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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第三章:理想郷の胎動と魔王の戴冠

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036.外交という名の鎖

 ノエルの決意を受け入れ、俺たちの「地下」は劇的な変化を遂げていた。

かつては俺が汚れ仕事を請け負うことでしか得られなかった物資が、ノエルの広げた獣人たちのネットワークを通じて、独自のルートで運び込まれるようになった。

彼女が各地の「虐げられた者たち」に呼びかけるたび、この地下の闇に希望を見出した専門家や異能者たちが、ひっそりと、だが確実に合流してくる。


 俺はただ、暴力で外敵を拒むだけの門番から、次第に一つの大きな流れの「中心」へと担ぎ上げられつつあった。


「ガルシアさん、新しい報告です。

 北の帝国との境にある森から、腕のいい鍛冶師の一族がこちらに向かっています。

 彼らもまた、帝国の強制労働に耐えかねていたそうです」


 地図を広げるノエルの表情は、かつてないほどに生き生きとしていた。

だが、地下が潤い、人口が増え、組織としての体裁を整えるほどに、俺の胸に去来するのは安堵ではなく、逃れようのない重圧だった。


(……救えば救うほど、俺は引き返せなくなる)


 ノエルという光を守るために始めた「箱庭」作りは、いつの間にか、既存の世界を脅かす「巨大な異物」へと膨れ上がっていた。

俺は自分の右手を握りしめる。

もはやここには、あのマインの山でカイルと笑い合っていた、しがない鉱夫の面影など残っていない。


 ◇◇◇


 一方、勇者カイルは、シトラス王国の豪華な馬車に揺られ、大陸列強諸国を巡る旅の途上にあった。

 表向きは「魔王復活の兆候に対する共同調査」という神聖な名目。

だが、その内実は、ガルシアを「大陸共通の敵」に仕立て上げるための、醜悪な政治工作そのものだった。


 最初の訪問先である神聖帝国プロインの離宮。

黄金の装飾で彩られた広間で、カイルを迎えたのは、贅を尽くした衣服を纏った老貴族たちだった。


「おお、勇者様。

 貴殿の働き、北の地まで響いておりますぞ。

 ……ところで、例の赤髪の魔人の件ですがな。

 我が国には、奴を確実に仕留めるための新型魔導砲の開発資金が少しばかり足りておらんのです。

 シトラス王国から色よい返事を頂ければ、我が帝国も『聖戦』への参加を確約しましょう」


 カイルは、無機質な瞳で老人の醜い笑みを見つめていた。

彼らが語るのは、魔王への恐怖ではない。

ガルシアという「脅威」を口実に、どれだけ自国の予算を引き出し、軍備を拡張できるかという算盤そろばんの音ばかりだった。


「……平和を守るための協力ではなく、交渉の道具ですか」


 カイルが漏らした乾いた声に、貴族たちは一瞬顔を強張らせたが、すぐに取り繕うように笑った。


「はっはっは、これは手厳しい。

 ですが勇者様、正義を成すにも金と鋼が必要なのです。

 ……貴殿も、あの魔人に慈悲など持っておられないでしょう?

 何しろ、奴はもはや君の友などではない。

 世界を滅ぼす『がん』なのですから」


 カイルの左手の甲にある「太陽のあざ」が、火傷のような熱を帯びて脈動した。

どこへ行っても同じだった。

西のフラン王国では、ガルシアが壊滅させた貴族の利権をどう埋め合わせるかの議論がなされ、バランの使節は、自分たちが逃した賞金稼ぎの不手際を棚に上げ、ガルシアの残虐性ばかりを強調した。


「(……これが、僕が守ろうとしている『世界』の姿なのか)」


 王城で浴びせられた「正義」という名の重圧。

そして、訪問先で突きつけられる人間の強欲。

カイルの中で、何かが音を立てて崩れていく。

彼は夜、迎賓館のバルコニーから、ガルシアがいるはずのクロスの方向を見つめた。

 

「……ガルシア。

 君はこの世界の醜悪さに嫌気がさした……、そういうことなのか?

 君があんな奈落の底に籠もった理由が……

 今の僕には、少しだけ分かる気がするんだ」


 だが、理解したところで、カイルに許されるのは「勇者」という役割を演じ続けることだけだ。

シトラス王国から同行している監査役の騎士が、背後から声をかける。


「勇者様、次の公式晩餐会の時間です。

 ……どうか、その陰気な顔をしまってください。

 民衆は、常に輝くあなたの笑顔を求めているのですから」


 カイルは無言で振り返り、鏡の中に映る「微笑む仮面」を貼り付けた自分を見据えた。


 地下では、ガルシアが望まぬ「王」へと担ぎ上げられ、

 地上では、カイルが望まぬ「装置」へと作り替えられていく。


 二人の間を繋いでいたはずの「正義」は、今や外交という名の強固な鎖となり、互いの首を絞め合っていた。

カイルの旅が続くほどに、ガルシアを討伐する包囲網は完成へと近づいていく。

それが、親友を救いたいと願うカイル自身の足跡によって作られていることはあまりにも皮肉であった。


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