第40話:探偵はどんな環境でも自分を曲げない
保安局取調室にて。
「うーん、もう一度聞いていい?」
「……だから、いきなり飛びかかってきたから……」
「それで……?」
「……投げ飛ばしちゃった」
「投げ飛ばしちゃったかぁ……」
「うん。」
「投げ飛ばしちゃあなぁ、ダメだよぉ……」
「それよりおじさん、お腹すいた。」
「今取り調べ中だからねぇ……」
「アイス。」
「駄目。」
「チョコ。」
「ダメ。」
「飴。」
「だめ。」
「……。」
「そんな顔してもだめだよぉ……」
人狼対策課課長のビリー・フルムとエルの会話だ。
取調室の近くでジンとシニトがこの会話を聞いていた。
「ジンさん……課長に取り調べさせて大丈夫ですか?かれこれ40分、ずっとこの調子ですよ?」
シニトが呆れ顔で言う。
「……課長、やる時はやるんだがな」
「あのままだと、たとえあの被疑者が無罪だとしても別の刑で起訴されちゃいますよ。……一体あの子は何者なんですか?あんな華奢な体で財閥の警備を投げ飛ばしちゃうなんて。」
「……俺も初めて見た時はそう思ったよ。」
——ヴーヴー
携帯の振動。
「……はい、もしもし……って、どうしたんですか急に……あ?」
ジンは小声になる。
「……いくらあなたの頼みでも、上層部がなんて言うか……はぁ、わかりましたよ。できるだけのことはします、では。」
ピッ。ジンは電話を切るとため息をつく。
「どうしたんですか、ジンさん」
「シニト、仕事だ。」
「え、えっ、ジンさん?」
シニトはポカンとした顔。
「いいから。」
シニトは訳もわからずジンについていく。
一方その頃、アキヤマたち。
「ちょっとー!?学校が終わって、さぁバイトと思ったらなんで僕が女装させられるはめになるんだよ!」
「しゃーねぇだろ。敵のアジトは女しか入れねぇんだ。それぐらい我慢したまえバイトくん。」
アキヤマがザザンの肩をポンと叩く。
遡ること1時間前。
「……わかったわ。エルにぶつかったやつの正体。名前はシルナ・ノヴァース。改革派組織『女狐』の一員ね。」
「改革派組織って、あれか。人狼の人権どうたらこうたらって騒いでる連中」
アキラがエルの散らかしていったものを片付けながら言う。まるで家政婦だ。
「人狼は絶滅した……なんて今では言われているけれど実際、女狐みたいな改革派組織は今でさえ人狼の権利を政府に認めさせようとしてる。」
ミヤビはパソコンから目を離さずに言った。
「……一般市民からすれば、いないはずの存在に権利認めろって言ってるようなもんだ。ハタからみれば、ただの頭のおかしい連中に映るんだろうな。」
アキラが一息入れながら言った。
「それじゃあその女狐たちを血祭りにあげて突き出せばエルを釈放してもらえるのかな……!」
「アヤカ……あなた、どうしたの?」
「大切な友だちを嵌めるなんて許せないもの!……今頃エル、きっと牢屋でお腹を空かせてるよ……」
「……いや、エルは多分あの環境でもきっと誰かをパシらせてるだろ。(半分合ってる)」
各々が牢屋の中のエルを自由に想像する中、扉が開く。ザザンだ。
「黄昏の龍騎兵魔界より見参!」
「……そういえば、なんか人数が少ないと思ったら、あんたいなかったわね。」
「ひど!つまり僕の影が薄いと言いたいのか?!せっかく久しぶりの出番で中二病キャラで来たのにぃ!この扱いひどくなぁい?!」
「……静かにして、メタ発言中二病キャラ。今甘いもの不足しててイライラしてるの。」
「属性を増やすな!ややこしいわ!」
「中二病拗らせるだけで十分ややこしいわよ」
ミヤビとザザンの間にアヤカが割り入った。
「はい、二人ともそこまでー。ミヤビもザザンもチョコレートあげるから落ち着いて。」
「「わかった。」」
「素直かお前ら」
アキラがその様子を見てツッコむ。その時、再び扉が開いた。アキヤマだ。
「よぉ、お疲れさん。急で悪いが出動だ。全員車に乗りたまえ」
「アキヤマさん。今までどこ行ってたんすか?」
アキラが聞くとアキヤマがスマホをチラつかせて言う。
「ちょっと昔馴染みの後輩くんに電話をしていてな」
「何か案があるのかしら。」
ミヤビがチョコと大さじ10の砂糖が入ったコーヒーを交互に飲みながら聞く。
「あぁ、ものすごくいい策さ。」
アキヤマはニヤリと笑った。




