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異世界でも凡骨は希う  作者: 日暮キルハ


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凡骨は都合が悪い

 拳大の石が頭に直撃したら人は死ぬ。

 事故とはいえ、そういうことが普通に起きる以上、やはりこの世界が異世界人に向けるスタンスが「いのちだいじに」であるとは到底考えられない。むしろ「ガンガンいこうぜ」寄りだろう。


 いや、純粋に俺が要らない人材であるが故の対応の可能性ももちろんないとは言えないが、この一点においては俺も他のクラスメイトも立場はそう変わらない。

 それこそ、紅帝君達のような「代えの利かない人」でもない限りは。


 考えがないわけがないので何かしら俺には想像もつかないような事情があるであろうことは間違いないがそれにしても分からない。

 とはいえ、分からないからと考え込んでいては今度こそ頭が潰れたトマトのようになりかねない。

 それが嫌ならば、ひとまず今はせこせこと己が役割に勤しむべきだ。


 壁にぶつかって砕けた石から視線を外しながら気を取り直す。

 そうして今度こそ石が飛んでこないように周囲の様子に気を配っていると不意にカーマスさんが声を張り上げた。


「……予定を変更して、今から模擬戦を行う。名前を呼ばれた者は前へ」


 これはこれまでにないことだった。

 騎士様方の指導が始まってから二週間程度が経過したが、それまで一度も途中からやることが変わるなんてことはなかった。

 それもカーマスさんの表情を見るに最初からそうするつもりだったというわけには見えない。どちらかといえば何か必要に迫られてそうすることに決めたように見える。


 何だか知らないが、こういう時は大抵ろくなことにならないとこれまでの経験で嫌というほど学んだのでできることなら今すぐ逃げ出したい。


「白鷺と十真、前へ」


 ほら見ろ言わんこっちゃない。

 前に俺が半殺しにされたこと忘れたんですかね?いや、むしろ覚えてるからもう一回やろうってことですか?俺にも人権をください。


 まぁ、言ったところで仕方ない。

 俺の意見なんて通るわけもないし、この状況下で口を開けば開くだけ状況が悪くなることは火を見るよりも明らか。

 紅帝君は何やら言いたげに一歩前に踏み出そうとしていたけれど、その前に黒崎さんに手首を掴まれていた。二人とも優しくて嬉しいね。


 仕方がないので大人しく前に出る。

 対面に立つ緑川君に油断はまるでなかった。

 よくもまぁこんな雑魚相手にここまで警戒できるものだ。普通もっと舐めてかかるでしょうに。


「──はじめ」


 驚くほどあっさりと開始の合図が出された。

 それと同時に緑川君の手が眼前に迫っていた。


「……っ」


 間一髪、眼前でこちらを掴もうと伸ばされた手が空を切る。

 勢いそのままに数歩後退して武器を構え、正面から相手を見据える。


 油断はしていなかった。

 開始の合図なんてものは本来の戦闘においてあるわけがないのだから前に出た瞬間から警戒は怠っていなかった。

 だから最初の掴みは躱せたのだけど、なんで緑川君は当たり前のように開始の合図に合わせて襲ってこれるんですかねぇ。

 相変わらずスペックが高すぎる。こんなのとクラス一の雑魚を戦わせちゃダメでしょう。


「そこまで。十真の勝ちだ」


 さて、どうやってここから凌いだものか。

 頭をフル回転させて生存ルートを探っているとカーマスさんの声が割り込んだ。


「……ありがとうございました」


 なんかよく分からんけど俺の負けらしい。

 理屈は知らないが、これ以上痛い目にあうのはごめんなので一礼をして引っ込んでおく。

 

「白鷺、訓練が終わったら私のところに来るように」


 もしかしたら痛い目にあうのはこれからなのかもしれない。


◇◆◇◆◇


「冒険者としての活動を辞めなさい」


 開口一番にカーマスさんはそう言った。


「他に君がすべきことはいくらでもあるはずだ。冒険者なんてものに貴重な時間を充てていいわけがない。分かったな?」


 いきなりのことに何と返せばいいか分からずにいると有無を言わさない勢いでカーマスさんはこちらの返答を待たずにそう続けた。


「…………すべきこととは例えばなんですか?」


 冒険者として動いていることを知られていたのかとか今更そこに介入するのかとか色々思うところはあるけれど、何よりもまずはカーマスさんの発言の真意が掴めない。

 だから、問いかける。


「級友のサポートだ。凡骨の君がいくらレベルを上げたところでできることはたかが知れている。そんな無駄なことに時間を割くくらいなら優秀な祝福(ギフト)を授かった級友のために時間を使うべきとは思わないのか? 自分勝手が過ぎるぞ」


 …………嘘。とまでは言わずとも詭弁だ。

 一見筋らしきものは通そうとしているが、俺が時間を費やしたところでクラスメイト達が急に強くなるわけもないのでその理論は破綻している。

 そして、そんなことに本気でカーマスさんが気づけないとも思わない。

 つまり、カーマスさんには何か他にこんな話をし出した目的がある。


 そもそも、俺が冒険者として勝手にレベルを上げることは別にカーマスさんにとって悪いことではないはずだ。

 うまくいって強くなったのであればそれはそれで戦力として使えるし、死んでも俺の代わりなんていくらでもいる。

 本来であれば介入する必要性すらない。

 実際、いつカーマスさんが俺が冒険者として活動しているかを知ったのかは分からないが今日までは放置されていた。


 ……逆に言えば、今日までは放置しておいてよかったのだ。

 今日、急に放っておくわけにはいかなくなったのだ。


 今日、普段と違ったのはなんだ。

 石がいつもと違って放っておいたら直撃コースで飛んできて危うく死ぬところだった。

 急にカーマスさんが模擬戦をやるとか言い始めて緑川君にまたしてもボコボコにされかけた。


 ……いずれも、結果的に俺は無傷でそれらを乗り切った。

 ……いや、乗り切ってしまった、のか。


 だとすれば、こうなった原因は──


「…………もしかして、俺が強くなるとカーマスさんの指導方針的に都合が悪いからですか?」

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