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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第四章:氷華と太陽の審判

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049.氷華と太陽の一騎打ち――魂の対話

 連合軍の陣風を切り裂き、血と煤にまみれたカイルがソリダリスの城門を抜けた。

彼が歩くたび、石畳には真っ黒な魔力の雫が滴り、周囲の空気が歪む。

かつての輝かしい勇者の面影はない。

だが、俺を見上げるその瞳だけは、マインの山で将来を語り合ったあの頃よりもずっと澄んでいた。


「……ガルシア」


 カイルの声が、静まり返った広場に響く。

俺は城壁から飛び降り、カイルの数歩手前で着地した。

漆黒の氷が足元から広がり、カイルの放つ黒い聖光とぶつかり合って火花を散らす。


「何のつもりだ、カイル。

 今更味方を切り捨てて、こちら側に寝返ったとでも言うのか?」


「寝返る?

 ……そんな器用な真似、僕にはできないよ。

 ただ、君に一つだけ言わなきゃいけないことがあって、ここに来たんだ」


 カイルは聖剣をゆっくりと構えた。

それは降伏の合図ではなく、純粋な決闘の構えだった。


「言葉じゃ、もう届かない。

 だから、剣で教えろ。

 君が何を背負い、何を殺してこの場所を守ってきたのか。

 ……僕も、僕のすべてを乗せて、君にぶつける」


 俺は震える手で黒氷の剣を形成した。

こいつは分かっているのだ。

今更「ごめん」で済む段階は、とうに過ぎたことを。

俺たちは互いの魂を削り合い、その果てに残ったものだけが真実だと、本能で理解していた。


「……いいだろう。

 なら、手加減は抜きだ。

 死ぬ気で来い、カイル・シーカー!」


 ――ガキィィィィィィィン!!!


 激突。

漆黒と漆黒。

二つの絶望が混ざり合い、爆風となってソリダリスを揺らす。

 カイルの剣は重かった。

そこには、裏切られた王国への怒り、守れなかった民への悔恨、そして俺を独りにした自分への激しい嫌悪が乗っていた。


「ガルシア!

 君は独りで耐えすぎだ!

 なぜ、僕を頼らなかった!!」


「頼れるわけねえだろうが!

 お前は光の中にいた!

 俺が泥を啜って(すすって)いる時、お前は世界に称えられていたんだぞ!」


 切り結ぶたびに、火花と共に感情が流れ込んでくる。

広場の隅では、ノエルが祈るように胸の前で手を組み、この壮絶な「対話」を瞳に焼き付けていた。

レオンさえも、皮肉を忘れてその光景を黙って見つめている。


「光なんて、どこにもなかった!

 僕がいたのは、冷たい石造りの檻の中だ!

 ……でも、今は違う。

 僕は僕の意志で、君の前に立っているんだ!」


 カイルの剣が俺の肩を深く切り裂き、俺の氷柱がカイルの脇腹を貫く。

痛みなど、もう感じなかった。

ただ、こいつに届かせたい。

俺がどれだけ絶望し、どれだけこの場所を守りたかったか。

そして、どれだけお前という光を、心の底では憎み、愛していたか。


「オォォォォォォッ!!!」


 俺たちは互いに最後の魔力を振り絞り、渾身の一撃を放った。

聖剣と黒氷の剣が交差し、閃光がソリダリスの夜空を白く塗りつぶす。


 沈黙。

噴き上がる煙が晴れたとき、二人の刃は互いの喉元数ミリのところで止まっていた。


 カイルの頬を伝う血が、俺の腕に落ちる。

俺は、カイルの瞳の中に、鏡のように映る自分の顔を見た。

……酷い面だ。

だが、そこにはもう、どす黒い憎悪は残っていなかった。


「……ふっ、あはははは!」


 先に笑い出したのは、俺だった。

喉に突きつけられた聖剣の冷たさを感じながら、腹の底からこみ上げてくる笑いを抑えきれなかった。


「……何がおかしいんだよ、ガルシア」


 カイルもまた、口元に微かな笑みを浮かべ、肩で息をしていた。

俺たちは、最低の場所で、ようやく再会したのだ。



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