凡骨はアイデアを希う
ひとまず、お世話になった冒険者への挨拶程度であればカーマスさんも見逃してくれるらしい。
今日も無事に訓練は終わり、今現在何も起きていないことからそう判断する。
相も変わらず扱いは悪いし、訓練後の片づけが俺に丸投げという状況に何ら変化はないけれど、とりあえずカーマスさんのヘイトを買わずに済んだ。
おかげで五体満足で今日も今日とてクラスメイト達が派手に壊した訓練用の道具の修繕と片づけに勤しむことができている。
となれば次に考えるのはろくにレベルが上がらなくなったこの状況の打開策。
一番手っ取り早いのはやっぱりどう考えても冒険者として魔物を討伐することだ。
でも、先日のカーマスさんの様子を見るにそれはほとんど自殺と変わらない。
未だになぜカーマスさんが魔物を討伐させてクラスメイト達のレベルを上げさせないのかは全く理解ができないし、憶測の一つも出て来やしないけれどそれでもカーマスさんがそれを俺がすることを徹底的に拒絶しているということはよく分かっているつもりだ。
それこそ俺が言うことを聞かないのであれば殺してしまっても構わないという程度には。
であれば他の方法を考えるしかあるまい。
それもできればレベルを上げてステータスを上げる以外の方向性で。
なにしろカーマスさんのあの態度はそもそも俺が強くなることを好ましく思っていない節がある。カーマスさんにとって俺が強くなることは都合が悪いと言い換えても良い。
単純に方法を変えてレベルを上げるようになったところで、今度はその新しい方法を禁止されてしまっては敵わない。
カーマスさんの意図なんざ俺個人の意見としてはどうでもいいが、カーマスさんが自身の意見を無理やりに押し付けるだけの権力も腕力も持ってしまっている以上そういうわけにもいかない。
真正面から争えるだけの何かが俺にあればよかったが、ないものはないのだから仕方がない。
ないものはないとして、そのうえでうまくやるしかない。
というわけで他の方法。
冒険者としての活動が禁止された時点で考え始めてはいたのだが、かれこれ一週間結局のところ解決に結びつくようなアイデアは出ていない。
正直、かなり困っている。ほんとにどうしよう。せっかくクラスメイトに追いつけるチャンスだったのに。
「……ま、しょうがないか」
数の合わない木刀の最期の一本を見つけて保管場所にしまいながら呟く。
しょうがない。
しょうがないで済ませて良いかを考えると憂鬱になるが、焦ったところでアイデアは湧いてこない。
同様に必死に頭を捻って悩ませて苦しんだところで出ないアイデアは出ない。
なら、やれることは限られている。
「……よし」
最後に一通り対応の抜け漏れがないかチェックを済ませて保管庫をあとにする。
そうして向かったのは資料室。ここ最近、というかこの世界に来てからわりとずっとお世話になっている。
知識が増えれば使える情報も増える。
使える情報が増えたら取れる選択肢も増える。
取れる選択肢が増えたらその中に今抱えた問題を解決するアイデアもあるかもしれない。
そんなわけでここ一週間は他に出来ることもないので空いた時間はひたすらに入り浸っていた。
まぁ、その結果今日まで何の成果も得られていないのだけど。
「とりあえず、今日はスキル関連の書物の続きから……」
資料室に向かう道すがら、今日残された時間で何をしようかと考える。
ぶつくさと独り言を呟きながら資料室に足を踏み入れて口を閉じた。
これまでクラスメイトがいたことなんてまるでない資料室。
そこで見覚えのある顔が両手で本を抱えてきょろきょろと周りを見渡していた。
「…………」
……独り言を聞かれてはいないだろうか。
不安になって扉の隅から中の様子を見るも彼女がこちらに気付いている様子はない。
なおも変わらず何かを探しているようで、資料室の中心できょろきょろと周囲を見渡しながらふらふらとあちこちの棚に近寄っては離れてを繰り返していた。
よかった。ことと次第によっては明日からの訓練に俺の姿はなかっただろう。




