050.二人の大罪人
笑い声が静まり返った広場に、心地よい、だが酷く場違いな安堵が漂う。
互いの喉元に向けられた剣を下ろし、俺たちは泥のように重い身体を支え合って、その場に座り込んだ。
「……最悪だ。
身体中、穴だらけじゃねえか」
「君の氷、前よりずっと冷たくなってるよ。
骨まで凍るかと思った」
カイルが弱々しく笑い、俺の肩に頭を預ける。
かつてマインの山で、クタクタになるまで働いた後に見た夕焼けを思い出した。
あの頃の俺たちは、ただの少年だった。
世界を背負わされることも、国を滅ぼすことも、すべてが遠い夢のまた夢だった。
「ガルシアさん! カイルさん!」
ノエルが駆け寄ってくる。
彼女の目には、大粒の涙が浮かんでいた。
彼女は迷うことなく、俺とカイルの両方の手をとり、その震える掌に自分の体温を分けるように強く握りしめた。
「よかったです……
本当に、よかったです……」
彼女の祈るような声を聞いて、俺はようやく自分の「王」という重荷が、ほんの少しだけ軽くなった気がした。
だが、現実は残酷だ。
「――感動の再会中に済まないが、観客はアンコールを求めているようだぜ」
皮肉げな声を上げたのはレオンだ。
彼は城壁の先、地平線を埋め尽くす列強連合軍の灯火を指差した。
カイルの叛逆により、一時的に混乱していた軍勢が、再びその牙を剥こうとしている。
もはやそこには「勇者の正義」などという飾りはない。
あるのは、自分たちの秩序を乱した裏切り者たちを、一網打尽に焼き払わんとする剥き出しの敵意だけだ。
「勇者カイルは魔王に毒された。
……全軍、もはや慈悲は無用。
ソリダリスと共に、すべてを塵に帰せ!」
遠くから響くザカリー将軍の咆哮。
そして、空が再び紫色の汚染兵器と、魔導砲の光で塗り潰されようとしていた。
俺とカイルは、顔を見合わせた。
「……カイル。 お前、分かってるよな」
「ああ。 これからは、世界中が僕たちの敵になる」
カイルは聖剣を構え直した。
その刃は黒く濁り、かつての聖なる輝きはない。
だが、そこには彼自身の意志が、鋼よりも硬く宿っている。
「勇者を捨てて、大罪人になってもいいのか?」
「独りで背負うより、ずっといい。
……それに、君という『魔王』には、僕という『剣』が必要なんだろう?」
俺は自嘲気味に笑い、右手に漆黒の氷を纏わせた。
カイルの手にある聖剣は、かつての黄金の輝きを失い、どす黒く変質している。
だが、その刀身に宿る光は、王宮の連中に強制されていた時よりもずっと鋭く、今にも闇を切り裂かんとする強靭な意志に満ちていた。
世界から見れば、俺たちは救いようのない悪党だろう。
救世主を誑かした魔王と、使命を放棄した裏切り者。
だが、俺たちの魂は、今この瞬間、かつてないほどに自由だった。
「ああ……。 暴れてやろうぜ、カイル」
俺とカイルは背中を合わせ、押し寄せる光の濁流に向かって立ち上がった。
俺たちの前には、数万の軍勢。
俺たちの後ろには、守るべき五千人の民と、ノエル。
俺がこの世界を凍らせ、こいつがその闇を切り開く。
勇者。
魔王。
決別したはずの二人は『親友』に戻ろうとしていた。
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