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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第四章:氷華と太陽の審判

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048.勇者の叛逆、戦場を裂く光

 ソリダリスの空を、見たこともない禍々しい紫色の霧が覆い尽くそうとしていた。

俺は王城のバルコニーから、その絶望的な光景を仰ぎ見た。

漆黒の氷壁に触れた先から、俺の魔力がドロドロと腐食していくような不快感が全身を走る。


「……なんだ、ありゃあ」


 横にいたレオンが、珍しく余裕のない顔で舌打ちをした。


「禁忌中の禁忌…… 『冥府の霧』か。

 七賢議会ですら使用をためらった汚染兵器を、シトラスの王は臆面もなく使いやがったか。

 ガルシア、あの霧をまともに浴びれば、結界の中の人間は数時間で内側から腐り落ちるぞ」


 奥歯が鳴る。

守るために張ったこの氷の盾が、汚染を閉じ込める棺桶に変わろうとしていた。

俺は右手にありったけの魔力を込め、空を覆う霧すらも凍らせようとした。


 だが、俺が動くより先に、地上から一条の閃光が立ち昇った。


 それは黄金の光ではない。

すべてを拒絶するような、どす黒く、しかしどこまでも純粋な漆黒の光だ。


 ――オォォォォォォォッ!!!


 咆哮と共に放たれたその一撃が、空を覆い始めた紫の雲を真っ二つに切り裂いた。


 ◇◇◇


 一方、連合軍の本陣は、予想だにしない事態に凍りついていた。

発射された『冥府の霧』。

それがソリダリスを飲み込む直前、たった一人の男によって霧散させられたのだ。


「な…… なんだと!?

 あの黒い光は…… まさかカイルか!?」


 将軍ザカリーが叫び、魔導通信の鏡に映るルイン王も身を乗り出した。

砲撃を切り裂いた男は、もはや白銀の勇者ではなかった。

甲冑は煤け(すすけ)、背負ったマントは千切れ、左手のあざからは泥のような黒い魔力が溢れ出している。


 カイルは聖剣を無造作に肩に担ぎ、連合軍の陣営へ向けてゆっくりと歩き出した。


「カイル! 

 貴様、何の真似だ!

 国家への叛逆か!?」


 将軍の怒声に対し、カイルは感情の消えた瞳を向けた。


「……勇者の仕事は、平和を守ることだと思っていた」


 カイルの声は静かだが、戦場全体に響き渡るほどの威圧感を孕んでいた。


「でも、平和のために民を焼き、汚染を撒き散らすのが『国家』だというのなら。

 ……そんなものは、僕の剣で叩き潰す」


「狂ったか!

 全軍、勇者を魔王の回し者として処刑せよ!

 撃て!!

 奴を殺せ!!!!」


 ザカリーの号令により、数千の兵士たちが一斉にカイルへと襲いかかる。

魔導砲が放たれ、鉄の雨が降り注ぐ。

だが、カイルは止まらない。


 振り下ろされる聖剣が、一振りで百の兵を吹き飛ばし、迫りくる砲弾を黒い軌跡で斬り伏せる。

それはかつて、人々が「希望」と呼んだ力とは程遠い、ただ圧倒的な「拒絶」の暴力だった。


「ガルシア……。 僕は今から、君の隣へ行く」


 カイルは味方の軍勢を文字通り「薙ぎ払い」ながら、ソリダリスの城壁へと真っ直ぐ突き進む。

彼を縛っていた『正義』という名の鎖は、今、自らの手によって粉々に引きちぎられた。


 俺は城壁の上で、その光景を呆然と見ていた。

血路を切り開き、返り血に染まりながらこちらへ向かってくる親友の姿。

その背後には、彼が守ろうとしていたはずの世界が、炎を上げて崩れ去っていた。


「……あいつ、本当にバカ野郎だな」


 俺の口元に、自然と自嘲気味な笑みが浮かんだ。

勇者が国を捨てた。

それは、この世界における最大の『絶望』であり、俺にとっては、唯一の『再会』の合図だった。

「面白かった!」

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