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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第四章:氷華と太陽の審判

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041.鉄の雨と漆黒の盾

 ソリダリスの建国宣言から数日。

かつて「自由交易の都」と呼ばれたクロスの摩天楼は、今や俺の放った漆黒の氷壁に覆われ、静まり返っていた。

だが、その静寂は、地平線を埋め尽くす鉄の軍勢によって無残に引き裂かれた。


 シトラス王国、そしてプロイン帝国を中心とした列強連合軍。

その数は数万。

彼らは「魔王討伐」の大義を掲げ、この新国家を地図から消し去るために集結していた。


「……来たか」


 俺は王城の屋上に立ち、冷たい風にマントをなびかせながら、眼下の敵陣を見据えた。

その瞬間、大気が震えた。


 連合軍が配備した最新鋭の魔導重砲が一斉に火を噴いたのだ。

空を埋め尽くす光の弾丸が、放物線を描いてソリダリスへと降り注ぐ。

それはまさに「鉄の雨」だった。


国民みんなには指一本触れさせねえ。……凍れッ!」


 俺が右手を天に掲げると、街を包む氷壁がさらに厚みを増し、どす黒い魔力を帯びて脈動した。

着弾の衝撃が、氷の盾を通じて俺の全身に伝わる。

凄まじい圧力だ。

数万の軍勢による二十四時間体制の砲撃。

それを俺一人の魔力で受け止め続ける。

内臓が軋み、鼻の奥で鉄の味がした。


『くふふ。

 心地よい悲鳴ではないか、ガルシアよ。

 数万の殺意をお主一人で受け止める……

 これぞ王の、魔王の悦楽じゃな』


 脳内で響くロキの嘲笑を、俺は歯を食いしばって無視した。


 ◇◇◇


 一方、連合軍の本陣。

勇者カイルは、白銀の甲冑を纏い、絶え間なく続く砲撃の閃光を見つめていた。


 彼の眼前にそびえ立つのは、かつての親友が作り上げた、禍々しくも美しい漆黒の監獄。

あれほど熾烈な砲撃を浴びながら、氷壁はただの一箇所も砕けず、街の静寂を守り続けている。

カイルには分かっていた。

あれは支配のための力ではない。

街の中にいる数万の難民、行き場を失った者たちを守るための、あまりにも不器用で必死な「盾」なのだ。


「……ガルシア、君は独りで戦い続けるつもりなのか」


 カイルの手にある聖剣が、悲しげに共鳴する。

将軍たちは「魔王の防御も時間の問題だ」と高笑いし、さらなる砲撃を命じている。

だが、カイルの瞳に映るのは、正義の名の下に一人の男を袋叩きにしている、世界の醜悪な歪みだった。


「勇者様、出撃の準備を。

 魔導砲が壁を穿った瞬間、貴殿が先鋒として城内に突入していただきます」


 随行する将軍の言葉に、カイルはすぐには答えなかった。

彼の左手の甲にある「太陽のあざ」は、主の迷いと同調するように、その輝きを失い、影を帯びていた。


 聖剣を抜くべきか。

それとも、この理不尽を切り裂くべきか。

カイルは震える拳を握りしめ、漆黒の盾の向こう側にいるはずの親友に、届かぬ視線を向け続けた。


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