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異世界でも凡骨は希う  作者: 日暮キルハ


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凡骨は訝しむ

 ──口は災いの元とはよく言ったもので、言葉を発した次の瞬間には体が盛大に吹き飛ばされていた。


「…………っ!?!?」


 背中が壁に盛大に衝突して、何が起きたのか理解できずにそのまま地面に座り込む。

 胸の前に構えた右腕にじんわりとした痛みを感じ、視線を向けると前腕が中程から大きく腫れあがっていた。


「…………っ」


 状況理解。

 カーマスさんは正面でこちらを見下すように立っていて、よく分からないけれど利き腕が気づけば大けがをしていた。

 あと、背中が地味に痛い。たぶん、これは壁に打ち付けたから。


 壁に打ち付けたのはなんでだ。

 体が吹き飛んだからだ。

 それはなぜ。


 ……分からない。

 分からないが、憶測で語るならカーマスさんに何かをされたのだと思う。

 というかそれ以外には考えられない。


「……っ」


 ……殴られたんじゃないだろうか。

 カーマスさんの右手は握りしめられている。

 ただそれだけの理由で、証拠と呼ぶにはあまりにも弱いけれど、状況から理解できることだけで可能性を組み立てるならその可能性が高い。


 ──何をされたのか視覚じゃ捉えきれないほどの速さで、右腕が感覚すら鈍化する威力の殴打を受けた。


「……ふぅ」


 余計なことは言うものじゃない。

 別に知らないわけではなかったけれど、改めてそう痛感した。


「身の程を弁えろ。これ以上私の手を煩わせるつもりなら、次はその程度では済まさない」


「……」


 冷たい目で、少なくとも人間相手に向けているとは思えない目で、カーマスさんはそう告げる。

 どうやらこれでも手加減はしてくれていたらしい。右腕の感覚ないんですけど、もしかして手加減とか苦手なのかな?

 多少は強くなったと思ったけれど、現実はいつも厳しい。


 無言を肯定と受け取ったらしくカーマスさんは座り込む俺をそのまま放置してその場をあとにした。

 何ら問題はない。俺の冒険者としての活動は終わりだ。少なくともほとぼりが冷めるまでは。


「……色々と惜しいけど、仕方ない」


 本当に惜しい。本当だったら今日だって経験値を稼ぐはずだったのに。

 でも、あの状態のカーマスさんに逆らう胆力は残念ながら俺にはないし、ここで変に意地張ったところで向かう未来はどれもこれもろくなものじゃないのは間違いない。

 最悪殺される可能性だってある。

 あの目を見てはっきり分かった。カーマスさんにとって俺の命はその辺の石ころと変わらない。


 命あっての物種だ。

 とりあえず一週間くらいは従順に振舞っておこう。


◇◆◇◆◇


 そうこうしているうちに一週間が経った。

 この間に上がったレベルはたったの1。

 いよいよ今後どうするか真剣に考えたほうが良さそうだ。


 ここ数日は厳しかったカーマスさんからの監視の目も徐々に緩くなってきている。

 まぁ、あれはわざと見ているとこちらに理解させることで余計な気を起こさせないことを目的としているっぽかったけど。

 本来であれば俺のようなとるに足らない小物ではなく紅帝君や黒崎さんたちのために使わなければいけない時間だ。そろそろ釘を刺すような視線も外れてくる頃だろうとは思っていた。


 もちろん監視の目が薄くなったからといって冒険者としての活動を再開しようなんて気は毛頭ない。

 確実に自身で監視していないだけで誰かしらに俺のことを見張らせているだろうし、俺ではその視線に気づくこともきっとできない。

 ここで監視がなくなったと油断して危険に飛び込むようなことをするのはさすがに避けたい。


「えっと……ニトロさん達いるかな……」


 とはいえ、監視が緩くなってきているのは事実。

 どこまでがカーマスさん的にセーフなのか正確には分からないけれど、レベルの上がることのない冒険者仲間へ挨拶程度なら見逃されるはずだ。

 すっかり顔をださないまま時間ばかりが過ぎてしまった。

 これ以上迷惑をかけないためにも冒険者としての活動が当面は難しいとニトロさん達には伝えておきたい。


「あ、いた。…………?」


 ギルドを見渡し、ニトロさんの姿を見つけた。

 隣にはドールさんもいる。

 そして、その隣には見知らぬ男性がいた。


「……ニトロさん。こんばんは」


「……っ。レイ君、こんばんは。久しぶりだね」


「すみません。色々あって来れなくて。ドールさんもお久しぶりです」


「えぇ、久しぶりねレイ君」


 声をかけてみるとやはり二人だった。

 けれど、その隣にいる男性の紹介がされることはなかった。


「あの……こちらの方は?」


 待っていても紹介されることはなさそうなので紹介してほしいという意図を込めて質問を投げる。

 すると笑みを浮かべてドールさんが答えた。


「コトーマよ。療養中に出会ってすっかり気が合っちゃって。凄いのよ、彼。まだ若いのに金級冒険者なの」


「コトーマだ。ドールから聞いてるよ。鉄級の割りには動けるらしいな」


 ドールさんの腰に手を回し、言いながら差し出される手。

 それを取ろうとして、一瞬手が止まった。


「……?」


「どうかしたか?」


「……いえ、すみません。なんでもないです。えっと……もしかしてコトーマさんがパーティに入られたんですかね?」


「あ、あぁ。そうなんだ。すまないね、レイ君。何の相談もなしに」


 一瞬感じた嫌悪感。

 それを振り払うように質問を投げかける。

 答えは申し訳なさそうな様子のニトロさんから返ってきた。

 しかしそうか。この人がニトロさん達のパーティに入るのか。

 金級なら実力的にかなりの戦力強化に繋がるだろう。

 凄くいいことだ。……いいことの、はずだ。


「……あの……実はパーティのことで少し話がありまして……」


 喉の奥に魚の小骨が引っ掛かったような小さな違和感。

 それを拭えるだけの情報はなく、掘り下げるだけの時間もない。

 俺に出来るのはどこか不安げな表情を浮かべるニトロさんへしばらく冒険者として活動ができなくなったと告げることだけだった。

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