第41話:車内にて
車内にて。アキヤマの運転する車はアザル街からポーリ街へと抜ける山道を走っている。
「……それで、策っていうのは一体なんなの。」
助手席に座るミヤビが運転中のアキヤマに聞く。アキヤマは待ってましたとばかりに答える。
「真犯人解明のお時間さ。敵のアジトは、ポーリ街の花街『エデン』だ」
「エデンって、大人たちの……その……ムフフんな店がたくさんある街か?」
学校終わりで爆睡しているザザンの横でアキラが少し顔を赤らめて聞く。
「そう。そのムフフんな店が集合する街だ。そしてさらに、今回は敵の正体もわかっている。真犯n……」
「……真犯人はパラディ区に位置するエデンにアジトを構える改革派組織、女狐の一員よ。」
ミヤビがアキヤマの言葉を遮るように言う。
「……。なんで知ってるんだ?」
アキヤマが聞く。
「……いや、保安局のデータベースにアクセスして引っ張ってきたんだけど。」
ミヤビが今日の天気は晴れだとでもいうように返す。
「……。お前保安局にもアクセスできるのかよ……おじさん怖いよ、君の技術が………」
ひいているアキヤマを横目にミヤビが続ける。
「女狐はエデンを牛耳る改革派組織。……構成員は女性のみ。」
「人間相手かよ……」
アキラが固唾を飲む。
「……確かにね。でも、奴らを人として見たら……」
一拍。
「死ぬわよ。」
「死ぬって……」
「女狐のボス、ヤーム。彼女はその美貌とは裏腹に非常に残忍な性格をしてる。詐欺、殺人はもちろん人攫いにさえ関わっているという噂よ。」
ミヤビはノートパソコンから目を離さずに言った。
「人攫い……『狂人』か。」
アキラが呟く。
「『狂人』って何?」
「……スラム街にいたとき、物知りなおっちゃんに教えてもらったんだ。人狼たちに人間を提供するために人攫いをしている連中がいるんだ……」
「そう。人狼に人間を売り飛ばす連中のことを巷では狂人と呼んでいるのよ。」
「そんなにやばい人たちなら保安局が動くはず……」
アヤカが言うとミヤビは首を横に振る。
「……残念だけど『噂』だけで保安局は動かないの……証拠がないのよ。決定的な、ね。データベースの情報を隈なく見たけれど、全ての情報はあと一歩で操作が打ち切られているの。」
「俺たちが知る由もない大きな力が働いているか、あるいは……」
アキヤマが口を開いたとき。
「——やっほー!着信だよ!早く出たら?——着s……」
「はいもしもし……おぉ、お前か。」
アキヤマが電話に出る。
「……おい今の聞いたか?」
アキラが小声で話す。
「うん。」
「……確かに。」
「「着信音がダサすぎる」」
「……あぁ。今、ポーリ街に向かってる」
「……」
「それで?」
アキヤマの表情が少しだけ真剣になる。アキラが横目で見た。
「……なるほどな。わかった。引き続き調査頼む。」
アキヤマは電話を切る。
「何?」
ミヤビが聞く。
「保安局からだ」
「「……!」」
「女狐について、追加情報が出たらしい」
車内の空気が変わる。
「どういう情報?」
アヤカが身を乗り出す。
「それがな……」
少し間。
「女狐のアジトが、エデンの地下にある可能性が高いらしい」
「地下!?」
アキラが言う。
「……表向きの店だけじゃないってことね……なるほど。だから保安局のデータも途中で途切れてたのね」
ミヤビが納得。
「おそらくな」
アキヤマが横目でミヤビを見る。
ミヤビがノートパソコンを操作する。
「……エデン周辺の地下構造を調べる」
「頼む。」
「ただし、保安局のデータだけじゃ不十分ね」
カタカタカタ……
「……見つけた。」
ノートパソコンの画面にポーリ街の古い地図が表示される。
「エデンの地下には、昔使われていた地下道がある」
「地下道……」
アヤカが息を呑む。
「つまり――」
アキラが察する。
「女狐は、その地下道を利用している可能性がある」
「じゃあ、そこから入れば……!」
アヤカが言う。
「簡単にはいかないでしょうね」
ミヤビは目を細めた。
「女狐が何年も保安局の捜査を逃れてきたなら……」
ミヤビが画面を見つめる。
「私たちが知らない仕掛けがあるはずよ」
「…………」
「なあ……」
アキラが後部座席を見る。
「ん?」
隣のアヤカがアキラに続き後部座席を見る。
「ザザン、さっきからずっと寝てない?」
「うん」
「…………すぅ……」
「こいつ、俺たちが大変な話してる後ろで爆睡してんだけど。しかも、寝かせてくれぇって書いたアイマスクつけて。」
「学校終わりだからねぇ」
アヤカが温かい目で見守る。
「……まあ、起きてから説明すればいいか」
その瞬間、
「……エデン……」
「!?」
「……フッ……僕の闇の力が……」
「寝言かよ」
アキラが呆れる。
「……地下に眠る……禁断の……」
「お前、寝ながら設定作ってんのか?」
「ザザンらしいね」
そして運転席では――
「……」
「……」
「なあ……」
アキヤマが口を開く。
「何?」
「俺、今からエデンに行くんだよな?」
「そうだけど」
「……このメンバーで?」
「そうだけど」
「……」
「何?」
「いや」
アキヤマはハンドルを握り直す。
「俺たち、潜入捜査向いてなくない?」
「今さら?」




