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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第四章:氷華と太陽の審判

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044.夜の境界、月下の舌戦

 聖剣の閃光が漆黒の盾を貫き、ソリダリスの避難所を焼き払った後、戦場には不気味な静寂が訪れていた。

 俺は玉座の間で、どす黒く変質した魔力を全身から滴らせながら、粉砕された結界の隙間から立ち上る黒煙を凝視していた。


「……あいつが、撃ったのか」


 掌に残る衝撃。

かつて俺を救ってくれたあの温かな光が、今は俺の大切なものを焼き払う断罪の火となった。

裏切られたという怒りよりも、胃の底に泥が溜まっていくような、重く冷たい絶望が俺を支配していく。


「ガルシアさん!!」


 背後から、悲鳴に近い声で俺を呼ぶ者がいた。

ノエルだ。

彼女はすすと土にまみれ、肩で息をしながら俺の元へ駆け寄ってきた。


「ガルシアさん……

 怪我は、ありませんか!?

 先ほどの光で、結界が……」


「ノエル……

 下に行け。

 避難所はどうなった。

 どれだけ死んだ?」


 俺が顔も見ずに低く問いかけると、ノエルは一瞬言葉を詰まらせ、それから俺の震える右手を無理やり両手で包み込んだ。


「誰も…… 死んでいません!

 爆発の直前、レオンさんが『予感があった』と言って、人々を地下の堅牢な隔離区画へ逃がしてくれたんです。

 食料庫は失われましたが、命は、命だけは無事です!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の全身から力が抜け、膝をつきそうになった。

だが、安堵はすぐに鋭い毒へと変わる。


「……そうか、よかった。

 だが、カイルは殺すつもりで撃った。

 あいつは、この街の連中を殺すことを選んだんだ」


「違います!!

  きっと、何か事情が……」


「事情なんて関係ねえ!

 結果がすべてだ!!!」


 俺はノエルの手を振り払い、立ち上がった。

漆黒の氷が司令室の床を侵食し、不気味な音を立てて凍りついていく。


「カイルは勇者としての正義を選び、俺は魔王としての道を選んだ。

 ……ノエル、お前も分かっているはずだ。

 俺たちが手を取り合える場所なんて、もうこの世界のどこにも残っちゃいねえんだよ」


「そんなこと、言わないで……!!」


 ノエルの涙ながらの訴えを背に受けながら、俺はバルコニーの縁に立った。

 月が雲に隠れ、世界が深い闇に沈んでいく。


 ◇◇◇


 一方、連合軍の本陣から、一騎の馬が狂ったように戦場を駆け抜けていた。

カイルは、自分を縛り付けていた魔導師たちの監視を振り切り、半ば暴走するような形でソリダリスへと向かっていた。


「(……殺したかもしれない。僕の手で、僕が守ると決めた人たちを)」


 聖剣を握る右手の感覚がない。

あざが刻まれた左手は、今も焼けるように熱い。

カイルは、自分が王宮の操り人形に成り果てたことへの激しい嫌悪と、親友を傷つけた絶望に押し潰されそうになっていた。


 彼は城壁の結界が霧散した箇所から、吸い込まれるように街の中へと侵入した。

人気のない広場。

焦げた匂いと、異常な冷気が漂うその中心に、一人の男が立っていた。


「……ようやく来たか。 勇者様よ」


 月明かりの下、漆黒のマントを揺らして振り返るガルシア。

その瞳には、かつてマインの山でパンを分け合った時の温もりなど、微塵も残っていなかった。


「ガルシア…… 聞いてくれ。

 今の攻撃は、僕の意志じゃ……」


「そんな言い訳が、今の俺に届くとでも思ってんのか!」


 咆哮と共に、地面から漆黒の氷柱が噴き出した。

カイルは避けることもせず、その鋭利な刃を首筋の数センチ先で受け止めた。


「……撃たされたのなら、なぜここにいる。

 なぜ、まだその剣を捨てていない」


 ガルシアの問いは、カイルの胸を深く抉った(えぐった)

二人の間に流れる時間は、もはや言葉を交わすためのものではなく、決定的な終わりを確認するための儀式へと変わろうとしていた。


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