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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第四章:氷華と太陽の審判

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050.二人の大罪人

 笑い声が静まり返った広場に、心地よい、だが酷く場違いな安堵が漂う。

互いの喉元に向けられた剣を下ろし、俺たちは泥のように重い身体を支え合って、その場に座り込んだ。


「……最悪だ。

 身体中、穴だらけじゃねえか」


「君の氷、前よりずっと冷たくなってるよ。

 骨まで凍るかと思った」


 カイルが弱々しく笑い、俺の肩に頭を預ける。

かつてマインの山で、クタクタになるまで働いた後に見た夕焼けを思い出した。

あの頃の俺たちは、ただの少年だった。

世界を背負わされることも、国を滅ぼすことも、すべてが遠い夢のまた夢だった。


「ガルシアさん! カイルさん!」


 ノエルが駆け寄ってくる。

彼女の目には、大粒の涙が浮かんでいた。

彼女は迷うことなく、俺とカイルの両方の手をとり、その震える掌に自分の体温を分けるように強く握りしめた。


「よかったです……

 本当に、よかったです……」


 彼女の祈るような声を聞いて、俺はようやく自分の「王」という重荷が、ほんの少しだけ軽くなった気がした。

だが、現実は残酷だ。


「――感動の再会中に済まないが、観客はアンコールを求めているようだぜ」


 皮肉げな声を上げたのはレオンだ。

彼は城壁の先、地平線を埋め尽くす列強連合軍の灯火ともしびを指差した。

カイルの叛逆により、一時的に混乱していた軍勢が、再びその牙を剥こうとしている。

もはやそこには「勇者の正義」などという飾りはない。

あるのは、自分たちの秩序を乱した裏切り者たちを、一網打尽に焼き払わんとする剥き出しの敵意だけだ。


「勇者カイルは魔王に毒された。

 ……全軍、もはや慈悲は無用。

 ソリダリスと共に、すべてを塵に帰せ!」


 遠くから響くザカリー将軍の咆哮。

そして、空が再び紫色の汚染兵器と、魔導砲の光で塗り潰されようとしていた。


 俺とカイルは、顔を見合わせた。


「……カイル。 お前、分かってるよな」


「ああ。 これからは、世界中が僕たちの敵になる」


 カイルは聖剣を構え直した。

その刃は黒く濁り、かつての聖なる輝きはない。

だが、そこには彼自身の意志が、鋼よりも硬く宿っている。


「勇者を捨てて、大罪人になってもいいのか?」


「独りで背負うより、ずっといい。

 ……それに、君という『魔王』には、僕という『剣』が必要なんだろう?」


 俺は自嘲気味に笑い、右手に漆黒の氷を纏わせた。

カイルの手にある聖剣は、かつての黄金の輝きを失い、どす黒く変質している。

だが、その刀身に宿る光は、王宮の連中に強制されていた時よりもずっと鋭く、今にも闇を切り裂かんとする強靭な意志に満ちていた。


 世界から見れば、俺たちは救いようのない悪党だろう。

救世主を誑かした魔王と、使命を放棄した裏切り者。

だが、俺たちの魂は、今この瞬間、かつてないほどに自由だった。


「ああ……。 暴れてやろうぜ、カイル」


 俺とカイルは背中を合わせ、押し寄せる光の濁流に向かって立ち上がった。

俺たちの前には、数万の軍勢。

俺たちの後ろには、守るべき五千人の民と、ノエル。


俺がこの世界を凍らせ、こいつがその闇を切り開く。


勇者。

魔王。

決別したはずの二人は『親友』に戻ろうとしていた。


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