣の奥で、ザカリー将軍が狂ったように叫ぶ。
だが、その命令が実行される前に、ガルシアが右手を天に掲げた。
「――『大氷河・永久墓標』」
連合軍の足元から、巨大な氷の槍が森のように突き出した。
大地が凍てつき、数万の軍勢が物理的に持ち上げられ、分断される。
逃げ場を失い、恐怖に顔を引き攣らせる将軍。
その目の前には、カイルが切り開き、ガルシアが凍らせた「死の道」を通って辿り着いた二人が立っていた。
「……陛下への忠誠は、あの世で誓うといい」
カイルとガルシア、二人の剣が同時に振り下ろされる。
黒い閃光と漆黒の氷刃が交差し、ザカリー将軍は断末魔を上げる間もなく、背後の巨大な魔導砲ごと一刀両断に粉砕された。
――静寂。
数万の連合軍が、たった二人の男によって、わずか数分で瓦解した。
生き残った兵士たちは武器を握る手さえも凍りつき、ただ震えながら、並び立つ魔王と勇者の姿を見上げるしかなかった。
炎上する本陣を背に、ガルシアは夜明けが近い空を見上げた。
「……まずは一戦。 こんなもんか」
「そうだね。 ……少しは連中に、僕たちの声が届いたかな」
カイルが不敵に、どこか晴れやかに笑う。
それは、世界を支配していた偽りの正義が、崩壊へと向かい始める予兆だった。
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